高給取りと言われた受付嬢たちは新任のギルドマスターによって解雇されました ~新しく導入した魔道具が不具合を起こして対応できなくなったので戻ってこいと言われましたがお断りします~
昔々、コレンという町にある冒険者ギルドに5人の美しい受付嬢がいました。
彼女たちは冒険者たちに対して献身的であっという間に冒険者ギルドの人気者になりました。
ところが、ある時冒険者ギルドに本部から派遣された1人の男が来てから一変します。
男の名はジリー。
欲望に忠実な者です。
ジリーは自分が冒険者ギルドのトップになるためにギルドマスターのオッツーに巧妙かつ姑息な罠を仕掛けたのです。
罠に嵌ったことでオッツーはその座を退くことを余儀なくされました。
新たにギルドマスターの地位を手に入れたジリーが次に目を付けたのは金と女です。
冒険者ギルド内部を調べるとマチルダ、ミリア、ムゥナ、メイサ、モモルの5人の受付嬢に高い給金が支払われていることにジリーは気づきました。
1人は自分の女にして残りを解雇しようとそれぞれに声をかけたのですが・・・
『好みじゃない』
『キモい』
『ダサい』
『生理的に無理』
『わたくしとでは釣り合いが取れませんわ』
ジリーは5人の受付嬢から見事に振られました。
怒ったジリーは受付嬢たちに復讐するために動き出します。
どうやって受付嬢たちから仕事を奪えるか?
『そうだ! 受付嬢と同じ仕事ができる魔道具を作ればいい!』
ジリーは早速町一番の魔道具職人を探しに行きました。
それから1ヵ月が経過したある日のこと。
「マチルダ、ミリア、ムゥナ、メイサ、モモル、お前たちは今日をもってこの冒険者ギルドの受付嬢を解雇する」
マチルダたちはジリーに呼び出されて来てみれば突然の解雇宣告を言い渡された。
「なんで私たちが解雇されないといけないんですか?」
「ちゃんと仕事してるじゃん」
「ギルマスみたいに遊んでないわよ」
「横暴だ」
「納得のいく理由をお聞かせ願えますか?」
マチルダたちは解雇に納得いかないのか説明を求める。
「理由だと? ただ冒険者たちとベラベラ喋っている高給取りなお前たちが現状を理解していないとはな。 いいか、よく聞け。 お前たちの作業はほかのギルド職員より遅い。 そして、上司である俺を少しも敬おうともしない。 さらに仕事に見合わない給料を支払っていることだ」
それを聞いたマチルダたちは激高する。
「丁寧な仕事をするのは当たり前じゃないですか!!」
「適切な情報を伝えなければ苦情がくるでしょ!!」
「依頼によっては調査に時間がかかるのは仕方ないだろ!!」
「確認漏れなんかしたら怒られるのは私たちなんですけど!!」
「冒険者たちとのコミュニケーションをとることは大事ですよ!!」
マチルダたちは自分たちは丁寧な仕事をしていると訴える。
「黙れ! これはもう決まったことだ! 大人しく従え!!」
「では、お聞きしますが私たちが抜けた穴はどう塞ぐのですか?」
マチルダが質問するとジリーは口をにやけさせて自分の横にある物を指さす。
「これを使うんだよ」
そこには奇妙な魔道具が1つ置かれていた。
「見ろ! この最新の魔道具を! これ1つで依頼の受付・確認や素材の買取・支払いも自動で行ってくれる優れモノだ! これさえあればお前たちみたいに無駄な時間と労力をかけずに済むのだ!!」
ジリーが魔道具を自慢するもマチルダたちは不審な目で見る。
「なんですかこれ? こんなんで本当に私たちの代わりが務まるんですか?」
「ああ、務まるよ。 なにしろ、この魔道具はコレンの町の名高い魔道具職人によって作られた物だからな」
コレンの町のことなら何でも知っているマチルダたちではあるが、どの魔道具職人であるか聞いてみることにした。
「その魔道具職人って誰ですか?」
「ふっ! 聞いて驚け! この町きっての天才魔道具職人! その名もライアークだ!!」
「ああ・・・ライアークさんね・・・」
ライアークと聞いてマチルダたちはげんなりした。
ジリーが頼ったライアークという人物は一言でいえば変人だ。
それも悪い意味で。
自らを天才と称し、常日頃から変な魔道具ばかりを製造してはコレンの町全体に迷惑をかけることから町の人たちは畏怖をこめて『生きた人災』と呼んでいた。
余所者であるジリーは魔道具職人を求めてコレンの町中を歩いていた時、たまたま露店にある魔道具を見てこれだと店主であるライアークに話しかけた。
ライアークは身振り手振りを交えて自分の作った作品のすばらしさをジリーに猛アピールした。
その熱量に絆されたジリーはこいつしかいないと商談を持ち掛ける。
話を聞き終えたライアークは二つ返事で了承するとジリーが望む魔道具を早速作り始めた。
それからしばらくしてライアークから魔道具ができあがったと連絡を受けるジリー。
工房に行くとライアークが出迎えてくれて中に通されると部屋の中央にはジリーが発注した魔道具が置いてあった。
「注文の品だ。 あんたの要望通り作ってやったぜ」
ライアークの言葉にジリーはにやりとする。
「くっくっく・・・これで俺を振った女たちに復讐できるぞ」
「気に入ってくれて良かったぜ。 これはこの魔道具にかかった製作費だ」
「どれどれ・・・って、高っ! これは暴利だろっ!!」
受け取った紙を見てジリーは驚く。
そこに書かれた額はマチルダたち受付嬢の月給を全部足してもはるかに高かった。
