霧の下の転入生(きりのしたのてんにゅうせい)
灰色の古びたバスは、最後のヘアピンカーブを登り切ろうと喘ぎ、今にも息絶えそうな獣のように軋んだ。埃まみれの窓の外は、濃密な霧が全てを飲み込んでいた。木々もガードレールもなく、ただ薄いミルクに煤を混ぜたような、鈍い白が視界を占めるばかりだ。
レンは冷たい窓ガラスに額を押し付けた。吐息が曇りとなって広がる。人差し指でその上に漠然とした円を描き、そして勢いよく一本の線を引いて打ち消した。
「これで終わりだ」レンは呟いた。その声は、エンジンの轟音と、前の座席で眠りこけている副運転手のいびきの中に沈み込んだ。
16歳にして、レンは既に三つの学校を追放されていた。彼が暴力的だったり、成績不振だったわけではない。むしろ、理論科目では常にトップだった。彼が追い出された理由はいつも一つ。他者には見えないものが見えること、そしてそれについて黙っている術を知らないことだった。前の学校で、レンが数学教師の背後に「首の折れた女がいる」と叫んだ時、クラスはパニックに陥った。その結果、彼は退学通知と、天宮私立学園への片道切符を受け取った。
天宮。美しい響きの名前だ。まるで渡り鳥の安住の地を思わせる。だが、レンにとってそれは、高級な監獄に他ならなかった。学園は三霧山の頂上に孤立しており、携帯の電波は老人の心臓の鼓動のように途切れがちで、Wi-Fiは贅沢品の概念でしかなかった。
「着いたぞ、坊や」
嗄れた運転手の声が響き、レンは思考の流れから引き戻された。バスは急ブレーキをかけ、大きく揺れて停車した。圧縮空気を排出するドアが、耳障りな甲高い音を立てて開く。
レンは肩にかけたリュックサックを直し、もう一方の手で重い黒いスーツケースを引きずりながら、バスを降りた。
冷気が即座に襲いかかり、ウールのコートを通り抜け、骨の髄まで染み込んでいく。しかし、レンを震え上がらせたのは気温ではなく、空気の匂いだった。腐った松の葉の匂い、湿った土の匂い、そして微かに混じる... 蝋燭の燃え残りのような匂い。
目の前には、三メートルを超える巨大な鉄の門がそびえ立っていた。蔦が絡まるような鋭い模様が刻まれている。門の両脇には、二体のガーゴイル(石獣)の彫像が、虚ろな眼窩で新参者をじっと見下ろしている。門の奥には、尖った屋根が灰色の空を貫く、ゴシック様式の古めかしい建物群が霧の中に隠見していた。
「神崎レン君か?」
警備小屋から、感情のない抑揚の平たい声が響いた。青黒い警備員の制服を異様なほど几帳面に着こなした中年の男が現れた。彼は痩せこけ、やつれた顔をしており、その目はまるで一週間眠っていないかのように隈が濃かった。
「はい、そうです」レンは努めて落ち着いた声で答えた。
守衛はそれ以上何も言わず、ただ本門の横にある小さな扉を静かに開けた。錆びた蝶番がきいきいと鳴き、その音は身の毛がよだつほどの静寂な空間にこだました。
「この石畳の道を真っ直ぐ進め。本館は望月館だ。校長が待っている。松林の森には迷い込むな。今日の霧は...腹を空かせている」
最後の言葉はあまりにも小さく、レンは聞き間違えたかと思った。「腹を空かせている?」聞き返そうとしたが、守衛は既に背を向け、小屋の中に引っ込むと、扉をピシャリと閉ざしてしまった。
レンは唾を飲み込み、スーツケースを引いて門をくぐった。石畳の上を車輪が不規則に転がる音だけが、唯一の現実の音だった。道の両側には、天を突くほど高い古松が並び、その枝葉が絡み合って自然のアーチを形成し、夕方のわずかな光すら遮っていた。
奥へ進むほど、レンは胸騒ぎを感じた。この感覚には覚えがあった。廃墟の前に立っている時や、古い墓地のそばを通る時の感覚と同じだ。うなじの皮膚が粟立ち、誰かに胸の上に座られているように、胸郭が重苦しい。
彼は、一人ではなかった。
レンは立ち止まり、左側、石畳の道と黒々とした松林の境界線に目をやった。漂う霧の中に、彼は見た――あるいは、見た気がした――人影を。小さく、ぼんやりとした白い影が、ごつごつした松の木の根元に身を潜めていた。
レンは目を細めた。どうやら女子生徒のようで、プリーツスカートの制服を着て、長い髪が顔を覆っている。彼女は動かず、レンの方を向いている。
「おい!」レンは少し震える声で呼びかけた。「君も生徒か?」
影は返事をしなかった。だが、その青白い腕がゆっくりと上がり、遠くに見える本館の方を指し、次にその人差し指を曲げ、レン自身の胸をまっすぐ指し示した。
冷たい突風が吹き抜け、枯葉をざわめかせた。レンが瞬きをした瞬間、その影は消えていた。残ったのは、古松の老木と、ただ白い霧だけ。
