第19話 気づきと検証
ドラゴンモール狩りから帰ったカレンは両親が残したレシピの料理を試作し、あっさりとそれを成功させた。
これまで幾度となく挑戦してもノートに残された手順しかわからなかったのだが、包丁を手に持ちそれを作ろうとした途端に、まるでこれまで幾度となく作った料理であるかのようにするすると手が動いたのだ。
自分自身信じられず、どこか呆けたような顔で料理を運んできたカレンが、ドラゴンモールの皮を前に首をかしげているラティアに話しかける。
「ねぇ、ラティア。なんか出来たんだけど」
「へー、噂は本当だったんだ。よかったね」
「よかったのは確かなんだけど、うーん。なんか実感がわかない」
おいしそうな匂いを漂わせるホーンラビットの肉野菜炒めをラティアの座るカウンター席に置き、難しい顔をしながらカレンがラティアの横にすとんと腰をおろす。
カレンが自分の皿から肉野菜炒めをすくい、それをぱくりと口に含んで噛むと頬を緩める。
これまで作ってきたもののように焦げたり、生焼けだったりすることもなく、油が程よく絡んで光る肉野菜炒めは、味のバランスも良くお金を取れる完成度になっていた。
「おいしい。これならお客さんに出せるかも」
「そっか。これで1つ新しい料理が増えたね」
「うん。ありがとう、ラティア。私、これからも頑張る。たくさん料理を覚えて、昔みたいにこの店をお客さんでいっぱいにしてみせるよ」
拳を握り締めて決意するカレンをラティアは柔らかく微笑みながら見守り、そしてホーンラビットの肉野菜炒めを食べ始める。
しばらくの間、食事を食べつつカレンの料理の話などをラティアは聞いていた。
そして肉野菜炒めを食べ終えた2人分の皿を片付けて戻ってきたカレンがそういえば、とばかりにぽんと手を打つ。
「さっきラティアは考え込んでいたけど、なにか問題でもあった?」
「うーん、問題ってわけじゃないんだけど、ちょっと気になることがあって」
「気になること?」
こてんと首を傾げるカレンに、ラティアがマジックバッグからドラゴンモールの皮を取り出してみせる。
「今日、カレンに倒してもらったドラゴンモールからドロップした素材と、この前私がお試しで倒したときの素材の出現率に偏りがあってね。まあ具体的に言うと、今日のほうが圧倒的に皮をドロップしたんだけど」
「へー。皮って1番高く売れるんでしょ。運が良かったね」
「運、運ねえ。確かにそういう見方もできるんだけどなぁ」
あっさりと結論を出したカレンに対し、ラティアは眉間に皺を寄せたまま考え続ける。
ドラゴンモールの素材についてはラティアも取り扱ったことがあった。主に使っていたのは皮であり、それで服を作ったり、ぬいぐるみを造ったりしていたのだ。
基本的にラティアは冒険者ギルドに依頼を出して素材を得ていたのだが、中には直接素材を持ち込んでくる者もいた。その中の1人から、ドラゴンモールの皮の出現率は15%程度だという話を聞いた覚えがあったのだ。
ラティアが単独で倒したときは肉や爪が多く、皮の確率は聞いたとおりだったので特に気にしていなかったのだが、今日カレンが倒したときの皮の出現率は30%に近かった。
2倍というのは単に運が良かったからで済ませるには大きすぎる変化だ。
(違う点を挙げるなら、倒した人、倒し方、日時、人数、その他にもあるけど、本命としては最初の2つかな?)
目の前で両親の残したノートに目をやり、ニンマリと笑って次に挑戦する料理を考えているカレンをラティアが見つめる。
ゲームではカレンを街の外に連れ出してモンスターと戦わせるなんてことはできなかった。だからカレンがドラゴンモールを倒したことが原因というのは十分に考えられる。
だが、ラティアはなんとなくそれは違うんじゃないかという予感があった。
「よし、明日もう一回行って確認してくる。カレンはどうする?」
「私は店を開けながら、新しい料理に挑戦してるよ。材料が腐る前に使い切りたいし。あっ、もしよかったらホーンラビットの肉をお土産に持ってきてくれると嬉しいな」
「わかった」
そういえば最初の頃に作る料理にはホーンラビットの肉を使用したものが多かったな、などとラティアは懐かしく思い出しながら、明日の検証に胸を躍らせるのだった。
そして翌日、新しく追加されたホーンラビットの肉野菜炒めのおかげか少しだけ盛況だった店の朝の手伝いを終えたラティアは、袖つきの深緑のマントをなびかせながら街の外を駆けていた。
ホーンラビットの跳びまわる草原を抜け、土竜の源泉付近までやってきたラティアを狙ってさっそくドラゴンモールが現れる。
鋭い爪を見せ付けるかのように威嚇するドラゴンモールを前に、ラティアは好奇心旺盛な猫のようにその瞳を輝かせる。
「まず一体目」
左手を振って糸でドラゴンモールを拘束したラティアが、腰からくるりとナイフを抜く。
そして圧倒的な身体能力にものを言わせて、ラティアはドラゴンモールに肉薄すると躊躇なくその喉にナイフを突き入れた。
一体倒すのにもかなりの時間がかかっていたカレンとは違い、急所に繰り出されたラティアの攻撃を無防備に受けたドラゴンモールはあっけなくその命を散らす。
