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人形師さんは造りたい ~最高傑作の人形になった私は異世界でも人形を造ります~  作者: ジルコ
第1章 人形師さん、異世界に行く

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第7話 冒険者ギルド

 門番の詰め所から外に出たチェイスとラティアは、ルーフデンの街一番の大通りを歩いていた。

 門付近には宿屋が並んでおり、門から入ってくる商人たちに宿の従業員が自らの宿の売りを前面に押し出した声をかけて回っている。

 2人にも声をかけようと近寄る従業員はいたのだが、チェイスの顔を見るとすぐに次のターゲットに向かっていた。


「なにからなにまですみませんでした。このご恩は必ず返します」

「だから別にいいって、って言っても聞きませんって顔だな」

「はい。見ず知らずの土地で安全な街まで入ることができたのはチェイスさんのおかげです。恩には恩を、罪には罰を、人形を粗末にする子は同じ目に、が家訓ですので」

「明らかに1つおかしなのが混ざってんじゃねえか!」

「そうですか?」


 きょとんとした顔で聞き返してくるラティアの反応に、チェイスが顔をしかめて頭を振る。

 もしかしてラティアがときどき変な言動をするのは、育った家のせいじゃないか、いやもしかしたら日本という国がおかしいのかも。そんなことを考えながらしばらく無言のままチェイスは歩く。

 そしてちらりとチェイスが視線を向けると、肩口までの赤い髪をなびかせながら街並みを楽しげに眺めていたラティアと目が合った。


「どうかしましたか?」

「いや、まあなんだ。強く生きろよ」

「ええっと、はい」


 よくわからないままに返事をするラティアを連れて、チェイスはそのまま通りを進んでいき、しばらくしたところで立ち止まる。

 その視線の先にあったのは、木造二階建ての大きな木造の建物であり、その表には剣と杖が交差した看板が掲げられていた。


「冒険者ギルド、ですか」

「おっ、ラティアもこのくらいは知っているか?」

「ええ、まあ。たまに人形の素材の仕入れを依頼していましたから」


 そんな風に答えながらも、ラティアが冒険者ギルドを目にするのはこの世界に来てからは初めてであり、ゲーム内を含めても久しぶりのことだった。

 たしかに日常的にラティアは冒険者ギルドに依頼を出していたが、それはラティアの工房の貸主だったカレンを通じてのことであり、自らはもっぱら工房に引きこもって人形造りばかりしていたのだから。


「しかしなんで冒険者ギルドに?」

「いや仮の身分証のままだとまずいだろ。他のギルドだと色々手続きやら試験やらで面倒だが、冒険者ギルドはその辺緩いからな。ひとまず冒険者ギルドの身分証を手に入れて、それから移籍するなりなんなりすればいいさ」

「おぉ、さすが気配りチェイスさんです。さすチェですね」

「変な略しかたすんな。ほれ、行くぞ」


 くすくすと笑うラティアの姿に、頬を赤らめたチェイスが少しぶっきらぼうに話しながら冒険者ギルドへと足を進める。その横を歩きながらラティアは少しの期待を胸に抱いていた。


 ゲームの中の冒険者ギルドは、プレイヤーたちにとって依頼を出したり、受けたりするだけの場所だった。

 併設された酒場もあったが雰囲気だけのものであり、そこで酒盛りをするNPCの冒険者などもいたが、話しかけると初心者向けのアドバイスをしてくれたりはするものの、特殊なイベントなどを除いてパーティを組むようなことは出来なかった。


 しかしこの世界は違う。

 不自然に感じられない程度に行動しながらもやはり制限のあったゲームのNPCではなく、ここにいるのはチェイスのような本物の冒険者たちなのだ。

 モンスターの相手をするのは命がけだ。そういった仕事にあえて飛び込み、情熱をかける者たちの集う場所。

 目指す先は違えども、そういった同士の姿を見ることが出来るかもと思うと、ラティアは胸が高鳴るのを止められなかった。


 キィと音を立てながらチェイスがギルドの扉を開く。その後に続いたラティアの目に飛び込んできたのは広いホールの先で整然とカウンターに並ぶ受付嬢たちの笑顔と、併設された酒場の閑散とした姿だった。


「あれっ、人がほとんどいませんね」

「まあ昼過ぎの中途半端な時間だしな。こんな時間にギルドでたむろってるのはろくな奴じゃねえよ」


 ちらりと酒場にいる数名の冒険者に視線をやり、少し嫌そうな顔をしながらチェイスが真っ直ぐに受付に向かって進んでいく。ラティアはそんなものなのか、と思いつつチェイスの後に続いた。

