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味わう

 この世に生まれ落ちたからには、世界を堪能し尽くすべきだ、とハノン・オールは考える。

 世界が終わるというのなら、なおのこと。楽しまなければ、もったいない。


 グルメ巡りをただの〝道楽〟と(けな)す者ほど愚かな奴はいない、とハノンは思う。現地で味わえる馳走は、その土地の食文化の集大成。皿の上で表現された〝暮らし〟を感じ取ることは、むしろ高尚な行いであるとさえ思う。

 舌の上で語られるその土地の暮らしを味わいながらハノンが自説を語ると、なんと幸いなことに、同席者は話が分かる者だったらしい。

「恵みに富んだ場所、恵みの乏しい場所。世界には色々あるが、それが食に表れるのは面白い。皿の上の食べ物一つ見ただけで、その土地の者がどういう生活をしていたのかが見て取れる。人々の営みを感じるのに、これほどのものはない」

 力強く頷いて同調するのは、なんと天使だった。まだ子どもと言って差し支えのない見た目。服装はトレーナーとジーンズと野暮ったいけれど、ポニーテールにした金の髪は太陽の色。そして、背中に生えた翼が、紛れもなく神の使いであることを示している。

 ……まあ、意外に俗っぽいところも見えるのだが。天から落ちてきたというから、それでなのかもしれない。

 天使は、隣にいる呆れた顔をした人間と旅をしているとのことだった。明確な目的はなく、ただ世界を見て回っているとのこと。

「物好きだ」

「他人のことが言えるのか?」

「僕は、自覚あってやっているから」

 終わる世界を知って何になる。

 旅行記録のブログを書くハノンに、そう言ってくる者は多い。見聞きしたことを書き残しても、どうせ後世の役に立たない。そもそも後世がないのだから、と。

 だが、ハノンは役に立つために旅しているわけではない。ただ、現在を味わわなければもったいない、とその衝動だけで生きている。

「味わうか……なるほどな」

 この天使は話が分かる。

「そう。だから」

 ハノンは目の前の皿に手を伸ばす。

「この注文ミスのデザートは、僕がもらうことにする」

 注文のときにうっかり店員が数に入れてしまったらしく、お代は良いからと寄越されたアイスクリーム。溶ける前に誰かが食べないといけない、と思っていた。

「ずるいぞ! 私も食べたいっ!」

「二人とも、子どものようなことは止めなさい!」

 天使の連れが店員に小皿を頼んで、喧嘩は終了。


 滅多に味わえない、格別なものだった。

 後にハノンは、このときのことをブログにそう書き残す。

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