「あん? てめぇの要望通りに作ってやったんだぞ! 文句でもあんのかゴラァ!!」
先ほどまで温厚だったライアークだが、今は全身に怒りのオーラを纏ってジリーに詰め寄る。
「え、あ、いや、その・・・」
突然の豹変ぶりにジリーは狼狽える。
「それとも何か? 最初から代金を踏み倒すき満々で俺に発注したと?」
「て、手元にはないが金ならある。 た、ただ、これはあまりにも高すぎる・・・」
「何を言うかと思えばオーダーメイドなんだから高いのは当たり前だろが!!」
「ひいいいいいぃ・・・」
あまりの圧に身が縮こまる。
ライアークはジリーに顔を近づけると低く囁いた。
「本当に金はあるんだろうな?」
「か、金はすぐに用意する。 だから待ってくれ」
ジリーはライアークの脅しに屈して払うと宣言した。
「いいだろう。 待ってやる。 今日の夕刻までに持ってこい」
「わ、わかった・・・」
圧から解放されたジリーは工房の外へ続く扉に歩いていく。
その背中にライアークが声をかける。
「逃げるなよ。 逃げたら地獄の底まで追いかけるからな」
「は、はいっ!!」
それからジリーは夕刻までに指定された金額をライアークに払うのであった。
ライアークのことを思い出して武者震いするジリー。
すぐに頭の中から打ち消すとマチルダたちに高圧的な態度をとる。
「とにかくだ! もうお前たちに仕事はない! 今すぐ冒険者ギルドから出ていけ!!」
「・・・わかりました。 では、今日まで働いた給金を今すぐください」
「ふん、お前たちに払う金などない」
マチルダたちは怒りを露わにするも相手をするだけ無駄と悟ったのかジリーを睨みつけてから何も言わずに部屋から出て行った。
「ふぅ・・・やっと邪魔者がいなくなった。 これでこの冒険者ギルドは俺のものだ。 はっはっはっはっはっ・・・」
ジリーの高笑いが部屋に響き渡った。
一方、解雇されたマチルダたちは冒険者ギルドを出るとコレンの町中を歩いていた。
「あーあ、クビか・・・」
「これからどうする?」
「そうねぇ・・・酒でも飲みに行こうか」
「そうだな」
「このうっ憤を晴らしましょう」
満場一致したところでマチルダたちは近くの酒場に入るとテーブル席に着いた。
注文を取りに来たウエイトレスに大ジョッキ5人分と酒のつまみを頼む。
しばらくしてウエイトレスが注文の品を次々と運んでくる。
机の上にはジョッキと大量のつまみが置かれ、宴会が始まった。
マチルダたちは乾杯すると酒を飲みながらこれからのことについて話していた。
「それでみんなはどうする? 私は違う町に行って次の仕事を見つけるわ」
「当てのない旅に出るよ」
「実家に帰って家業でも手伝おうかな」
「彼氏と結婚」
「久々にお父様に会いに行きますわ」
マチルダたちはそれぞれやりたいことを話す。
「ってことは、みんなで集まって飲むのも今日で最後になるかもね・・・」
「そうなるわね」
「ちょっと寂しいわ」
「うん」
「急な事で湿っぽくなるのは仕方ないですわ。 それよりも今日はとことん飲みましょう!!」
「「「「おおー!!」」」」
その日マチルダたちは人の目も気にせず酒を飲みまくった。
仕事で溜まっていたストレスが爆発してギルドマスターへの暴言が止まらない。
そして、昼間から始めた宴会は夜遅くまで続くのであった。
それから数日後───
冒険者ギルドではライアークが作った魔道具によるトラブルが続出していた。
「おい! この魔道具はなんだよ! 壊れているんじゃないのか!!」
「納品分の癒し草を買い取ってもらおうとしたら数が足りないから買い取れないとかふざけたこと言われたんだけど!!」
「粗悪品だと言われたから買取キャンセルしたら素材が返ってこないのはどういうことだ!!」
冒険者たちは次々とジリーにクレームを叩きつける。
あまりの多さに辟易しながらもジリーは対応することにした。
「お前らの使い方が悪いからだろ? 見本を見せてやる。 誰か納品物を貸してくれ」
しかし、その場にいた冒険者たちは誰も素材を提供しない。
「どうした? 確認しないことには魔道具が不具合かどうかわからないだろ?」
「ギルマス、自分で用意してやってみろ」
1人の厳つい冒険者が言うとほかの冒険者も頷いた。
「なんだと? ここの冒険者ギルドのトップである俺に逆らおうというのか?」
「俺たちはギルマスが設置した魔道具で散々な目にあっているんだ。 誰も提供なんかするわけないだろ」
「そうだそうだ」
「やるならギルドで保管している物でやりなさいよ」
冒険者たちは抗議だけしてジリーの言葉には耳を貸さずにいた。
「ちっ! 仕方ない・・・ちょっと待ってろ」
埒が明かないと悟ったジリーは倉庫に行くと癒し草10個と魔石を持って戻ってきた。
「いいか、ここに癒し草が10個ある。 これをこの魔道具に入れると自動的にやってもらえるからよく見ておけ」
冒険者たちに癒し草が10個あることを確認した上で魔道具の買取ボックスに癒し草を10個入れてから買取ボタンを押す。
ボックスが閉じると魔道具は確認作業を自動で行うも赤いランプが点灯してギルド全体に響くように警告音を発生させた。
『ピピピピピッ・・・数が足りません』
「はぁ?! 何を言っているんだ? ちゃんと動け!」
ジリーは魔道具の側面を思いっきり叩く。
バンッ!!
