愛しい君と一緒に隠れたい
森の冷たい土の匂いが、近すぎる距離で混じり合っている。
葉擦れの音が遠くで揺れ、誰かの気配が通り過ぎるたび、俺は無意識に腕に力を込めた。
――弱っている。
それが、ひと目で分かった。
いつもなら背筋を伸ばし、凛と立つ彼女が、今は俺の胸に体重を預けている。
息は浅く、頬は熱を帯び、視線は少し定まらない。
それでも。
弱さを晒すことに怯える様子はなく、逃げる気配もない。
俺にだけ、預けている。
その事実が、胸の奥を強く打った。
腕の中の温度。
近すぎる呼吸。
絡みそうになる吐息。
視線が合う。
潤んだ瞳が、迷いもなく俺を映している。
……危険だ。
庇護欲が先に立つ。
守らなければ、支えなければ、ここで誰にも触れさせてはいけない。
そう思うのに、同時に、別の熱が込み上げる。
あと数ミリ。
顔を下げれば、触れられる距離。
――耐えろ。
毒のせいで、思考が甘くなる。
境界線が曖昧になる。
彼女の存在だけが、世界の中心に浮かび上がる。
俺は床に片手をつき、彼女の逃げ道を塞いだまま、深く息を吸った。
触れない。
触れないと、決めた。
それでも、腕を緩めることはしない。
「……大丈夫だ」
声は、思ったより低かった。
彼女が小さく頷くのを見て、胸が締めつけられる。
見惚れているのは、どちらだ。
視線を逸らせないのは、どちらだ。
耐えた。
確かに、耐えた。
だが、分かってしまった。
――この距離で、何も感じないほど、俺は強くない。
この体勢のまま、俺はただ、彼女を包み込む。
狩人の本能を、必死に押さえ込みながら。
愛しい君と、一緒に隠れるために。
エルンスト視点




