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小椋夏己の見聞録  作者: 小椋夏己
2025年 11月
56/57

「天空のアトラス」から「ファルネーゼのアトラス」(芸術)

挿絵(By みてみん)


 この夏は万博に自分の予想以上にたくさん行くことができました。本当に楽しかったなあ、まだまだ行きたかったなあ。


「万博が終わったらどうしたらいいんだ」


 そんなロスの予感の中、


「イタリア館の展示を大阪の美術館で展示する」

 

 という情報が飛び込み、ぜひとも行きたいとチケットをトライしたんですが、


「なにこれ万博と同じぐらいの混みよう!」


 幸いにして自分と妹家族の分のチケットは確保できたんですが、ちょっとした話題になるほ入場予約がが取れない状態の中、無事アトラスと再会することができました。


 まず入ったところではイタリア館の最初の劇場で流していた映像を見ることができます。万博用に作っていた映像なのでイタリア館に行ってない方は「これなんだろう」と思う物も出てきますが、こういうのを流していたんだなと思って見ていただくといいでしょう。


 映像の最後、私はそれがどこの建物か分からないままなんですが、きれいな円形の建物に、


「芸術は命を再生する」

 

 の文字が出た途端、鳥肌が立ちました。

 

 その最後の建物が出たら、壁が四枚に分かれてくるりと回り、目の前にアトラスを中心とした展示室がどーんと姿を現すんです。あの演出はすごかった。普通に次の部屋に入るのではなくこの展開、しょっぱなからかましてくれたなとイタリアの本気を感じたものです。


 それを思い出しながら壁の仕切りと言っていいのかな、それを抜けるとアトラスです。万博と同じあの台座の上にあの力強いアトラスの姿が!


「お久しぶり」


 そういう気持ちでまた周囲をぐるぐる回ってあっちからもこっちからも見て回りました。何度見ても飽きません。


 これが2世紀、150年あたりに作られたものだということにまずびっくりです。


 神話によると戦いに敗れたことからゼウスに「おまえは天空でも背負っとけ」とかつがされているので苦しそうな顔をしています。このあたり、天動説だったからでしょうかね。地動説だったら天空背負えませんから。


 重いものをぐっと背負っている筋肉の盛り上がり、血管もぐぐっと盛り上がってます。右膝は山のようなものの上についてますが、こうしてるとちょっとは楽なのかも知れません。

 

 ところで、今回アトラスを見ている時にとても残念なことがありました。それはある一人の方の行動なんですが、さすがにちょっとびっくりしたので書いておこうと思います。


 アトラスの部屋に入ったら何枚かのパネルが貼ってあり、そこにアトラスの解説やら天空儀の星座の解説やら、色々とためになることを書いてあります。


 まず最初のパネル、アトラスの解説の前には何人もの人がいて解説を読んだり写真を撮ったりしていました。写真に撮っておいたら解説も後で読み返せますからね。


 その時に二人の女性がその真正面に立って読みながら話をしていました。私はその方たちがどいてくれたら写真を撮ろうと思って後ろで待っていて、他にもそういう人が何人かいました。


 その二人がそこそこちょっと迷惑だなと思うぐらい真正面、写真を撮ったらどこからでも画面に入ってしまいそうなところにいたんですが、読んだらどくだろうと思っていたら、すぐ横から少し年配で杖をついたおばさんが、


「◯◯ちょっとどいて、写真撮る」


 と言って、その二人の真ん中に割って入ったのでまずそこにびっくりしました。どうやらその二人の知り合いのようです。


 その最初のちょっとだけ迷惑かなと思うか思われないかギリギリの二人の中にそのおばさんがどんと入り、パシャパシャと写真を撮り出しました。それはまあいいんです、みんなやってることなので。ただ、みんな並んでるのに押しのけてまでなのでどないやねんとは思ったものの、撮ったらどくだろうと思っていたら、写真を取り終わっても全然どかない、それどころか「ふーん」と口に出しながら説明文を読み始めました。