魔道具は再度確認作業を自動で行うもまた赤いランプが点灯して警告音を発生する。
『ピピピピピッ・・・数が足りません』
「なんで買取できないんだ? キャンセルだ」
ジリーは業を煮やしたのかキャンセルボタンを押す。
ボックスが開き、そこには見るも無残な癒し草が9個あった。
「な・・・なんじゃこりゃぁっ?!」
ジリーはボロボロになった癒し草を手に取る。
「どうして癒し草がボロボロになって戻ってくるんだよ!!」
「それはこの魔道具が壊れているからだろ」
冒険者たちはそら見たことかと微笑する。
ジリーは顔を真っ赤にして魔石を取り出した。
「まだだ、この魔石ならどうだ。 これなら買い取ってくれるはずだ」
魔道具の買取ボックスに魔石を入れてから買取ボタンを押す。
ボックスを閉じて魔道具は確認作業を行うも赤いランプが点灯してまたも警告音が発生する。
『ピピピピピッ・・・買取不可』
ジリーは魔道具の側面を蹴った。
ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!
「はぁ?! ふざけるな! ちゃんと確認しろ!!」
『ピピピピピッ・・・買取不可』
キャンセルボタンを押してボックスが開くと魔石がなくなっていた。
「なんで戻ってこないんだよ!!」
ジリーは魔道具の側面を何度も蹴った。
ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ・・・
「これでわかっただろ。 この魔道具は不良品だってことを」
冒険者たちの言葉にジリーは怒りの形相で睨みつける。
「認めない・・・こんなの認められるものか! お前らの中の誰かがこの魔道具を壊したに違いない! 誰だ! 魔道具を壊したのは! 大人しく出てこい!!」
ジリーの些細な一言によって冒険者たちの不満が大爆発した。
「はぁ? なんで俺たちがそんな面倒臭いことしないといけないんだ!!」
「私たちはただでさえ買取できなくて迷惑しているのよ!!」
「こんな魔道具さっさと廃棄して元の営業に戻せよ!!」
冒険者たちのあまりの剣幕にジリーはたじろいだ。
「そ、それは・・・できない」
「できないってどういうことだよ!!」
「こちとら生活が懸かっているんだぞ!!」
「ギルドの依頼で危険を冒してまで取りに行ったんだから責任もって買取なさいよ!!」
冒険者たちはさらにジリーに詰め寄った。
「できないものはできないって言ってるだろうが! 大人しくギルドマスターである俺の言うことを聞け!!」
ジリーの横暴な態度に冒険者たちは冷めた目で見ていた。
「・・・はぁ・・・もうこれ以上は話しても無駄みたいだな」
「俺、今日限りでここをホームにするの辞めるわ」
「私も」
見限った冒険者たちは次々と冒険者ギルドから出て行く。
ジリーは慌てて冒険者たちに声をかける。
「ちょ、ちょっと待て! お前たちどこに行くつもりだ!!」
「どこってこことは違う町や村だよ」
「ここにいても実りはないからね」
「別の場所で冒険者家業をしていく予定だ。 じゃあな」
冒険者たちが全員出て行った。
残されたのはジリーと冒険者ギルドの職員だけだ。
「ちっ! まぁいい・・・冒険者なんてこの世にごまんといるんだ。 あいつらがいなくても問題ないだろ」
ジリーが悪態をついているとギルド内にいる全職員がジリーのところにやってきた。
「ギルマス、お話があります」
「なんだ? 全員集まって・・・仕事をしろ! 仕事を!!」
「私たち全員今日をもってここの冒険者ギルドを辞めます」
「はぁっ?!」
突然の退職宣言にジリーが激怒する。
「お前たち何をいうんだ! 冒険者ギルドを辞めるだと? そんなこと俺が許さんぞ!!」
「あのさ、さっきギルマスが追い出したのがここの冒険者ギルドに最後まで残ってくれた冒険者たちなんだけど」
「それ以外の冒険者はギルマスが用意した魔道具が使い物にならないからって、さっさと見切りをつけて出て行ったわよ」
「先が見えないこの場所に残る意味なんてないんだよ」
職員たちを止めるのは不可能と悟ったジリーは奥の手を使った。
「お前たち! ここに残らないのなら金は払わないぞ!!」
ただ、その脅し文句は彼らには通用しなかった。
ダンッ!!
