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ときめき順守

 未来は現在(いま)と地続きだから、じたばたしていてもしょうがない。

 だから、天が墜ちようと、地が浮かぼうと、キャロル・ライは気にしない。


 キャロルはキラキラした物が好きだ。宝石・貴石はその代表格。だから、近くで開かれている科学教室で水晶作りをするのを知って、すぐに応募した。水晶がどうやってできるのか気になったし、〝自分だけの水晶〟ができるかもしれないことにときめいた。女子高生生活を謳歌するキャロルには、〝ときめき〟が何よりも重要事項だった。

 だから、いざそのときに科学教室に向かわず、道端で見かけた天使を追いかけてしまったのも、より強い〝ときめき〟のためだった。

「何してるの?」

 天使はアスファルトにしゃがみ込み、ゴミ捨て場の箱の下を覗き込んでいた。金色の髪。水色のワンピース。白い翼。そこまでは理想の天使像なのに、肩にかけた幌布の鞄の古臭さと汚れ具合が、妙に生々しい現実感を伝えてきた。

「猫を捜しているんだ」

 茶色と黒の(ぶち)模様の、と言われるが、キャロルは見ていない。

「よしっ! 手伝ってあげる!」

 天使との邂逅に、水晶作りのことはすっかりキャロルの頭から飛んでいた。この冒険は今だけの特別なものであると、本能が訴えていた。

 天使と連れ立って街の中を歩き回る。見慣れた通りだけでなく、普段なら入りこまないような区画や路地も捜した。新しい景色にキャロルは、興奮しっ放しだった。危険はなかった。天使が悪いものを追い払ってくれたのだろうか。 

 一時間半ほど経った頃だろうか。捜し猫は見つかった。茶色と黒の斑模様の、少し太り気味の猫。ふてぶてしさを感じるその子は、八百屋の時代遅れな屋根の上で日向ぼっこしていた。

 呼んでも下りてこなかったので、キャロルがこっそり屋根に登って捕まえた。抵抗されなかったが、猫はあまりにやる気なく、洗濯物のようにキャロルの腕に掛かった。

「助かったよ」

 猫を受け取った天使は言った。脇に手を入れられてびろんと伸びた猫を見るに、どうも馴れている様子。

「何でその子を捜してたの?」

「近所のおばあさんの猫なんだ」

 行方不明を捜してくれと頼まれた、と。

 なんてことのない日常風景に天使が入り込んでいることが、キャロルには面白くて仕方がなかった。もしかしたら、これからそういう世の中になるのかも。終末を目前にした世界で、キャロルは夢想する。


 そんな世の中は、すぐには訪れなかったが。

 キャロルはたびたび天使と遊ぶようになった。

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