 2人が向かった先にいた真っ白なウサギ耳をした獣人の受付嬢が、にっこりと微笑みかける。


「お帰りなさいませ、チェイス様。ギルド長が首を長くしてお待ちしておりますが、そちらの方は?」

「その依頼の途中で拾ったラティアだ。日本って国からさらわれてきたらしくてな。身分証がないから冒険者ギルドでとりあえず登録してやってくれ」


 そう受付嬢に伝えたチェイスがラティアに向き直る。


「俺はジジイに依頼の途中経過を報告してくる。登録手続きはリリアンに任せておけば大丈夫だから。ラティアはくれぐれも変なことすんなよ」

「登録するだけで変なことのしようがないと思うけど?」

「お前が俺に会ってからしたことを胸に手を当てて考えてみろ。じゃあ、俺は行くからな」


 そう言い残して奥にある2階への階段を登っていったチェイスを見送りながら、ラティアは言われたとおりに胸に手を当てて考えてみた。


 拘束していたドラゴンモールを矢で射てとどめを刺したチェイス。

 ゲームの世界ではないと確認するためにドラゴンモールの爪で作った自分を追ってきて、抱えて逃げてくれたチェイス。

 右も左もわからない自分のために街に入るために手続きを親切にしてくれたチェイス。

 そして身分証のために冒険者ギルドまで案内してくれたチェイス。


「私は特に変なことはしていないけど、チェイスさんが親切すぎる気はする」

「まあチェイス様ですからね。困っている人を見たら放っておけないんです、あの人」

「えっ、あっ。リリアンさんでしたっけ」

「はい。冒険者ギルドで受付嬢をしておりますリリアンと申します」


 にこりと穏やかな笑顔を向けられたラティアが慌てて返事をするのを見たリリアンがくすくすと笑う。

 肩口の開いた白いシャツに胸元近くまである紺のフィッシュテールスカートという胸元を強調した冒険者ギルドの制服のせいもあるが、笑うたびに揺れる豊かな胸にラティアの目が釘付けになる。


(おー、自然な揺れだ。ギルドの受付嬢に似せた人形はさんざん作ってきたけど、本物はこんな感じで揺れるんだな)


 過去にラティアはさんざん冒険者ギルドの受付嬢の制服を着た人形の作成を依頼されてきた。もちろんその全て丹精込めて作り上げてきたわけだが、人形である以上どうしてもある種の硬さは残ってしまった。

 柔らかさを最優先にという依頼もあったものの、実際のこの動きを見ると……


「私もまだまだのようです」

「ラティア様はまだお若いですし、きっと成長しますよ」

「はい、精進します。ではリリアンさん、登録手続きをお願いします」


 ボタンが掛け違っているのにも関わらず、お互いに全く気づかないまま会話を進めた2人は、チェイスに言われたとおりに手続きを始める。

 ラティアが取り出した仮の身分証を受け取ったリリアンは、手元に用意した書類にそれを書き写していく。


「ラティア・ミツキ様。所属国は日本。所属ギルドは現在なし。職業は人形使い。戦闘の経験はございますか?」

「いちおうここに来るまでにホーンラビットを1匹倒しました。あっ、この袋にその戦利品は入っています」


 ラティアが差し出した袋をちらりと覗き、リリアンが笑みを浮かべる。


「1匹でこの量ということは、ラティア様は解体が出来るのですね。素晴らしいです」

「スキルがあるだけで、経験はまだまだですけど」

「スキルもちは希少ですから、自信を持ってください。戦闘不要で解体のみという依頼が出ることもありますので、よろしければ受けてみてくださいね」

「はい、機会があれば」


 そんな風に適宜ラティア向けと思われる情報を伝えながら、リリアンはそつなく手続きをこなしていった。

 様と呼ばれることに違和感はあるものの、リリアンの柔らかい空気にラティアも心を和ませながら会話を続ける。

 だからだろうか、ラティアが自分に向けられるねばりつくような悪意の視線に気づかなかったのは。


「それではこれでラティア様は冒険者ギルドの一員となります。それではギルドカードを発行してきますので、少々お待ちください」

「よろしくお願いします」


 仮の身分証と書いていた書類を手に奥の部屋に消えていったリリアンをラティアが見送る。

 思ったより短くて簡単だったな、などと考えていたラティアだったが、酒場から聞こえた一際大きな笑い声に顔をしかめる。


「人形使いが冒険者だとよ。冒険者ってのはいつからガキのおままごとの場になったんだ?」


 酒で顔を赤らめたひげもじゃの大男の嘲りの言葉に、ラティアの頬がピクリと震える。その反応に気づいたのか、一緒に飲んでいた仲間たちも口々に大男の言葉に同意していく。


「人形使いなんざ、旅芸人の一座にでも入ってろってんだ。黒狼の奴も落ちたもんだ。こんな奴を冒険者ギルドに連れてくるなんて」

「きっとまともに人形を扱えなくて、入ろうにも門前払いでもくらったんじゃないですかぁ?」

「かもな。しかしあの顔だ。てめえを人形みたいに扱ってくれる奴ならごまんといそうだがな」

「私を人形みたいに壊してぇ、なんて悲鳴をあげさせるんですかい?」


 どんどんと下世話になっていく男たちの言葉に、ゆらりとラティアが体を揺らす。

 慌てて止めに入ろうと受付嬢やギルド職員たちが立ち上がろうとしたが、ラティアはそれよりも早くその冒険者たちの目の前につかつかと歩み寄っていた。

 罠にかかった鴨を見つめるように、いやらしい笑みで男たちがラティアを見上げる。


「……いしろ」

「あぁ、聞こえねえな!?」

「訂正しろ。人形使いを、人形を馬鹿にしたことを訂正しろっ!」


 掴みかからんばかりの怒りを示すラティアの姿に、大男はニヤリとした笑みを浮かべて立ち上がった。

お読みいただきありがとうございます。


毎日複数話更新中です。

本日の2話目は午後6時ごろに投稿予定です。

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R07.2.19 新作の投稿を始めました。非常口のピクトグラムが異世界で冒険する物語です。意味がよくわからない人は一度読んでみてください。

「ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜」
https://ncode.syosetu.com/n7120js/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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