腕に覚えのある男性職員数人が素早くジリーを取り押さえて地に這いつくばらせた。
「ぐはっ!!」
「お前何か勘違いしてないか?」
「恩情で生かされているのが理解できないとかバカじゃないの」
「本当のこというなよ。 こいつが可哀そうだろ」
身体を動かそうとするも頭脳派であるジリーでは肉体派の職員たちを振りほどくことはできない。
なんとか自由を得たいジリーはこの状況を打開しようと頭を働かせる。
「こ、こんなことしてただじゃ済まさんからな!!」
そこに別の男性職員がジリーの顔を蹴り飛ばしたあと、頭を思い切り踏んだ。
「がっ!!」
「何をいうのかと思えばそれで脅したつもりか?」
「今お前の生殺与奪の権利は俺たちが握っているのがわからないのかよ」
「バカは死ななきゃ治らないっていうし、いっそ殺しちゃおうか」
誰かがナイフを持ってきて抜くとジリーの目の前に突き刺した。
抜き身の刃を見てジリーの顔が徐々に蒼褪めていく。
「や、やめろ・・・生意気な態度をとったことは謝る、金もちゃんと払う、だから命だけは助けてくれ・・・」
「わかればいいんですよ」
「では、退職金の支払いをお願いしますね」
それから職員たちはジリーを引き摺ってギルドマスターの部屋に行くと備え付けの金庫の鍵を開けさせた。
中に入っている金を勤続年数や仕事の貢献度を考慮して職員たちに配っていく。
「ギルマス、ありがとうございます」
「これで心置きなくこの仕事を辞めることができます」
全員に配り終えると金庫の中にはほんの少しの金しか残っていなかった。
「それではギルマスお世話になりました」
「さようなら」
「お元気で」
職員たちが立ち去るとギルド内に残っているのはジリーただ1人だ。
「・・・お、おのれ・・・どいつもこいつも俺を虚仮にしやがって!!」
怒りに任せて右手で壁を叩くとあまりの痛みにジリーはのた打ち回る。
「ぐおおおおおぉ・・・痛ぇ・・・はっ! こんなことしている場合じゃない! 早く新しい職員と冒険者を確保しないと!!」
痛みが治まったところでジリーは立ち上がる。
「このままじゃ今までのような人を顎で使い、金を散蒔くような贅沢三昧な生活ができなくなってしまう! 急がなければ!!」
ジリーは人員を確保するべく外へ出た。
冒険者ギルドを出ると町は活気に満ち溢れていた。
「くそっ! どいつもこいつも幸せそうな顔しやがってっ!!」
不幸のどん底にいるジリーにしてみれば羨ましいを通り越して恨めしい気持ちだ。
「とにかく人員を確保しないと・・・」
ジリーは近くを歩いている青年に声をかける。
「おい! そこのお前! この町のために冒険者をやれ!!」
突然声をかけられた男はビクッとしたあと、ジリーを見て嫌そうな顔をして無言でその場を立ち去った。
「ちょっと待て! なぜ逃げる! くそっ! おいっ! そこの女! 俺のために冒険者ギルドの受付嬢になれ!!」
「ひぃっ!!」
女は悲鳴を上げて走って逃げた。
「なぜだ?! なぜ俺から逃げるんだ!!」
ジリーがやっているのは勧誘ではない。
脅迫だ。
プライドの高いジリーは自分より身分が低い者に頭を下げようという考えを持ち合わせていない。
故に一般人と接するときはどうしても威張るような口調になってしまう。
それから視界に入った人たちを手当たり次第片っ端から声をかけるも、ジリーの上から目線で高圧的な物言いに誰も耳を傾けず相手にすらされなかった。
そんな行動を繰り返していたら遠くから声が聞こえてくる。
「あれです! あの人です!!」
声のほうを見ると警邏隊がやってきた。
「おい、そこのお前! 動くな!!」
「丁度いい。 お前たち俺の下で馬車馬のように働け」
ジリーの言動に警邏隊は危ない奴を見る目になっていた。
「何をいっているんだ? あいつ」
「頭おかしいんじゃないか?」
「どうする? このまま野放しにしていると周りに迷惑がかかるぞ」
話し合った結果、場所を変えることにした。
「とりあえず話は詰所で聞こうか。 おい!」
警邏たちがジリーを取り押さえる。
「くっ! 離せっ! 貴様ら! 俺を誰だと思っているんだ! こんなことをしてただでは済まさんぞ!!」
2人の警邏に両腕を抱えられ、ジリーは暴言を吐きながら詰所に連れていかれた。
程なくして詰所に到着するとジリーを尋問する。
ジリーは今自分に起こっている不幸な状況を懇切丁寧に説明する。
が、警邏たちからしてみれば話の内容が支離滅裂で、意味不明で、理解不能だった。
そして、出した結論は『関わるな』だ。
