第6話 3人の成長
3回ほど泊り込みでゴールデンゴーレムと戦い続けた結果、オリガ、ユースタス、リックは3人だけでもゴールデンゴーレムと戦うことが出来るようになっていた。
とは言えまだまだ簡単にというわけではなく、苦戦しながらなんとかといったところだが。
しかしその成長ぶりはラティアの予想よりもかなり早い。これにはちゃんと理由があった。
3人に戦いの才能があったというのも大きな理由の1つではあるのだが、最大の理由はゲーム時とは違い、交代すればボス戦を繰り返すことが出来るということだ。
50階層のボスであるゴールデンゴーレムは当然のことながら周辺の階層にいるモンスターよりもはるかに強い。そしてそのぶん戦闘で得られる経験値も豊富だった。
ゲーム時にあった効率的なレベル上げの方法よりも、はるかに効率的なレベル上げがここでは出来るのだ。
「ゲームだったらバグ報告案件だろうな」
今回の仕上げとして3人だけでゴールデンゴーレムと戦っている様子を上空から眺めながらラティアがしみじみと呟く。
ただここはゲームではない。目的のために利用できるものは利用する。そう考えるラティアに迷いはなかった。
ほどなくしてオリガの放った魔法が当たり、やっとのことでゴールデンゴーレムが地に倒れ伏す。
完全に倒したことを確認した3人は、荒い息を吐きながらぺたりと地面に座り込んでしまう。もう体力的にも魔力的にも限界だったのだ。
少し苦しそうにしながらも、その顔は達成感に満たされており、彼らはお互いを見つめあいながら笑う。
「倒せたな」
「なんとかな。いいタイミングだった、オリガ」
「2人のおかげよ」
お互いの健闘をたたえあいながら、3人がゆっくりと立ち上がる。
色々とギリギリではあったものの3人の戦いぶりは非常に安定したものだった。それもそのはず、見本となるべき身近なパーティの戦いを3人は何度も見てきたのだから。
「これ、ゴールデンゴーレムだからなんとかなったけど、他のボスだとまだ厳しいだろうな」
リックの素直な感想に、ユースタスとオリガがうなずく。
3人の戦い方は、チェイスたちのゴールデンゴーレムとの戦い方を模倣したものだ。リックがチェイスを、ユースタスがアシュリーを、オリガがルドミラの役をこなしたに過ぎない。
まだまだ力不足ではあるものの、その最適化された動きを真似できたからこそなんとか3人だけで倒すことができた。それを皆がよく理解していた。
「お疲れ、これで3人も金級冒険者の仲間入りだね」
聖龍のひげで空中に浮かんでいたラティアが、そんなことを言いながら地面に降り立つ。
まったく参考にならない戦い方をするラティアにそう言われ、初めて3人は自分たちが金級冒険者になる資格を得たことを認識した。
しかし3人が喜ぶ様子はない。視線を合わせ無言のうちに意思疎通した3人は首を横に振る。
「俺たちはまだまだです。こんな実力で金級を名乗ったら他の金級冒険者に失礼だ」
「経験も足りていないしね」
「まっ、ラティア様にお守りされなくても大丈夫なくらいに強くなってからだな」
「そっか。頑張って」
しょせんただのランクなんだけどな、と思いつつもラティアはそれを口には出さなかった。
ラティアが生産者としてのプライドを持っているように、3人も冒険者としてプライドを持っていると知っていたから。
そしてリックがゴールデンゴーレムの解体を行い、ドロップしたゴールデンゴーレムの魔石と金のインゴットを拾う。その瞬間、コロシアムの中央に宝箱が現れた。
「ラティア様、あれって俺たちがもらってもいいよな?」
「3人で倒したんだから当たり前でしょ」
「よっしゃ。行くぞ、ユースタス、オリガ」
真っ先に駆け出したリックを追って2人も駆け出す。その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
