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黒き鷲の使者

7 黒き鷲の使者


 夕暮れの王宮に、一羽の黒い鷲が舞い降りました。足には赤い封蝋で閉じられた手紙が結びつけられています。

 宰相が封を切ると、中から現れたのは恐ろしい文言でした。


『タトゥ王国の第三王子パニエる。その正体は、女である――』


 ゼパオウの心臓はどくん、と重く跳ねました。

 王妃ソンは蒼ざめ、すぐに手紙を火にくべます。

 けれど遅すぎました。すでに庭園にいた近衛騎士たちが、その一文を目にしていたのです。


「王よ……これは、まことなのでしょうか?」


 鋭い視線がゼパオウに突き刺さります。

 ゼパオウは静かに目を閉じ、髭を震わせました。


「……誰が何を言おうと、パニエるは我が息子、いや――我が王国の光じゃ」


 その言葉は確かに響きました。しかし噂は炎のように広がり、翌日には城下の子どもたちまで囁き合うほどになってしまったのです。


8 試練の広場


 数日後、ナウル国からの使者が王宮に乗り込みました。

 漆黒のマントを翻し現れたのは、隣国の王子グラディス。パニエると同じくらいの年頃ですが、すでに冷たい威圧感をまとっています。


「タトゥ王国よ! もし本当に“男の王子”がいるというのなら、広場で我が力と比べてみよ!」


 広場に集まった群衆がざわめきます。

 パニエるは胸を張り、すぐに応えました。


「逃げはしません。王子であれ王女であれ、心が強ければ道は開ける! 私は私のタトゥで証明します!」


 その台詞に、広場はどよめきました。

 ダンも駆け寄り、弟の肩を叩きます。


「泣き虫兄貴と思ってたら……かっこいいじゃねぇか。よし、オレも一緒に闘う!」


9 タトゥの試合


 太鼓が鳴り響き、タトゥ同士の「試合」が始まりました。

 それは剣や槍を交えるものではなく、タトゥの紋章を輝かせ、力をぶつけ合う神聖な儀式でした。


 グラディスの腕に浮かんだのは、黒い狼のタトゥ。牙をむき出しにし、咆哮するように光を放ちます。

 一方、パニエるの腕に揺らめいたのは――波の紋章。青白い光が広場を包み込みました。


「黒き牙よ、敵を砕け!」

「流れる波よ、すべてを包み、そして越えろ!」


 二人の声が響き合い、光が爆ぜます。群衆は思わず息をのんで立ち尽くしました。


 やがて狼の影が押し寄せ、パニエるをのみこもうとします。

 その瞬間、ダンが叫びました。


「パニエる! オレのタトゥを重ねろ!」


 ダンの胸に浮かぶタトゥは、真っ赤に燃える太陽。

 彼が両腕を広げると、波と太陽が重なり合い――海に燃える朝日のような光となって広がりました。


「兄と弟、ふたつの魂が一つになれば――負けはしない!」


 パニエるの叫びと共に、狼の影は波と光に呑まれ、やがて霧のように消えていきました。


10 勝利と疑念


 広場に歓声が轟きます。

 グラディスは膝をつき、悔しげに吐き捨てました。


「くっ……しかし! 真実は隠せぬぞ。女である者に王座を継ぐ資格があるのか!」


 その声に人々がざわつきました。

 しかしパニエるは、堂々と胸を張って答えます。


「男か女かは関係ありません! この国を守る心と、皆と絆を結ぶ力こそが、未来を開くのです!」


 その言葉は剣より鋭く、誰の心にも突き刺さりました。

 人々は次々と拳を掲げ、声を合わせます。


「パニエる王子ばんざい!」

「男でも女でも、我らの仲間だ!」


 ゼパオウも立ち上がり、髭を揺らして叫びました。


「聞いたか、グラディス! これがタトゥ王国の答えだ!」


11 黒幕の影


 ナウル王子は唇を噛みしめ、しかしどこか笑っていました。


「ふふ……なるほど。だが我が国に噂を流したのは私ではない。もっと大きな影が、お前たちを狙っているぞ」


 そう言い残し、黒い鷲と共に去っていきました。

 パニエるとダンは顔を見合わせます。


「兄上……影とは何でしょう?」

「分からねぇ。けどな、オレたちが一緒なら、どんな影だってぶっ飛ばせる!」


 パニエるは笑い、拳を差し出しました。

 ダンも力強く拳をぶつけ合います。


「兄弟のタトゥは、永遠にひとつ!」


12 未来への誓い


 その夜。王宮の庭園に、再びローズマリーの香りが漂っていました。

 ゼパオウは子どもたちを抱き寄せ、低く語りかけます。


「我が子らよ。これからは試練の連続じゃ。だが忘れるでない――タトゥは心を映す。心が真っ直ぐであれば、どんな嵐も乗り越えられる」


 パニエるは真剣にうなずきました。

「父ぎみ。私がどんな姿であっても、必ずこの国を守り抜きます!」


 その瞳は炎のように輝いていました。

 ゼパオウは微笑み、重々しく言葉を返します。


「その誓い、王として、父として受け取ったぞ」


 月明かりの下、兄弟のタトゥは再び重なり合い、淡い光を放ちました。

 やがて来る「影」との戦いに向け、タトゥ王国の物語は新たな幕を開けるのです。

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