警邏たちはあっさりとジリーを釈放すると仕事へ戻った。
それに不満を覚えたジリーが暴言を吐くも警邏たちは相手にしなかった。
誰からも相手にされないジリー。
コレンの町中を歩き回っていると乗合馬車のところに多くの人々がいて、その中にジリーが見知った5人の女性たちがいる。
その人物たちは数日前にジリーが解雇したマチルダたちだ。
マチルダたちはそれぞれが旅行用のカバンを持って自分たちが乗車予定の馬車が来るのを待っていた。
「そうだ・・・人気者であるあいつらがいれば冒険者ギルドは復活し、全部元通りになって俺の地位も安泰だ」
ジリーはマチルダたちに近づくと声をかける。
「おい! お前ら!!」
「「「「「?」」」」」
声に反応してマチルダたちが振り返る。
そこにいるジリーを見てマチルダたちは面倒臭い顔をした。
「マチルダ、ミリア、ムゥナ、メイサ、モモル。 先日の解雇は白紙にするから俺のところに戻ってこい!!」
「ごめんなさい」
「嫌だね」
「断る」
「拒否」
「謹んで辞退しますわ」
マチルダたちは間髪入れずに『ノー』と答える。
「はぁ? なぜだ? 俺が戻ることを許すんだぞ! そこは泣いて喜ぶべきところだろうが!!」
ジリーのあまりにも大きな怒声に周りにいる人たちが不審な目で見る。
「だいたい私たちを追い出しておいて戻ってこいなんて虫のいい話ね」
「どうせ導入した魔道具が不具合でも起こしたんでしょ」
「冒険者たちがやってられないっていって逃げたのが目に見えるわ」
「ギルマスのやり方についていけずに職員たちも辞めたのでしょう」
「1人では何もできないからとわたくしたちに泣きつかないでください」
マチルダたちに図星を突かれてジリーは顔を真っ赤にする。
「それに私たちは受付嬢の仕事に未練なんてないから今更戻ってこいと言われてももう遅いです。 あとは1人で何とかしてください」
「いわせておけば・・・」
ジリーが言葉を続けようとした時、遠方から突如豪華な馬車がやってきてマチルダたちの前に止まった。
扉が開かれるとそこには厳つい巨漢が姿を現した。
(あ、あのお方はロバース様!!)
男の名はロバース。
冒険者ギルド本部の最高責任者にして全冒険者ギルドを束ねる総帥でもある。
ジリーはすぐさま襟を正すとロバースに声をかけた。
「これはロバース様、こんな辺境の町までよくぞおいでください・・・ぐへぇ!!」
ロバースは一礼するジリーを邪魔だと人がいないところへ吹っ飛ばす。
それからモモルのところに向かうとそのまま腕に抱きしめた。
「モモルちゃん! 会いたかったよぉーっ!!」
「お父様?! どうしてここに?!」
モモルの問いにロバースはすぐに答える。
「数日前に部下からモモルちゃんが仕事をクビになったって聞いて父さん仕事なんてほったらかして急いでやってきたんだ」
「お父様、仕事をほったらかすのはどうかと思われますが・・・」
「何を言っている! モモルちゃんより大切なものなんてこの世に存在しないぞ!!」
「その言葉、お母様の前では絶対に言わないでくださいましね。 いくらわたくしでも庇いきれませんので」
起き上がったジリーは蒼褪めた顔でロバースとモモルを交互に見る。
「ロ、ロバース様をお父様呼ばわり?! も、もしかしてモモルは・・・」
モモルを呼び捨てにしたジリーをロバースが殺気混じりの目でジロリと睨む。
「んん、モモルお嬢様はロバース様のご息女であらせられますか?」
「それがどうした? っていうか、お前誰?」
「あ、え、俺・・・んん、私は・・・」
「この方はコレンの町の冒険者ギルドのギルドマスターであるジリーさんですわ」
モモルが紹介するとロバースの身体に殺気が纏われた。
「そうか・・・貴様がモモルちゃんをクビにした奴かあああああぁーーーーーっ!!」
あまりの怒声にジリーは恐怖でガタガタと身体を震わせていた。
ロバースはモモルから離れてジリーの目の前まで移動する。
「ジリーっていったな。 ちょっと顔貸せよ」
それだけいうと返答も待たずにジリーの首根っこを掴んで引き摺っていく。
十分に距離が離れたところでジリーを解放して手をポキポキと鳴らしていた。
「よくもモモルちゃんをクビにしてくれたな! (死ぬ)覚悟はできているんだろうな!!」
「お、お、お、お待ちください! ま、まさかモモルお嬢様がロバース様のご息女とは露知らずとんだご無礼を・・・」
「知ってたら止めたと? 随分と舐めた真似をしてくれるじゃないか!!」
「ひいいいいいぃ・・・」
ロバースの圧に負けてジリーは縮こまる。