「最悪だ」レンは呟き、スーツケースの取っ手を強く握りしめた。「入学前に幻覚を見るとはな。本当に気が狂ったのかもしれない」
彼は足を速め、ほとんど駆け足で本館に向かった。望月館は、ヨーロッパの古城のように荘厳に、威厳を持ってそびえ立っていた。青々とした苔むした石壁、高くそびえるステンドグラスの窓。
大広間に入ると、レンはその豪華さ、しかし同時に漂う陰鬱な雰囲気に圧倒された。床は鏡面のように磨かれた黒い大理石が敷かれ、豪華なクリスタルシャンデリアの光を反射している。今は事務時間にもかかわらず、空間は絶対的な静寂に包まれていた。
「神崎レン。時間通りね」
石の床を叩くハイヒールの音が静寂を破った。螺旋階段を降りて二階から一人の女性が降りてきた。彼女は黒一色のスーツを完璧に着こなしており、綺麗に結い上げられた髪は、冷たく白い首筋を露わにしている。彼女の顔立ちは美しかったが、その美しさは鋭利で厳格であり、瞳は氷のように冷たかった。
「こんにちは。転入生として...」
「知っているわ」彼女は遮った。声は響き渡り、鋭い。「私が麗春校長よ。天宮へようこそ」
彼女はレンの目の前で立ち止まり、その眼差しはX線スキャナーのようにレンを頭からつま先までスキャンした。校長は服だけでなく、レンの魂の奥底にある最も暗い秘密まで見抜いているように感じられた。
「あなたの経歴は、実に...興味深いわね」麗春校長はわずかに皮肉な笑みを浮かべた。「存在しないものを見る。公序良俗を乱す。三つの学校から拒絶された。天宮は、手に負えない厄介者を集めるゴミ捨て場だとでも思っているのかしら?」
レンはリュックサックのストラップを強く握りしめ、爪が手のひらに食い込んだ。「僕は学ぶためにここに来ました。両親は、ここが最高の場所だと言いました」
「最高?」麗春校長は乾いた笑いを漏らした。「そうよ、私たちはエッセンスを育てる。しかし、エッセンスとなるには、研磨のプロセスを生き残らなければならない。ここでは、弱さや狂気に対して寛容ではない」
彼女が指を鳴らした。ホールの暗闇から一人の男子生徒が現れた。背が高く、痩せていて、顔の半分を占めるような丸い縁の眼鏡をかけている。髪は鳥の巣のようにボサボサにカールし、制服はやや乱れ、ネクタイは緩く締めている。
「こちらは、10年A組の学級委員補佐、カイ君。あなたのルームメイトにもなるわ。カイ、彼を東棟の寮に連れて行きなさい。校則を徹底して伝えるように」
「承知いたしました、校長先生!」カイは甲高い声で答えたが、レンは彼が麗春校長の前で手がわずかに震えていることに気づいた。
「行こう」カイは目配せでレンに合図し、囁いた。
レンは校長に頭を下げ、急いでカイの後を追った。彼らが大広間を出て、あの権威ある女性の視界から外れた瞬間、カイは長く、大きなため息をつき、肩を落とした。
「エジソン電球に誓って、あの人の前にいるとギロチン台の前にいる気分だよ」カイは胸をなで下ろし、振り向いてレンに歯を見せて笑った。「やあ、新入り。よくやったね、麗春校長の目を三秒以上見つめられるなんて。僕の記録は二秒半だよ」
「あの人...そんなに恐ろしいのか?」レンは尋ねた。歩きながら周囲を観察する。学園の敷地は信じられないほど広大だった。
「恐ろしい?いや、『戦慄すべき』って言葉を使うべきだね」カイは声を潜めて囁き、きょろきょろと周りを見回した。「噂じゃ、あの人、古代の魔術師一族の末裔らしいよ。まあ、それは後でいいや。天宮っていう名の『高級救貧院』へようこそ。僕は『カイ・グーグル』、この学校のことは何でも知ってるから」
「僕はレン。よろしく」
カイは、本館と寮をつなぐ、屋根付きの長い薄暗い廊下をレンを連れて歩いた。空は既に夜の闇に沈みかけている。敷地内の街灯が点灯したが、その黄色い光は、ますます濃くなる霧を払うことができない。
「ルールその一」カイは人差し指を立て、真面目な声になった。「夜10時以降は絶対に部屋から出るな。ここの門限は冗談じゃない。教師が君を罰するんじゃない、『別の何か』が君を捕まえるんだ」
レンは眉をひそめた。「別の何か?」
「うん。霧の中をさまよう...何か、だよ」カイは含みを持たせて言った後、すぐに笑って緊張した雰囲気を払おうとした。「ルールその二:西棟の古図書館には決して一人で行くな。そしてルールその三、これが一番重要だ。もし教室に空席の机を見つけても、絶対に座るな。そして、その席の生徒について尋ねるな」
「どうして?」レンは尋問好きの探偵が持つ生来の好奇心を刺激された。
カイは蔦に覆われた古い赤レンガの建物の前で立ち止まった。彼は振り返り、分厚い眼鏡の奥の瞳に、真の恐怖の色を浮かべてレンを見た。
