信仰概念
(汚れているのは果たして、僕か、母親か。)
ママは、ぼくの小さな頭を掴んで、水の中にしずめた。
水は、思った以上に冷たく、思った以上に汚く、垢も、髪の毛も、埃も(たぶん、ぼくのよだれもなみだも)浮いていた。
ママは、ぼくに何か言っている。
ぼくが、くるしい、と言っても、ママはぼくの頭から手を放さない。口から入ってくる冷たい水に、ぼくのノドは悲鳴をあげる。冷たい水が管をすり抜けていく、その感触に、ぼくの体にぶつぶつが立ち、警戒する猫のように、ぼくのいたる所の産毛が、逆立った。
ぼくの体内に汚れた水が入ると、ぼくの体内から液体が出ていった。目から、鼻から、口から、ペニスから。
ああ、汚い。汚い、汚い、ぼく、汚いよ、ぼくのからだ、いっぱい汚れていくよ。ママ。ぼくのこと、汚いから、きらいなの?
ぼくが小さな手を伸ばしたとき、ママのきれいな手がぼくの頭から放れた。
「きたないでしょう」
ママから放たれた言葉に、ぼくは、ぼくが、きたないことを知った。ママのうつくしい顔と、きれいな手は、もっと、ぼくをみじめにさせた。
「けがれた天使なんて、ママはいらないの」
ぼくは、そっと口を開けた。
何を言うでもなく、そっと、ほんの少しだけ、口に空気を送った。
ねぇ、ママ。ぼく、てんしなんかじゃないよ。
でも、ママがのぞむのなら、ぼくは、てんしにだってあくまにだって、なってあげる。
ママは、笑っている。とても、幸せそうに。だから、ぼくも笑ってあげた。
目から、冷たい水が落ちたけれど。
「信仰概念」
2009.1229.0027.azami
長編を書くに当たっての断片のような、超短編です。
何かあればお気軽にちょいっとコメントいただければ嬉しいです*