マチルダたちが遠目で見ているとそこに別の声がかけられた。
「メイサ!!」
声に反応してメイサが振り向くとそこには軽装鎧を着た爽やか系男子が立っていた。
「! ああ、ブレイス!!」
メイサの口からブレイスと聞いた者たちが視線を向けると皆目を見開く。
「おい、ブレイスって・・・あのブレイスか?」
「国主催の剣闘大会5年連続優勝者で殿堂入りしたあの?」
「私見たことあるわ。 英雄ブレイス様で間違いないわ」
英雄ブレイス。
平民でありながらその類稀なる剣さばきで13歳で国主催の剣闘大会に初参加初優勝。
以降、5年連続で優勝して殿堂入りを果たす。
その圧倒的強さからいつしか英雄と呼ばれるようになった。
そんな経歴を持つブレイスだが周りを他所にメイサと抱き合う。
「会いたかった、メイサ」
「私もよ、ブレイス」
「君から仕事を辞めさせられたって連絡来た時には驚いて急いでここに向かったんだ」
「私のことを心配してくれてありがとう」
ブレイスとメイサは再び深く抱きしめ合う。
一旦離れるとブレイスはジリーをサンドバックにしているロバースを見て驚く。
「あれは冒険者ギルドの総帥であるロバース殿だよね? いったい何をしているんだ?」
「あそこにいるジリーっていうここの冒険者ギルドのギルドマスターに詰め寄っているの」
「ギルドマスター?」
それを聞いたブレイスが一瞬能面のような顔になるもすぐにいつもの顔に戻った。
「メイサ、悪いけど彼と少し話してくるよ」
「わかったわ。 ブレイス、愛しているわ」
「僕もだよ、メイサ」
ブレイスはメイサを軽く抱きしめたあと、ジリーのところに向かった。
ロバースは気付いたのかジリーを殴るのをやめる。
入れ替わるようにブレイスがジリーの前に立った。
「あ、あなた様は英雄ブレイス様?! た、助けてください! このままだとロバース様に殺され・・・」
縋りつこうとしたジリーだが、ブレイスの右手に持っている抜身の剣を見て動きが止まる。
「今恋人のメイサから聞いたんだけど、君がメイサを不幸にした人で間違いないよね?」
ブレイスは剣の刃のない部分でジリーの頬をぺちぺちと叩く。
死を感じたのかジリーはその場で失禁してしまう。
「うん? 何あれ?」
誰かが別の方角を見るとロバースが乗ってきた馬車とは違う豪華な馬車が多くの騎乗した者たちを引き連れてやってくる。
そこにはグレアー侯爵家の御旗が掲げられていた。
グレアー侯爵家。
この国では五本の指に入る家柄で政治や軍部に多大なる影響力を与えている。
ムゥナの前までやってくると皆馬から降りてその場で膝を突く。
「ムゥナ様、お迎えに上がりました」
「ご苦労」
「「「「「はっ! ムゥナ様のためならば我ら火の中水の中どこへでも参ります!!」」」」」
騎士の一人が馬車の扉を開けるとそこから1人の男が姿を現した。
「お久しぶりです、父様!!」
「久しいな、ムゥナ。 息災で何よりだ」
馬車から現れた人物、それはグレアー侯爵その人である。
「なぜこのようなところに?」
「理由がなくては大事な娘に会いに来てはいけないのかい?」
「そういう訳ではないですが、領地の仕事はほったらかしていいのですか?」
「ふぉっふぉっふぉっ・・・わしがいなくても領地には息子や娘たち、有能な部下がいるから問題ない。 それよりムゥナが職を失ったと連絡を受けて気になって来てしまった」
グレアー侯爵はムゥナの頭を軽くポンポンと叩く。
「父様、私を子供扱いしないでください」
「ムゥナがいくら年を取ろうともわしからしてみれば可愛い子供よ」
「もぅ・・・」
ムゥナは不貞腐れるもグレアー侯爵の優しさに嬉しさを感じていた。
ある程度可愛がるとグレアー侯爵は近くにいた部下に問う。
「ところでムゥナにちょっかいを出した者がどこにおるか所在は掴めたか?」
「あそこにおります」
部下の1人がジリーを指さした。
「もっと遠くに逃げたのかと思っていたが、こんな近場にいたとはな。 ムゥナ、ちょっと待っておれ」
「わかりました」
グレアー侯爵はジリーのところまで行く。
ブレイスはグレアー侯爵を見るとその場を離れ場を譲った。
目礼するとジリーに声をかける。
「ふむ・・・ジリーといったか? 少し話をしたいんじゃがいいかの?」
「じ、爺? 誰だお前は?」
「わしはムゥナの父でグレアーというしがない貴族だ」
ジリーはグレアー侯爵の名を聞いて血の気が引いていく。
(な、何が『しがない貴族だ』だ! グレアーといえばこの国で五本の指に入る大貴族じゃないか!!)
