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人形師さんは造りたい ~最高傑作の人形になった私は異世界でも人形を造ります~  作者: ジルコ
第6章 人形師さん、帝国を行く

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第21話 宝石のコア

 滞在時間わずか1日という短さでメルローでの用事を終えたラティアは、またマジックバッグに入って帝都リュバーンへと戻っていた。

 およそ5日の日程ではあるが、ラティアにしてみたら眠って起きたら着いているような感覚であるため、精神的な負担は非常に少ない。

 ベッドに寝かされていたラティアがゆっくりとその目を開き、自分とそっくりな姿をしたティアが視界に入る。


「おはよう、ティア。なにか変わったことはあった?」

「トラブル、という点では特に何も。他には5日前にオレーシャから生産の仕事の依頼がきています」

「へえ」


 差し出された依頼書を受け取り、ラティアがふむふむとうなづきながらそれを読んでいく。

 オレーシャの依頼はマクシムと同じように、一般に『持ち込み』と呼ばれる素材をすべて依頼者側が用意するものだった。

 マクシムのときのことを参考にしたのか、報酬として通常のお金とともに作成して余った素材をそのままもらえることが明記されている。


「うん、了解。さすがオリハルコン級。いい素材を持ってるね」


 注文するアクセサリーのリングの基礎となる素材のアダマンタイトだけでなく、それに効果をつけていく素材のほとんどが上級の生産素材である。

 求められた効果は『幸運』

 ゲームにおいてはアイテムドロップなどの確率計算に影響を及ぼすものだった。


「やっぱり最後に行き着く先は運なのかな」


 ゲームでも少なからずその傾向はあった。

 レベルを上げることでステータスは上昇していく。しかしその中で唯一上がらないものが、通常のステータス画面では表示されない運というものだった。

 それがレアドロップやクリティカルなどの確率に影響していることはわかっているものの、その効果は気休め程度にしかならないこともわかっている。


 しかしゲーム内のトッププレイヤーの多くは、必ず幸運を上げる装備を身に着けていた。

 他のステータスはレベルを上げればどうにかなるのだ。レアドロップを狙う彼らからすれば効果は気休め程度かもしれないが、最善を尽くす意味でも幸運を上げる装備を身に着けないという選択肢はなかった。


 実際、生産の成功率においても運の要素は関係してくる。当然ラティアもその当時最も効果が高いと思われる装備を身に着けていた。

 オレーシャが用意した素材はそれには2世代ほど及ばないものの、これをこの世界で単独で集めたと考えればオレーシャの力がよくわかるほどのものだった。


「しかしマクシム殿下もオレーシャさんも、よく生産素材のことがわかるよね。どっかに本でもあるのかな?」


 2人が用意してきた素材は、その装備を作るのに必要で、素材の量についても十分足りるものだった。そしてなにより不要な素材が入っていない。

 つまり2人はこの効果のある装備を作るためにはこの素材が必要であるとわかっているということである。

 攻略サイトや掲示板などがあったゲームならいざ知らず、現実世界において実際にそれを作る生産職以外の者がそれを知っているとはラティアには考えられなかった。


「まっ、いっか。とりあえず私は工房に行ってくるよ。ルクレツィアたちもそこにいるよね」

「はい、おそらく」

「わかった。じゃあティアはしばらく休んでいていいよ」


 ティアにそう言い残してラティアが部屋を出ていく。そして階段を降りるとその足でまだ灯りの漏れている工房に向かった。

 生産しているであろうルクレツィアの気が散らないように静かに工房に入ったラティアが、壁際でいつもどおりルクレツィアの生産姿を見つめているシスルに目を向ける。


「お帰りなさいませ、ラティア様」

「ただいま、シスル。ルクレツィアの調子はどう?」

「順調ではないかと思います。なにぶん専門外ですので、おそらくですが」


 シスルの見つめる先に自分も視線を向けたラティアは、真剣な表情で針を進めているルクレツィアの姿に笑みを浮かべる。

 ミハイルも特に注意することなく、いつもどおり宙をプカプカと浮いて漂っており、その表情は最初の頃よりもだいぶ柔らかくなっているようにラティアには見えた。

 もしかしたらもうすぐ終わりなのかもしれないな、そんなことを考えながらラティアが鍛冶を始める準備として炉の整備に向かう。


「あっ、依頼のリングを作ったらメルローの話を伝えるから」

「承知しました」


 軽い調子でシスルに手を振り、ラティアは炉に向かっていった。シルヴィアに教えてもらった基準を思い出し、幸運の装備はどこまで手を抜けばいいんだろうと少しその首を傾げながら。


