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人形師さんは造りたい ~最高傑作の人形になった私は異世界でも人形を造ります~  作者: ジルコ
第1章 人形師さん、異世界に行く

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第18話 効率の良いやり方

「ラティア、知り合い?」

「うん。こっちに来たときにお世話になった冒険者さん。チェイスさんっていう結構有名な人らしいよ」


 ラティアの背中に隠れ、そこからのぞきこむようにカレンがチェイスを眺める。カレンの質問に軽く答えながら、ラティアはなぜか頭を抱え始めたチェイスに視線を戻す。


「私たちはちょっとドラゴンモールを倒しにきただけですけど、チェイスさんはまた依頼ですか?」

「いや、前の依頼の補足調査ってところだ。それにしてもお前、ドラゴンモールを倒しにきただけとか気軽に言うなよ。しかもそんな女の子を……もしかしてその子もラティアの同類か!?」


 チェイスが目を見開き、自分のそばで倒されている2匹のドラゴンモールと、いままさにもう1匹にとどめを刺そうとしていたカレンを交互に見つめる。

 こんなまだ成人しているかもわからないような少女が、下手をすれば自分と同等の力を持っているかもしれない。そんな自分の常識を覆しかねない考えを抱くチェイスの前で、カレンはぶんぶんと首を横に振っていた。


「いえいえいえ。私、ただの小さなカフェの店主ですから」

「ただのカフェの店主がモンスターなんて狩るわけないだろ。しかし、その歳で自分の店を持ってるとか……やっぱラティアと同類じゃねえか」

「どうしよう、ラティア。なんか同類扱いされたんだけど?」


 不安そうにカレンがラティアを見つめる。

 聞きようによっては失礼だよな、とラティアは内心思いつつもカレンの気持ちも理解できるので文句は言わなかった。

 ラティアは耳を澄ましてみたが、これだけ会話をしていたのに新たなドラゴンモールがやって来る様子はない。つまりこの辺りは狩りつくしたということだろうと判断した。


「うーん、そろそろ帰るつもりだったし、その道すがらチェイスさんに説明するよ。とりあえずカレンはとどめよろしく。で、チェイスさんはそっちの解体よろしく。スキル持ってるでしょ?」

「わかったよ」

「あ、ああ」


 指示に従い動き始めた2人を視界に入れつつ、ラティアは周囲の警戒を続ける。チェイスの言う補足調査ってなんだろうと少しだけ疑問に思いながら。


 カレンが最後のドラゴンモールを倒し終え、それを解体したラティアは残った皮と魔石を自分のマジックバッグに迷うことなくつっこんだ。

 それを見たチェイスがなんとも言えない顔をしていたがなにかを言うことはなく、3人はその場を離れルーフデンへの道を歩き始める。


「で、説明してくれるんだろ」


 先頭を歩いて警戒していたチェイスが、振り返ることなく後ろを歩く2人に声をかける。

 ラティアはいちおう説明していい? と無言でカレンに問いかけ、カレンがうなずいたのを確認すると話しはじめた。


「この子はカレン。ルーフデンで『木だま亭』っていうカフェを受け継いで営業している店長さんだね。ちなみにその奥に工房があって、私はそこに拠点を置く予定」

「ふうん、大家と店子ってわけだな。すぐ見つかってよかったな、ラティア」

「まあね。で、詳しい事情は省くけど新しい料理を覚えたいってカレンに相談を受けたから、ドラゴンモールを倒しに来たってわけ」


 ものすごく簡潔に話したラティアだったが、当然のごとくそれでチェイスが理解できるはずがない。

 何度も首をかしげながら考えていたチェイスだったが、ため息を吐いて両手を上げた。


「そもそもなんでモンスターを倒すんだよ。料理を覚えるなら練習すればいいだけだろ?」

「あっ、それ私も思いました」

「カレン、だったか。あんたはこっち側みたいで嬉しいね」


 ちらりと振り向き、歯を見せて笑ってみせたチェイスに、カレンも首を縦に振りながら笑い返す。

 なんとなく疎外感を覚えながら、ラティアはこほんと一度咳払いし説明を続ける。


「私のいた国では、生産職で早く技能を上げたいのなら、まずはモンスターを倒したほうがいいと考えられていたんです。今日はそれを実践したにすぎません」

「いや、それ無茶苦茶じゃね? 戦いに慣れていない奴をモンスターの前に放り出すなんて死ねって言ってるようなもんだぞ。しかもホーンラビットならともかく、なんでドラゴンモールなんて相手にしてんだよ」