「だって、そこは『第十三の席』だから。僕たちのクラス、10年A組の名簿には12人しかいない。でも教室には常に13組の机と椅子がある。そして時々...先生たちは、その13番目の名前を点呼するんだ」
レンは背筋が凍りついた。カイの怪談話のせいではない。その時、彼が寮の三階の窓を見上げたからだ。
そこには、埃っぽい窓ガラス越しに、青白い顔が彼らを見下ろしていた。それは先ほど松林で見た、ぼやけた影と瓜二つの顔だった。そして今、レンはもっとはっきりと見た。その目には...黒い瞳孔がなかった。ただ、地獄のように暗く深い二つの空洞があるだけだ。
それは笑っていた。耳元まで裂けたような、薄気味悪い笑顔を。
「レン?何を見てるんだ?」カイが肩を叩いた。
レンはハッと我に返り、カイを見て、それから窓を見上げた。
誰もいない。ただ、窓が閉まっているにもかかわらず、深紅のベルベットのカーテンが微かに揺れているだけだった。
「いや...何でもない」レンは嘘をついた。心臓が激しく鼓動している。「疲れているだけみたいだ」
「部屋に行こう、304号室。僕は窓際のベッドを確保したからね、取り合いは無しだぞ」カイはまくし立てながら、レンのスーツケースを引いて階段を上り始めた。
レンは後を追ったが、不安感は増大するばかりだった。彼は、祖母が「魔除け」にと残してくれた、銀の目の形のペンダントに手を置いた。ペンダントは皮膚の上で焼けるように熱くなっていた。
天宮は単なる学校ではない。それは罠だ。そしてレンは、今、両足でその中へ踏み込んでしまったのだ。
304号室はレンが想像していたよりも広かった。木製の床、鉄製の装飾が施された二つのシングルベッド、そして部屋の隅には(塞がれてはいるが)小さな暖炉があるクラシックな内装だ。カイは部屋の半分を、SF映画のポスター、積み上げられた本、そして分解された様々な電子機器で自分の領土に変えていた。
「君はそっちのベッドね」カイは指差した。「クローゼットは右側。トイレは廊下の突き当りの共同。ああ、お湯は夜の6時から8時までしか出ないから、早くシャワー浴びた方がいいよ」
レンは荷解きを始めた。数着の服をクローゼットにしまい、お気に入りの本を机の上に置いた。古びた革表紙のノートを取り出した時、手が止まった。
ノートに挟まれていた一枚の紙片が床に落ちた。それはレンのものではない。黄ばみ、端が焼け焦げた紙片には、乾いた血の色をした濃い赤色のインクで、乱雑な文字が書かれていた。
「人形を信じるな。奴らは嘘をつく。心臓を墓地の下で探せ」
レンは呆然とした。この紙は全く見覚えがない。誰が彼の荷物に入れた?家で?バスの中で?それとも...彼が学園に入った直後に?
「カイ」レンは静かに呼びかけ、紙を掲げた。「これ、何か知って...」
「あ、あ、あ、あ!」
カイの甲高い悲鳴が、レンの言葉を遮った。カイは窓際に立ち、震える手で夜の闇を指さしていた。
レンは慌てて駆け寄った。304号室の窓からは、寮の裏庭、松林の森と隣接する場所が見下ろせた。
黄色い高圧灯の光の下、石畳の庭の真ん中に、ある物が横たわっていた。
藁で作られた案山子。
しかし、その案山子は天宮学園の制服を着ていた。そして、藁の頭の代わりに、首には木製のマネキンの頭が取り付けられていた。その頭は半分叩き割られ、目から頬にかけて血のように真っ赤に塗られていた。
そして、その案山子の胸には、輝くカッターナイフで突き刺されたネームプレートがあった。
吉田ユウキ(よしだユウキ) - 10年A組
「ユウキが...」カイは唇を震わせ、顔から血の気が失せ、眼鏡が鼻先までずり落ちた。「ユウキは...先週行方不明になったんだ。学校は、彼が実家に戻ったって言ってたのに...」
レンは案山子を凝視した。カイのような恐怖は感じなかった。背筋に冷たい空気が走るのを感じたが、同時に、奇妙な興奮も湧き上がっていた。門の前で、そして三階の窓で見た「それ」が...その案山子のすぐ隣に立っていた。
その白い影は304号室の窓を見上げていた。そして、指を唇に当て、「静かに」という合図を送った。
レンは手に握った紙を強く握りしめた。人形を信じるな。
両親が彼に望んだ天宮での平和な生活は、始まる前に終わってしまった。ここは学校ではない。ここは舞台だ。そして、最も恐ろしい劇の幕が、今、上がったのだ。
「カイ」レンは不思議なほど落ち着いた声で言った。目はまだ庭の影に釘付けだ。「守衛を呼べ。そして、その吉田ユウキっていう名前について、君が知っていること全てを、僕に話してくれ」




