第29話 ラティアの実力
パーティを組むことになったラティアたちは、さっそく行動を開始した。
工房を出て、ヒルデガルド総ギルド長に面会予約をとるために冒険者ギルドに向かったチェイスと分かれたラティアたちは、王都の大通りをまっすぐに進んでいく。
そして貴族街に続く防壁の門にたどり着いたルドミラが、そこを守る騎士にマジックバッグから取り出した冒険者証と手紙を慣れた様子で見せると、騎士は少し、おやっと驚きながらも警戒することなく通行許可を出した。
「慣れてますね?」
「まあこれでもミスリル級だし、クロエ様の関係でよくここを通っているから」
「騎士の人とも顔見知りってことですね。なんかこうしてみるとルドミラさんってできる女って感じがします」
「現にそうなのよ。私にそんなふざけた態度をとってくるのはラティアくらいなものよ」
隣を歩くラティアにじとっとした視線をルドミラが送る。それに対してラティアは口を開くことなく、にこやかな笑顔で返した。
ルドミラは諦めたようにふぅ、と小さく息を吐き、周囲に視線を動かしているラティアに情報を伝える。
「外周は基本的に騎士たちの屋敷ね。王城に近づくほど高位の貴族の屋敷が増えていくわ。騎士も巡回しているけど、屋敷を守る衛兵たちもいるから変な行動はしないこと。視線もなるべくまっすぐに」
「なんでですか?」
貴族の家にしては小さい屋敷ばかりだなぁ、と思っていたところに必要な情報をくれたルドミラに感謝しつつ、ラティアはキョロキョロするのをやめてまっすぐに通りを眺めながら聞き返す。
「なにか探っているという誤解を受けるのを避けるためよ。私たちはクロエ様の後ろ盾があるから大抵のことは大丈夫だけど、変にトラブルを起こして評価を下げる必要もないでしょ」
「そういうことですか。さすができる女」
「ふふん」
ラティアの褒め言葉にルドミラが得意げに鼻を鳴らす。ラティアは心の中でこういうところが可愛いんだよなぁ、と思いながらもそれを口にすることはなかった。
しばらく2人はそのまま通りを歩いていき、騎士のものよりもやや大きめの屋敷が並ぶ区画に入ったところで右に曲がる。
横道にそれたとはいえ馬車で通ることを想定した広い道は、先ほどまでと少し様子が変わり貴族向けの商店が立ち並んでいた。
「貴族街にも商店があるんですね」
「ここで物を売るというよりも、御用聞きのための連絡所の意味合いが強いけれどね。貴族は基本的に商人を呼びつけるし」
「店頭に並んでいるのは見本ってことですか。うちはこれだけの物を用意できますっていう」
「気晴らしに買い物に来る貴族もいるらしいから、全部が全部というわけじゃないけどね」
そんな説明を聞きながらラティアが視線を左右に振って、ここは見ても大丈夫だよねとルドミラに確認を取る。
そしてルドミラがこくりと頷いたのを見て、ラティアは店舗に並ぶ商品を確認し始めた。
普段の街中であれば呼び込みの声などがすぐにかけられるのであろうが、窓越しに興味深げに商品を見るラティアを見ても中の店員は微笑み返すだけで外に出ようとはしない。
そういった教育が徹底されているのだろうな、と考えながら、ラティアはウインドウショッピングを続け、その多くが生産者として中級者程度のものであることにため息を吐く。
「貴族相手ならもうちょっと頑張ってるかなって、期待したんだけどな」
「あなた基準で考えないの。1週間で私のこの装備を作っちゃうラティアが異常なんだから。測ったわけでもないのにサイズもぴったりだし」
「本気で作るときならしっかり測りますけど、今回は素材が全然足りませんでしたしね。生産を長くやってればある程度のサイズはわかりますし。冒険者でも同じようなことありますよね?」
「まあたしかにね。そう考えると別に異常というほどでも……んっ?」
そこまで言いかけたルドミラが、なにかに気づいたように言葉を止める。
そしてそれを不思議そうに眺めていたラティアに、おそるおそるといった様子で問いかける。