 チェイスの強い語気にカレンがなぜか手を上げて、おそるおそるといった感じでそのたくましい冒険者の背中に問いかける。


「もしかしてドラゴンモールってけっこう強いモンスターなんですか?」

「安全確実に勝てるのはミスリルの冒険者クラスだろうな。ルーフデンにいる冒険者が出会ったらほぼ即死だ」

「ひっ!」

「そんな強くないって。うちの国だと中級者の壁って言われてたし、強いことは強いけど軽くいなせる人は結構いたから。その証拠に、カレンは全く怪我してないでしょ」

「それもそうだよね」


 異なる2つの情報にカレンが混乱しはじめる。

 会って間もないがチェイスが嘘を言っているようにはカレンには思えなかったし、ラティアの話しぶりからしても、それが事実なんだろうとしか考えられなかった。

 そもそも戦ったことのあるモンスターがドラゴンモールだけであり、しかも戦ったといえるかどうかすら定かではないため判断する材料がカレンにはないのだ。


「まあ、その辺はおいおいでいいや。で、その生産職にモンスターを倒させると腕が上がりやすいってのは本当なのか?」

「経験則なので、あながち間違いじゃないのでは? 私は体感したことはないですけど」


 歩きやすい草原までたどり着き、少し緊張を解いて振り向いたチェイスにラティアは肩をすくめて答える。その隣では草を踏みしめながらカレンがとてもほっとした顔をして喜んでいた。

 2人の様子を見ながらしばしチェイスは思案し、不承不承ながら首を縦に振って納得を示した。


「そういえばチェイスさんはどうしてあの場所に? 補足調査とか言ってましたけど」

「昨日、土竜の源泉に向かった調査隊から気になる報告があったんでな。いちおう確認しておこうと思って来てみたわけだが……」


 そこまで言って言葉を止め、立ち止まったチェイスがじーっとラティアの顔を見つめる。そしてその眉間に皺を寄せたまま、ラティアに問いかけた。


「なあラティア。お前数日前に土竜の源泉周辺の荒地にいただろ?」

「うん。一昨日にカレンに安全に狩りをしてもらうにはどうするのがいいか色々試してたよ。事前準備を怠るはずないでしょう?」

「あっ、だいたいわかった。そういうことか」


 事情を察して納得したチェイスは、みなまで言わずにそこで会話を打ち切る。その続きをラティアが聞いても、チェイスはあいまいに苦笑いして答えようとはしなかった。


 そしてそのまま3人は歩き続け、帰る道すがら遭遇した4匹のホーンラビットをカレンは独力で倒した。

 手に入れた肉を持ってほくほくした顔で歩く彼女を、チェイスとラティアという明らかな過剰戦力で守りながら進む道中で問題など起こるはずもなく、無事に3人はルーフデンに戻り、冒険者ギルドのところでチェイスのみが別れる。


 帰ったらなにを作ってみようか。肉もあるし野菜にも余裕があるし、などと妄想を始めたカレンの隣でラティアは微笑んでいた。

 今日の成果がわかりやすく出てくれればいいな、そんなことを考えながら。





 一方その頃、冒険者ギルドのギルド長室では、チェイスの報告をギルド長であるナイジェルがその禿げ上がった頭に何段もの皺を寄せながら聞いていた。


「ってわけで、調査隊からの報告にあった、ドラゴンモールとの遭遇に偏りが見られた原因は十中八九、前日にラティアが周辺のドラゴンモールを狩りつくしたからだと思われる」


 そう言いきったチェイスは、皿の上に置かれたナッツを手でわしづかむと口に放り込んでボリボリと噛み砕く。

 ソファーにふんぞり返ったその姿は、どちらがこの部屋のある主かわからないほどだった。


「その話を俺に信じろと?」

「どっちにしろ正式な依頼じゃなくて、あんたが気にかかっただけだろ。俺は俺が信じる真実を報告した。それでも自分が納得できる理由が欲しいっていうくらいもうろくしたなら、他をあたってくれ」


 失礼を通り越してもはや無礼なチェイスの物言いに、ナイジェルは怒るでもなく太い口ひげをさすりながら深いため息を吐いた。

 むろんナイジェルもチェイスが嘘を報告してきたなどと全く思っていない。だが1人の少女が周辺のドラゴンモールを狩りつくしたなど信じられない、いや信じたくないというのが本心だった。

 なぜならそんなことは現役時代の自分でさえ出来たかどうかわからないのだから。


「ラティアの国は、ここいらとはレベルが違う危険地帯だったのかもな。ドラゴンモールが中級の壁なんだそうな」

「そんな場所に生まれずに良かったと喜ぶべきか?」

「さあね。でも平和なのはいいことさ」


 そう言ってチェイスは手に残っていた一粒のナッツを高く放り投げ、そのまま口でキャッチしたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


そろそろストックが切れてきましたので明日まで2話投稿になります。

今日の2話目は午後8時過ぎに投稿予定です。

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R07.2.19 新作の投稿を始めました。非常口のピクトグラムが異世界で冒険する物語です。意味がよくわからない人は一度読んでみてください。

「ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜」
https://ncode.syosetu.com/n7120js/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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