そして【解体】スキルに従いナイフを動かしたラティアの前に、魔石と皮がドロップする。
「おっ、さっそく当たりだね」
機嫌よさそうに笑いながらラティアが皮をマジックバッグにしまい、魔石を自身の胸に押し付ける。
その瞬間、じんわりとした暖かさがラティアの体中に広がり、それが落ち着いたころには手の中にあったはずの魔石はその姿を消していた。
「さて、次に行こう」
そう呟き、ラティアがわざと音を立てるように走り出す。
その音につられて集まってきたドラゴンモールたちは、ことごとくラティアの検証のいけにえになったのだった。
満足のいくまで検証を終えたころには既に夕方に近い時間になっており、それに気づいたラティアは慌ててルーフデンの街に向けて駆けていった。
途中でカレンとの約束を思い出し、草原で遭遇したホーンラビット8匹をラティアはあっさりと倒すと、ドロップした肉をチェイスにもらった袋に詰め込んでいく。
そのラティアの顔はとても明るかった。
何十体ものドラゴンモールを倒して検証した結果、皮が出やすくなるかどうかはその倒しかたによることがわかっていた。
喉を一突きで倒したときは、皮が出る確率が30%を超えていたにもかかわらず、糸でバラバラに切り裂いて倒したときは一度も出なかったのだからそれは明らかだった。
しかしドラゴンモールの素材で最も高く売れる皮を多くドロップする方法を見つけたからラティアは喜んでいるわけではなかった。
その理由は……
「これが他のモンスターにも適用されるならレア素材が取り放題になる可能性があるってことだよね。素材の入手が難しくて諦めてたあんな人形や、こんな人形が造り放題……」
口に手を当て、ぐふふ、と声を漏らす姿は不審者と言えなくもないが、そのラティアの可憐な見た目のおかげか周囲で働く農夫や見回りの冒険者たちから不審な目を向けられることはなかった。
「おっ、この前の嬢ちゃん。今日もモンスター退治か?」
「あー、先日はどうも」
腰を曲げていた初老の農夫がその背を伸ばしてラティアに声をかける。それにラティアは軽い口調で返した。
日に焼けた肌に汗をかきながらラティアに近づいてくるこの農夫は、先日ドラゴンモールの肉ととれたての野菜を交換してくれた男である。
名前も名乗られたような気がしたが、ラティアの記憶には全く残っていない。
「嬢ちゃん。もしかしてこの前の肉、今日も持ってたり……」
「持ってますよ。ほらっ」
ラティアがドラゴンモールの皮に適当に包んで小脇に抱えていた大きな肉の塊を見せると、農夫は喜色を浮かべた。
「おおっ、それじゃあ今日も野菜と交換してくれねえか? この前もらった肉を使った肥料がかなり良さそうでな。もっと持ってこいってせっつかれてたんだ」
「いいですけど今はこれだけしかありませんよ。どのくらいの量が必要なんですか?」
「肥料を作ってくれてる奴の話だと、あるだけ欲しいらしい。より良い肥料になるように色々試したいんだとさ」
農夫の言葉にラティアが腕を組んで思案を始める。
ラティアのマジックバッグの中にはかなりの量のドラゴンモールの肉が余っていた。今日わざわざ脇に抱えて戻っていたのも、また野菜と交換できないかなと頭の片隅で考えていたからだ。
人形造りに使えないドラゴンモールの肉はラティアにとっては不用品でしかない。それが処分できるのであれば万々歳だし、なによりその肥料を作っている者の気概にラティアは共感していた。
「じゃあまた今度持ってきますね。どこに運べばいいですか?」
「ああ、あっちに木造の小さな小屋が見えるだろ。あのもう少し奥のほうに肥料を作っている場所があるんだ。それで礼はまた野菜でいいのか?」
期待するような目で見つめてくる農夫にラティアは笑いながら首を縦に振る。
ドラゴンモールの皮や爪をギルドに納めれば十分な金を得ることはできるラティアはお金には困っていない。
それよりもカレンの料理の役に立つ野菜をもらったほうがいいし、農夫にとってもそのほうが楽だとラティアにはわかっていた。
「あっ、できればなんですけどその報酬の野菜を定期的に届けてもらうことってできますか? 一度にもらっても腐らせてしまうだけですし」
「それはそうだな。最近はホーンラビットによる野菜の被害がひどかったんだが、嬢ちゃんが持ってきた肉で作った肥料があればなんとかなりそうって話だし。そのくらい別に良いぞ」
「ありがとうございます。じゃあ場所は『木だま亭』という食堂なんですけど、えっと冒険者ギルドから真っ直ぐ進んで……」
ラティアの説明でなんとかおおよその場所の見当はついたのか、その農夫は定期的に野菜を届けることを確約してくれた。
ラティアと農夫は握手を交わし、不用品の処分とカレンに野菜を渡す、その両方が片付いたラティアは、楽しげに鼻歌を歌いながら足取り軽くルーフデンの街に戻っていったのだった。
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