 帰ってきた翌日、ラティアは今日の深夜に作り上げた幸運の効果のついたリングを持って冒険者ギルドに向かっていた。その隣には道案内としてシスルも同行している。


「良い情報があるといいんですけど」

「そうですね」


 楽しげなラティアにいつもどおり冷静な仕草でシスルが言葉を返す。

 とても整った容姿をしたラティアと、メイド服のような装備を着たシスルは非常に目立っていたが、メルローのようにちょっかいをかけてくるような者はいなかった。


 しばらくして2人は冒険者ギルド本部に着くと、窓口でオレーシャに用事があって来たことを伝える。

 今日は調べ物ついでに依頼の品が出来たことをオレーシャに伝えてもらうようにお願いするだけのつもりだったのだが、運良くオレーシャが本部にいるとのことで、2人はギルドの応接室で丁重にもてなされながらしばらく待っていた。


「えらい、すんませんなぁ。待たせてもうて」


 少し疲れた表情をしながら部屋に入ってきたオレーシャがラティアたちの対面のソファーに座る。


「いえいえ、突然来たのは私たちのほうですしね。それで、これが出来上がった依頼の品です」

「おおきに。はばかりさん、どしたなぁ」


 ラティアのことを労いながら、オレーシャが受け取ったリングを確認していく。

 梅の花がモチーフとなった落ち着いたデザインのリングに、オレーシャはほぅ、と息を吐きその顔に笑みを浮かべて、ためらうことなくそれを指にはめた。


「しんなりしたええリングやね。それで報酬はすぐ払おか?」

「お金は別にいつでもいいんですけど、ちょっとオレーシャさんに聞きたいことがあってですね。この帝国内に宝石のゴーレムがいるという話を耳にしたんですけど、どこにいるか知ってますか?」

「ギルドで調べたん?」

「いえ、それはこれからですね。まあ世間話がてらオレーシャさんなら知ってるかなって聞いてみただけです」


 ギルド本部には帝国のダンジョンやモンスターについて記された資料室が存在している。

 ギルドに報告された資料が整理されて並んでいるため、なにかを発見した者がそれを意図的に隠していたりしなければそこで調べ物をすれば事足りるはずだった。

 しばらくの間じっと2人を見つめていたオレーシャが、薄い笑みを浮かべる。


「いつもの坑道ダンジョンの奥におるよ。ウチが通っとるのもそのためやし。やっぱり狙いはオリハルコン?」

「あれっ、宝石のゴーレムってオリハルコンなんて落とすんですか? 私たちはコアが欲しかっただけなんですけど」

「コア? あー、稀にゴーレムが落とすアレかいな。なんでそんなもんがいるん?」

「生産に使うんですよ。宝石を自動で研磨する設備かと色々活用方法があるんですよ。宝石の種類にもよりますけど」

「へー、これにそんな使い道があったなんて知らへんかったわ」

「えっ、それ!?」


 なにげなくオレーシャが取り出してみせた青緑と赤と交互に明滅する丸い玉を見つめて、ラティアが驚く。

 それはまさしくラティアが求めているコアそのものだった。


「アレキサンドライトコア」

「さすが生産職やわ。見ただけでわかるんやね」

「そりゃあそれだけ特徴ある光りかたをするんだからわかりますよ。で、ものは相談なんですけど、お金の代わりにそれをくれませんか? オレーシャさんは使いませんよね」


 ニコリと笑って手を差し出すラティアに、オレーシャも負けじと笑みを浮かべながらアレキサンドライトコアを手で転がす。


「それはわややわ。これを手に入れるのにはそれなりに苦労したんえ」

「でもそれ1つだけじゃないですよね?」


 ラティアの指摘に、オレーシャの口の端が釣り上がる。

 気軽にマジックバッグから取り出してみせた様子からして、オレーシャは確実に複数のコアを持っているとラティアは見抜いていた。

 そしてそれがラティアの反応を見るためということであることも。


「オレーシャさんは私になにを望んでいるんですか?」


 確信をズバッと聞いたラティアにオレーシャはその目を細め、そして歯を見せて笑ってみせた。


「ウチと一緒にオリハルコンを探して欲しいんよ。もし見つかればウチの持っとるコア、全てあんたにあげるわ」

お読みいただきありがとうございました。

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R07.2.19 新作の投稿を始めました。非常口のピクトグラムが異世界で冒険する物語です。意味がよくわからない人は一度読んでみてください。

「ピクトの大冒険 〜扉の先は異世界でした〜」
https://ncode.syosetu.com/n7120js/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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