 正直、


「ええかげん迷惑な厚かましいおばはんやな」


 と、心の中で毒づきました。そのぐらいの態度だったんです。そして最後まで読み終わったかなと思ったら、また追加で何枚も写真をぱしゃぱしゃ撮ってから、待ってる人に何も言わずに並んでる人の間を、


「おまえはモーゼか」


 と思うぐらい堂々と通り過ぎて行ってしまいました。

 

 それだけでも本当になんて人だろうと思ったんですが、その後でさらにもっとすごいことがありました。


 説明を見てからアトラス本体を見に行ったんですが、やっぱりみんな正面から見たいようで、正面に人がいっぱいいて、みなさんやっぱり写真を撮るのに並んで待ってました。


 私もまた並んで正面まで進んでさて写真を撮ろうかなと思ったら、台座の足元に低い姿勢で写真を撮ってる人がいるのに気がついたんです。


「下からのアングルを狙ってるんだな」


 軽い気持ちでそう思い、私も低い姿勢で下からも撮って、正面からも撮ってさて次の人に譲ろうかと思ったその時です、その低い姿勢の人、床に座ってたんですが、いきなりアトラスの台座の手すりというか柵というか、それに両手をかけて自分の体重を全部かけて立ち上がった!


「ええっ、何してる!」


 本当にびっくりしました。だって、台座には触れるなって注意してるんですよ、だからみんな当たらないように注意してるのに、まるでそのへんの階段の手すりか何かを持つみたいに、自分が立ち上がるのだから持って当然のように両手で持って立ち上がったんですから!


 もちろん係の人が飛んできて「手を触れないでください!」ともう叫んでましたね。その立ち上がった人、係の人の声にも知らん顔をして、右手で下に置いてある杖を持つと(もしかしたら左手でまだ手すりを掴んでたかも)何も言わず無視したままとっとと行ってしまいました。


 もうお分かりかと思いますが、さっきの説明のところで「どあつかましかったあのおばはん」です。いや、もうこれ以上の称号は見当たりません、私には。

 

 アトラス、イタリアの至宝というか人類の宝ですよ。2トンもあるからさすがにあのおばはん一人が体重をかけても倒れるようなものでもないですが、あまりにもあまりな態度に怒りを通り越して頭が真っ白になりました。


 最初に書いたようにアトラスの予約取るの大変でした。みんな苦労して取ってるんです。多分このおばはんもそうやって取ったんだと思います。でも申し訳ないですがこういう人にこういう展覧会には来てもらいたくないと思いました。最低限のマナーも守れず、それどころかまるで世界が自分のためにあるかのような振る舞い、見る資格がない人だと思ってしまいましたが、私だけじゃないと思います、そう思ったの。


 そんなショッキングな出来事はありましたが、アトラスにも何もなかったので話をちょっともとに戻しますか。


「アトラスの正面」


 これについて連れのT氏と議論となりました。


 アトラスの足元に説明のパネルがあるんですが、私はそちらではなくてアトラスの顔が向いている方が正面ではないかと思ったんです。


「パネルがある方が正面じゃないの」

「いや、顔が向いてる方じゃないの」


 360度どこかららも見られるんですから、どこが正面でもいいですが、やっぱりパネルのある方を正面と、そちらにたくさんの人が集まってました。でもなんというか私は顔が向いてる方から見た方が奥行きがあるように感じたんですよね。左肩にかけてる布もそちらから見ると一番奥ですし、ふんばってる足の格好もいい、天空儀もしっかり見える。


 その証拠のようにチラシにはアトラスがこっちを見てる角度からの写真を使ってます。でも説明のパネルは違う角度なんですよね。


「こちらが正面だ」

「いや、こっちだろう」


 議論しながらもう一度周囲をぐるぐる周り、なんとか満足したので次の部屋へと進むことにしました。


 もう一度アトラスに会おうと思ったら、今度はイタリアまで行かないといけません。今生ではもう会えないかもなあ。でも二回会えただけでもラッキーだったと思っています。

写真左から、


1枚目:「ファルネーゼのアトラス」の解説。

2枚目:パネルが置いてあるこちらが正面に思える方角から。

3枚目:私はこちらが正面ではないかと思う方角から。

4枚目:かついでいる天空儀にある星座の解説。

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