爺呼ばわりした数秒前の自分を殴り殺したいほどジリーは後悔していた。
「ふぉっふぉっふぉっ・・・君の言う通りたしかにわしは爺だからな。 気にしてはいないぞ」
グレアー侯爵は笑顔で応じるも目が笑ってない。
ジリーは言葉には言い難い寒気を感じた。
「部下から話を聞いたがわしの娘であるムゥナが世話になったそうじゃな。 それで・・・」
グレアー侯爵はさらに笑顔を深める。
「ムゥナに手を出すということはわしと敵対したいということだな。 うんうん、こんな年寄りで申し訳ないが全力で相手をしてあげよう。 それで異論はないな?」
「なっ?! そんなのあるに決まって・・・」
「そうかそうかないか。 ないに決まっているよな。 絶対ないよな」
グレアー侯爵はジリーの反論など聞かずに遮った。
(ど、どうすればいい? どうすれば俺は助かるんだ?)
ジリーは精神的苦痛から自分の髪の毛が自然と抜けていくことに気づかなかった。
「やっと見つけましたよ、ミリア様」
背後からの声に気づいたミリアがそちらを見ると手を口に当てて嫌な顔をする。
「やばっ! 見つかった!!」
そこには白い法衣を着た男女50人がミリアのところに向かって走ってくる。
ミリアが逃げようとするが、足の速い者たちが逃がすまいとミリアを追い越して行く手を遮るように立ちはだかった。
「もう逃げられませんぞ! 聖女様!!」
聖女と聞いて皆が驚きの目でミリアを見る。
聖女ミリア。
この国より遠国にある聖国でその類稀なる神聖なる力で新しい聖女として選ばれた。
奇跡の力で多くの人々を救うもあまりの激務に辟易し、ある晩姿を暗ましてそれ以来行方不明となる。
神殿は多くの信者の中から聖騎士団50人を動員してミリアを連れ戻すよう命令したのであった。
「さぁ、ミリア様、国に戻りましょう」
「嫌だ! 嫌だ! 聖女になってから給金もなく、休みも1日ももらえずに毎日毎日馬車馬のように働かされる日々なんて真平御免よ! あんなところになんか絶対に戻らないんだから!!」
ミリアが聖国にいた時のことを大声で暴露した。
それを聞いた聖騎士団は申し訳ない顔をして、そのほかの人たちは『とても人間がやることではない』と聖騎士団を白い目で見ている。
「それについては我々も反省しております。 聖女様とて我々と同じ人間です。 ミリア様を蔑ろにし誠に申し訳ございませんでした」
聖騎士団はミリアに対して深く頭を下げる。
「いくら謝ったって絶対に戻らないんだからね!!」
「そこをなんとか・・・」
「聖女なんかよりもこの国に来て冒険者ギルドで働いていた時のほうがよっぽどマシだったわ! 給料も出て、週一で休めて、何よりマチルダたちと友達になって一緒に遊ぶこともできたんですもの!! まぁ、最後はあそこにいるギルドマスターによって解雇されたけど・・・」
ミリアはしれっとジリーを指さす。
イケメンだった顔はすでになく、涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、風が吹く度に頭髪が抜けて飛んでいく憐れな男がグレアー侯爵の前で懇願していた。
聖騎士団の何人かがジリーのところへと向かう。
新たに現れた聖騎士団によって腕を拘束されたジリー。
「な、なんだっ?! なんだお前らはっ?!」
「私たちは聖国から来た聖騎士団です。 聖女であらせられるミリア様をゴミのように扱ったと聞きまして、一言申し上げに参りました」
それから聖騎士団は聖女であるミリアが如何に素晴らしいかを語りだした。
耳を塞ぐことができない状態で無理矢理聞かされたことから心労によりジリーの胃に穴が開いた。
ロバースたちの拷問に耐えきれなくなったジリーは拘束を解き、包囲網をなんとか抜け出してマチルダたちのところまで走った。
到着するとマチルダにお願いする。
「マチルダ! お前だけでもいいから戻ってきてくれ! 頼む!!」
「なぜ私だけ?」
納得いかないマチルダが質問するとジリーはロバースたちをチラッと見て答えた。
「ミリアたちの連れが怖すぎるんだよ。 その点、お前の関係者だけはここにはいないからな」
「たしかにいませんけど、先ほど丁重にお断りしましたよね?」
ジリーは人目も気にせず縋るようにマチルダの下半身に抱き着いて助けを求める。
「そんなこといわないで俺を助けろよ! このままだとミリアたちと同じお前の関係者がやってきてまた俺がボコられるだろ!!」
「え・・・あ・・・それは・・・」
ジリーの言葉にマチルダは答えに詰まる。
「お前の関係者だってどうせ碌な奴じゃないだろうからな!!」
