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009 保健室に行くと前世がミジンコ(自称)だった先輩と仲良くなってしまった 中編

 俺の名前は北村敏明。たまに変な事件に巻き込まれることを除いては何処にでも居そうなごく平凡な中学二年生である。

 今は昼休み。俺は今、学校の第一相談室に来ていた。



「初めて会ってから今日で一週間だね。状況はどうだい」


 自分の前世がミジンコだと思っている先輩、略してミジンコ先輩にそう訊ねられたので思うままに答える。


「想定の範囲内で収まっているので問題はありませんね。それにしてもゆっちゃんがもう居ない噂を立ててそれを事実だと周知させるのに一週間もかからないなんて、一体どうやったんですか。そっちの方に驚いてますね」

「想定の範囲内、ね。僕が北村君と同じ状況におかれたら間違いなく不登校になってるよ。それを想定の範囲内で収まってると答えられるなんて、北村君は人間として生まれ変わるのは何度目なのだろうか。その境地に到達したら世界はどう見えるのかと興味は湧くけど、僕は来世はミジンコに戻るから興味を持つだけで終わらせておこう」


 ミジンコ先輩の価値観と言葉選びはクセが強いので普通の人からすれば何を言っているのか判らないと思われる。

 まあ、そんな場合は無理に理解する必要はない。その場のノリで会話をすればよし。

 それがミジンコ先輩と会話を続けて判ったことだ。


「俺は北村敏明として生きている記憶しかないので前世のこととかは判らないですね。あと、俺は単純に自分の人生を他人事のように思っているだけなので大したものではないですよ」

「他人事か。それが出来れば僕ももう少しはまともに生きれるだろうか」

「それは俺には判りませんね。そもそもどんな生き方がまともかなんて誰にも判らないし、重要なのはまともかどうかではなく満足しているかどうかでしょうね。まあ、それも死ぬ瞬間になってみないと判らないものだと思いますね」

「満足しながら死ぬか、後悔しながら死ぬか。確かにその時になってみないと判らないことだねぇ」

「そういうことですね」


 とまあ、こんな感じでその場のノリで会話してても、意外と会話は成立するものだ。ただ、その場のノリで会話しているだけなので自分でも何を話しているのか判らなくなるのが難点ではある。


「ああ、そうだ。最初の質問に答えてなかったね。噂の広め方は各委員会の委員長が集まる集会があったからその時に話しておいたんだよ。事実だと周知されたのは生徒会の裏取りのお陰だろうね。北村君のところに誰かやって来たんじゃない?」

「ああ、言われてみれば女子の先輩が来ましたね。話しかけられて頭撫でられたり色々されたあとで『邪魔したな』とだけ言い残して去っていったから今聞かれるまで忘れてました」

「まあ、そんな感じだよ。納得出来たかい?」

「納得しました」


 裏で結構色んな人が動いていたんだな。

 ミジンコ先輩にも結構迷惑かけてるよな。

 となると、俺がここに来たら何か面倒なことになったりしないだろうか。


「俺ってここに来ても大丈夫なんですか? もし迷惑なら来ないようにしますけど」

「いや、気にする必要はないよ。ここは僕の縄張りだから何の問題もない。というか、居なくなると折角の話し相手を失うことになるからこっちが困る」


 まあ、そういうことならお邪魔させて貰おうか。

 しかし話し相手か。


「話し相手が欲しいなら他にも連れて来ましょうか?」

「それはありがたい提案だけど誰でもいいって訳じゃないんだよねぇ。北村君みたいなタイプの人間なら大丈夫だけど」

「うーん、俺みたいなタイプではないですね。ただ、今の状況でも俺側についてくれている人たちなので、俺にとってはありがたい存在ですけど先輩にとってはどうなんでしょうね」

「北村君側についてるってことは緑葉さんとかかな?」

「そうですね。あとは風呂子さんですね」

「ああ、あの白い髪色の子か。二人とも北村君と同じクラスだね」

「名前だけで誰か判るのは流石ですね。でも、どうやって全校生徒の顔と名前を覚えたんですか? わざわざ本人に名前を確認してはいないですよね」


 俺はミジンコ先輩に直接名前を訊ねられたことはないので、どうやって顔と名前を覚えたのかが前々から疑問だった。


「それか。北村君は職員室には入ったことあるよね?」

「そんなに頻繁には入りませんけどありますね」

「じゃあ、職員室の壁に先生方が生徒の名前を把握するために顔写真と名前の一覧を額縁に入れて飾ってるのは知ってるかな」

「ああ、そういえばそんなのありましたね。……って、もしかしてそれを見て覚えたんですか?」

「そういうことだね」

「1000人近い生徒全員をそれだけでよく覚えられましたね」

「暇だったからね」


 暇潰しで覚えられる難易度ではない気がするが、深くは気にしないでおこう。

 疑問は解消したのであとはどうしようかと考えていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


「じゃあ、俺は戻りますね。二人は明日ここに連れてきても問題ないですか」

「とりあえず会うだけ会ってみようか。相性が合わなかったらお引き取り願うことになるかもしれないけどね」


 話が終わったので俺は相談室を後にした。



――



 それまで会話をしていた二人の少年の内、一人が部屋から出て行った。

 部屋に取り残された少年は無言のまま部屋の片隅に設置している掃除道具の入ったロッカーに目を向けている。

 少年は呟くように言葉を発した。


「彼はなかなか面白い人だね。君もそう思わないかい」


 少しの間をおいて、ロッカーが内側から開かれた。

 ロッカーの中から現れたのは一人の少年だった。


「興味ないです。それよりも、いつから気付いてました?」


 ロッカーから現れた少年はそう答えながら先ほど部屋を出て行った少年が座っていた椅子に座り込んだ。


「気付いてはいないね。独り言を呟いてたら君が応じて会話になってしまっただけだよ」


 そう言って肩をすくめる少年。ロッカーから出て来た少年は「相変わらずやり辛い相手ですね……」と呟きながら目の前で肩をすくめている少年に視線を向ける。


「とりあえず色々調べて来ましたけど、良いニュースと凄く良いニュースとこれ以上ないほど良いニュースのどれから聞きたいですか?」

「良いニュースばかりだね。悪いニュースはないのかな」

「ありますけど聞きたいですか?」

「聞く気はないね」

「そういうと思って最初から除外しておきましたよ」

「気が利くね」

「それでどれから聞きたいですか?」

「良いニュースを下から順番に聞こうか」

「判りました。では……」


 話し始めた少年の言葉をもう一人の少年は静かに聞いていた。



―続く―

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