ボスを倒して宝箱が現れる確率は決して高くない。30回に1度あればいいくらいなのだが、それでもコアよりは出現率は高い。
そのため3人もこれまで宝箱が出現するのを何回も見ているが、50階層に連れて来てもらい戦わせてもらっている状態で宝箱が欲しいというほど厚かましくなかった。
この宝箱は3人が初めてボスを倒して手に入れたものなのだから、喜ぶのは当然だろう。
どうせだからといって皆で宝箱の蓋に手をかけて開けようとする3人の姿をラティアが微笑ましく見守る。
この50階層の宝箱の中身は、ラティアにしてみれば一部を除いてそこまで大したものは入っていない。それがわかっていても宝箱を開けるときはワクワクしてしまうのだ。
これが冒険者の醍醐味なのかもなぁ、などと思いながらラティアは宝箱を開けたまま固まる3人の背中からひょいとその中身を覗き込む。
そこにあったのは一見するとただの布袋だ。しかし宝箱から出たものが、そうであるはずがない。
恐る恐るその布袋に手を伸ばしたリックが、持っていた金のインゴットをその布袋の中に入れる。普通であればその重みで変形するはずの布袋は、全く形を変えずにそこにあった。
「おおー、マジックバッグだ。大当たりだね」
そんなのん気なラティアの声で、現実に引き戻された3人は声をあげて喜びあった。
冒険者にとってマジックバッグを持っていることは一流の証であり、ダンジョンを探索する3人にとっては食料やアイテムを運ぶためにも、ドロップアイテムを持ち帰るためにも喉から手が出るほど欲しい一品だったのだ。
興奮冷めやらぬ3人を連れて、ラティアは入り口に戻る水晶に向かう。
あまりこの50階層のボスに挑む冒険者はいないが、それでも皆無ではない。もし外で待っていたら邪魔だし、先に出たチェイスたちをあまり待たせるのも心配をかけてしまうからだ。
オリガの腰に提げられたマジックバッグを見つめ、3人が頬を緩ませたままダンジョンの入り口に転移する。
そこで待っていたチェイスたちは、五体満足な状態の3人の姿に安心すると共に、その嬉しそうな様子に無事目的を達したのだろうと、間違ってはいないが実際は少し違う理解をするのだった。
リックたちの成長具合に可能性を見出したラティアは、さっそく商人ギルドに冒険者や職人を育てる学校のような商会を作れるかどうか相談をもちかけた。
もちろん個人として行うのであれば問題ないのはわかっているのだが、それではいつまでたってもラティアが面倒をみなくてはならなくなる。
将来的にはラティア抜きで冒険者や職人を成長させていけるよう、商店という形をとりたいとラティアは思っていたのだが……
「ダメでしたね」
「なんなの、あのギルドの奴。話もろくに聞こうとしないで無理の一点張りって!」
「落ち着いてください、ラティア様」
憤慨するラティアを、同行していたサラがなだめる。
なぜ彼女がここにいるかといえば、ラティアが自分の用事のついでにサラに店を始めてもらう手続きを商人ギルドでしようと考えていたからだ。
商人ギルドを訪れた2人は小部屋に案内され、先に行ったサラの商人ギルドの登録と商店としての営業許可はすんなり下りたのだが、ラティアに関してはまともに話を聞いてもらえなかった。
正確に言えば、話どころか商人ギルドに登録さえできなかったのだが。
「でも、不自然でしたよね。ラティア様の提案が商人ギルドにとって有益かどうかも聞かないなんて。まるで……」
「どっかから圧力でもかかってるんでしょ。この分だと他のギルドにもかかってそうだなぁ。ちょっと冒険者ギルドによって変態ギルド長に話を聞きに行こうか」
サラが言い淀んだ言葉をラティアはあっさりと認め、薄っすらと笑うと冒険者ギルドへの道を歩き始める。
自分には向けられていいないものの、これまで見たことのないピリピリとした空気を出すラティアに、少し気後れしながらもサラはその隣を遅れることなくついていった。
お読みいただきありがとうございます。




