ガチムチ❤️きんたろう
二話目はきんたろうです。
筋肉全振りです。
どうぞお楽しみください。
昔々、足柄山というところに筋太郎という男の子がいました。
筋太郎はとても力持ちで、山のどんな動物よりも強い少年でした。
山一番の力持ちで暴れん坊だった熊も、筋太郎との相撲対決に敗北し、子分となっていました。
今は筋太郎のトレーニングのウエイトを務める毎日です。
「いや、俺もね? 正直こんな役どころどうかと思うのよ。でも仕方ないじゃん? 俺以上に今の筋太郎に適切なウエイトがないんだから。仕方なくよ、仕方なく」
筋太郎に片手で持ち上げられながら、寝そべった姿勢の熊はムカつく口調でそう言いました。
そんな姿を見た都の侍が、筋太郎をスカウトしに来ました。
「都では鬼達が売る薬で見た目ばかりの筋肉がもてはやされております! あなたのような真の力ある筋肉で目を覚まさせてください!」
「吝かではない」
筋太郎は都に行きました。
そこは筋肉を肥大させる薬でむきむきになった若者が往来を歩いておりました。
「どうだいこの上腕二頭筋!」
「俺の腹直筋を見ろよ!」
「……嘆かわしい」
筋太郎は溜息を吐きました。
そこに鬼達がやってきました。
「さぁさぁお立ち会い! 一ヶ月飲むだけで誰でもむきむきだよ! さぁ買った買った!」
「……あれか」
「筋トレなんて無駄無駄ァ! 楽してズルしてムキムキになろう!」
「……!」
筋太郎は鬼の元へと近付いていきました。
「おやぁ? どうした少年! なかなか引き締まった身体だけど、筋肉量が少ないなぁ! どうだい! この薬!」
「……筋肉が泣いている」
「あ? 何だって?」
「筋肉はただ太らせれば良いんじゃない。鍛えて力を発揮してこその筋肉だ」
「へっ、筋肉が付かないからってひがんじゃいけないぜ! この薬を飲めばそんな問題わっ!?」
筋太郎はあざ笑う鬼をひょいと持ち上げました。
バーベルのように持ち上げられた鬼は、目をぱちくりさせました。
「これどういう状態?」
その体勢のまま、スクワットを行う筋太郎の姿に、人々が集まってきます。
「え、あんな事できるのかよ……!」
「しかも腕なんか俺より細いのに……!」
「いや、あれはまさかガチムチ!」
「知っているのか!」
「あぁ、聞いた事がある……。一般的な肥大した筋肉をムキムキと呼ぶ一方、力としなやかさを兼ね備えた無駄のない筋肉、それをガチムチと呼ぶ、と……」
「じゃああれが本当の筋肉……!」
「兄貴! 俺達にもその筋肉の鍛え方を教えてくれ!」
「吝かではない」
こうして筋太郎は都でインストラクターとして名を馳せました。
「……真の筋肉だと……? 厄介な奴が都に来たものだ……。場合によっては俺が出ねばなるまいな……」
それが筋肉増強材の販売元、大江山の酒呑童子との激しい筋肉バトルにつながる事を、この時の筋太郎はまだ知らないのでした……。
がちむちがちむち。
読了ありがとうございます。
次は浦島太郎です。
よろしくお願いいたします。