「ラティアって私の装備だけじゃなくて、チェイスや他の子の服なんかも作っていたわよね。それにマジックバッグにさっき入れていた猫の人形の、えっと……」
「シャルルのことですね。むしろ今回のメインはシャルルだったので、他はついでみたいなものです。あっ、でも手抜きとかはしてませんよ。ルドミラさんの装備も似合うように考えましたし」
「いや、そんなことは疑ってないんだけど。そうじゃなくて、この装備ってラティアはどのくらいで作れるの?」
「中級の装備なので数時間ってところですね。アレンジとかを加えなかったらもっと早いですけど、そうするとルドミラさんのイメージに合わなくなっちゃいますので」
あっけらかんとそう言ったラティアに、ルドミラが飛び出るのではないかと思うほど目を大きく見開いて驚く。
この装備を身に着けているルドミラ自身が、これが今まで自分が装備してきたローブなどとデザイン面だけでなく装備としても一線を画す性能であることを良くわかっていた。
しかしそんな装備をラティアはわずか数時間で作り出してしまう。それはルドミラの常識を粉々にするほどの衝撃だったのだ。
「本当についてきてもらってよかったのかしら?」
冒険者としてそれなりに自信をもっているルドミラだったが、生産者としてのラティアは王都の一流の職人たちよりもはるかに上の存在であるとわかり戸惑う。
仲間になると決めたのはラティアなのだが、信じられない実力を持つ生産者である彼女の時間を浪費させるのは違うのではないか。そんな思いがルドミラの心の内から湧き上がっていたのだ。
「ねえ、ラティア?」
「なんですか?」
楽しそうに笑うラティアに、ルドミラは「本当に私たちに付き合っていいの?」という言葉を続けようとし、そしてそれを止める。
ルドミラは気づいたのだ。
今の自分の気持ちが、かつてチェイスが仲間たちに対して抱いたものに近いのであろうと。
「もうすぐ着くわよ」
「へー、クロエ様って珍しいところに拠点を持ってるんですね」
「この辺りが気楽なんだそうよ。まあ護衛の関係でこの辺りまでしか無理なのかもしれないけれど」
「大変ですねぇ」
話題をそらしたルドミラに気づかず、ラティアは腕を組んでしみじみと感想をもらす。
本当に大事なのは、自分がどう思っているか。それを人が勝手に判断するのは違う。
ラティアの姿を眺めながら、ルドミラはそんなことを考えて微笑んだ。
そのまましばらく進んだ先にあった1軒の店の前でルドミラは立ち止まる。
そこはどこか洗練された店構えをしていたこれまでの店とは違い、よくわからない民族的な木製の彫り物や干されたなにかの革が吊るされた怪しげな店だ。
明らかにこの店だけが浮いており、いつもながらの異様さにルドミラがため息を吐く。
「ここよ。驚いたでしょ?」
「これはまた、すごいですね」
「そうなのよ。クロエ様もなんでまたこんな……」
「エールルバットのなめし革がこんな無造作に……」
「「んっ?」」
同じことを考えていると思っていた2人が、全く違うことにお互いの言葉で気づき同時に首を傾げる。
「ラティアはこの店が変だとは思わないの?」
「全然。むしろそれなりの希少素材が無造作に吊るされているのにびっくりしました。さすが王族ですね」
「そ、そうなのね」
「この革があればルドミラさんの装備に自動回復機能がつけられたんですが、惜しかったですね。しかし表でこれなら中も期待できそうです。さあ、早く行きましょう」
本当に楽しみなのか、ラティアがルドミラの手を引いて店の中に率先して入っていく。
木製の店の扉は古い見た目の割に音もなく開き、そして店の奥のカウンターに座り本を読んでいたクロエが顔を上げる。
「いらっしゃい、ラティア。ようこそ僕の店に」
どこかおどけたその声を聞きながらラティアは様々な素材が並ぶ店内を見回し。キラキラと目を輝かせながらクロエに向き直る。
「クロエ様、ここの素材とルドミラさんを私にください!」
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