「あ・・・そんなことをいったら・・・」
マチルダがジリーを止めようとするももう遅かった。
晴天だった空に突如暗雲が垂れ込める。
あまりの超常現象にマチルダ以外が驚き慌てふためく。
それからしばらくして雲の隙間から光が差し込んだ。
「おい! あれを見ろ!!」
1人の男が空を指さすとそこには後光を差した人物が天より現れた。
『我が愛し子マチルダのことを思い姿を現すつもりはなかったが、これ以上の狼藉は見過ごせん!!』
マチルダにしがみついていたジリーだが、不思議な力で引きはがされて宙に浮く。
人間を遥かに超える超常的な力と存在を前にマチルダ以外のすべての人間が平伏した。
『おお、マチルダよ。 大丈夫か? 大事になるならもっと早くに介入するべきだったと後悔しているところだ』
「見ての通り私は大丈夫ですからさっさと神界にお帰りください、メディン様」
主神メディン。
この世界を創造した神。
始まりの神ともいわれ、この世界の歴史上の文献にも度々出てくる。
マチルダの言葉にその場にいた者たちは今日一番の衝撃を受けていた。
『つれないな。 だが、そういうところも私は好きだ。 愛しさを感じるぞ』
「メディン様の愛は十分伝わりましたからどうぞお引き取りください」
マチルダとしても面倒事になる前にメディンに帰ってほしいのだろう。
しかし、当のメディンはというと帰る気がないようだ。
『せっかく下界に来たのだからもう少しマチルダと話がしたい』
「以前にも申し上げたと思いますが、私などそこらにいる凡百な女性と変わりませんよ」
『いやいや、マチルダの魂はどこまでも清らかで、近くにいるだけで神である私の身も心も癒されるのだから』
「そ、そうですか・・・」
ほかの人間からはどう思われているのか知らないが、少なくともメディンはマチルダのおかげで心が癒されているのだろう。
『ところでそこにいるジリーといったかな?』
「───」
ジリーは応じようとするも声が出てこなかった
「?! ───! ───! ───!!」
『ああ、すまんすまん。 お前の声は聞くに堪えないので遮断した。 なので私から一方的に話そう。 お前、マチルダにちょっかい出すとはいい度胸しているな。 今すぐその四肢をバラバラにして地獄の業火に放り込むぞ』
「!! ───! ───! ───!!」
メディンの言葉にジリーはその場で何度も『申し訳ありません』と頭を下げた。
『マチルダへの仕打ちは目に余る! よって、私は君を許しはしない! さぁ、神の怒りを喰らうがいい!!』
メディンが天を指すと上空の暗雲からの落雷がジリーに襲い掛かった。
「───────!!!!!!!」
一瞬の出来事に周りにいた者たちは言葉を失う。
稲妻に打たれたジリーは黒焦げになるも身体がピクピクと動いていた。
『本来であれば先ほどの雷で跡形もなく消し炭にしたいところではあるが、それではただの虐殺だ。 罰とはいえぬ。 お前はこれからマチルダに対する非礼の数々を未来永劫その身に受けてもらわねばならぬのだからな』
メディンの無慈悲な言葉にジリーは絶望から意識が遠くなりそのまま気を失った。
それからコレンの町の冒険者ギルドがどうなったのかというと、ロバースの指揮で冒険者ギルド本部から新しいギルドマスターとギルド職員が派遣される。
また、ジリーによって解雇されたマチルダ、ミリア、ムゥナ、メイサ、モモルの5人も受付嬢として再雇用された。
本部から優秀な人材が派遣されたこともあり、コレンの町の冒険者ギルドはあっという間に元の賑わいを取り戻した。
聖女であるミリアの問題だが、メディンは腐敗の原因である聖国の教皇を始めとした上層部の者たちに神罰を下す。
それから聖国に新たな聖女を誕生させ、聖騎士団が新たな聖教会の上層部になるよう命じた。
これがきっかけで聖国では『聖女に無理をさせてはいけない』、『聖女を私利私欲のために悪用する者は神罰が下る』と後世に伝えられた。
そして、ジリーの結末だが、神に弓引いたとされて第一級犯罪者の上で特級犯罪者として捕まった。
王城の地下深くに大罪人として幽閉されて、そこで拷問を受けるも死なずに生き続けている。
その不死の身体に巷では『神の呪いを受けた男』とか『悪魔に魂を売った男』とか噂が絶えることはなかった。
ありとあらゆる拷問を受け続けたジリーだが、数十年が経ったある日牢獄内で突然死んだ。
未来永劫とはいったが、何百年何千年と生かされる苦痛は耐えがたいだろうとメディンはジリーの寿命をそのままにしたのである。
こうして終わらない拷問から解放されたジリーは天寿を全うしてこの世を去った。