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008 保健室に行くと前世がミジンコ(自称)だった先輩と仲良くなってしまった 前編

 俺の名前は北村敏明。たまに変な事件に巻き込まれることを除いては何処にでも居そうなごく平凡な中学二年生である。前回の一連のゆっちゃん騒動の結果、俺に近付いたら祟りに遭うと周りから認識されてしまったので、学校では俺に近寄ってくる人間が委員長さんと電波ちゃんしか居なくなってしまったところだ。

 とりあえずいつも通りに学校に通っているが、ゆっちゃんがもう居ないことが知れ渡れば少々面倒くさいことになるのは容易に予想できる。ゆっちゃん事件で被害者が出ている以上、その反動がゆっちゃんと一番親しかった俺に向かうのは自然な流れだろう。

 嫌がらせレベルで済めばいいのだが、どうなるかはその時になってみないと判らない。まあ、俺は成り行きに任せて落ち着く場所に落ち着く性分なのでそれほど深刻には考えていない。

 そんなある日のこと。俺は体育の授業で捻挫してしまったので委員長さんに付き添われながら保健室に向かっていた。まあ、本来は付き添いは学級委員ではなく保健委員の役割なのだが、誰も俺に関わりたくないだろうから仕方がないだろう。



「大丈夫か、とっしー」

「大丈夫ですよ。結構痛いですけど」

「それは大丈夫とは言わないぞ」


 心配して声をかけてくれる委員長さんとそんなやり取りをしながら保健室へ向かう。


「しかしながら、やはりゆっちゃん事件の影響は大きいな」

「既に済んだことだから考えても仕方ありませんよ。そういえば緑かぶさんは野菜王国に戻ったんですか?」

「ああ、無事に戻ったと報告は受けている」

「静香さんはどういう扱いになるんですか」


 幽霊少女のゆっちゃんこと湊静香さんは色々あって野菜族に転生するべく緑かぶさんと一緒に野菜王国に戻ることになっていた。


「ああ、こちらの世界の人間が野菜族として転生すること自体は珍しいものではないからその点に関しては別に心配はしなくてもいい。野菜族として第二の人生を自由気ままに送る……のは、あの族長のもとでは無理な話だろうけど……いや、そもそも……」


 委員長さんは頭を抱えながら何やらブツブツ言っているのでスルーしておく。

 まあ、静香さんが無事に転生できるならそれでよし。ということにしておこう。

 そうこうしていると保健室の前までたどり着いたので中に入ることにした。


「失礼します」

「いらっしゃーい」


 挨拶をしながら保健室に入ると保健の先生ではなく、一人の男子生徒に出迎えられた。


「保健の先生は今は用事で職員室に行ってるから暫く戻って来ないよー」

「そうなんですか。ふむ、どうしたものか」


 男子生徒の言葉を聞いて考え込む委員長さん。その様子を見ていた男子生徒が話しかけて来た。


「怪我? 体調不良? 怪我なら僕が診ても良いし、体調不良ならベッド空いてるから使えば良いよ」

「ええと、貴方は?」

「ただの保健委員のボスだよ。それで、緑葉さんと北村君のどっちが患者さん?」


 保健委員会などの委員長は各クラスに居る学級委員長とは違って基本的に三年生がなるので、この男子生徒はどうやら先輩らしい。それよりも、どうして面識のない俺の名前を知っているのだろうか。

 そう思いながら委員長さんの方に目を向けると、委員長さんも不思議そうな表情をしている。


「どうして俺の名前を知ってるんです?」

「ん、とっしーも知り合いじゃないのか?」

「ということは委員長さんも?」


 委員長さんと二人で話していると、「ああ、暇だから全校生徒の名前と顔を覚えてみたんだよ」と何でもないことのように先輩が話しかけて来た。


「え、全校生徒の名前と顔を把握しているのですか?」

「まあ、そうだね」


 委員長さんが珍しく驚いている。まあ、それもそうだろう。多少誤差はあるがうちの学校は1つのクラス40人が1学年8クラスあってそれが3学年ある。単純計算で960人だ。それを全員把握しているとこの人は言っているのだから驚くのも無理はないだろう。


「凄い記憶力ですね」

「暇だったから覚えてみようとしたら意外と覚えれたんだよね」


 俺の言葉にそう答える先輩。色々ツッコミどころ満載だが、そういう人も居るんだろうと受け入れることにしておく。それよりも、先輩からの質問にまだ答えてないことに気付いたので答える。


「患者は俺の方ですね。体育の授業で捻挫してしまったので」

「なるほど。ということは緑葉さんは付き添いか。というか、何でうちの委員が付き添ってないのかねぇ……とりあえず捻挫した箇所見せて」

「あー、まあ色々ありまして。別にうちのクラスの保健委員に問題がある訳ではないですよ」


 とりあえずフォローしておいた。


「まあ、授業をまともに受けていない僕が叱っても説得力ないからやらないけどね。ところで緑葉さんはこの後どうするの? 授業サボる?」

「いえ、先輩が診てくれるのでしたら私は授業に戻ります」

「真面目だねぇ」


 とりあえず先輩に診て貰えることになったので委員長さんは授業に戻っていった。

 そして、治療が終わったタイミングで先輩が不意に訊ねてきた。


「そういえばゆっちゃん近くに居るの?」

「ああ、やっぱり知っていましたか」

「知らない人は居ないと思うよ。まあ、北村君の名前と顔が一致してる人がどれだけ居るかは知らないけど」


 俺は学校内でかなりの有名人になっているようだ。

 しかしながら、どう答えればいいのだろうか。

 まあ、素直に答えるか。


「ゆっちゃんは今はもう居ませんね」

「あら、居ないのか。それは一時的に? それともずっと?」

「説明するのが難しいので要点だけいいますと、悪霊としてのゆっちゃんは既に祓われていてもう周りに被害を出すことはないですね」


 ゆっちゃんがもう居ない事実を広めるにはいい機会かもしれないので先輩に話してみた。これによって俺が置かれている状況が悪くなるかもしれないが、まあ、それはその時になってから考えよう。


「なるほど。……ん、この話は周りに話さない方がいい? 学校内でゆっちゃんへのヘイトが結構溜まってるから北村君大変なことになりそうだし」


 先輩がそう訊ねてくる。この先輩は結構気が回る人のようだ。

 しかしながら、何で俺が関わる人たちはみんな妙に察しがいいのだろうか。まあ、詳しく説明するまでもなくこちらの考えを理解してくれるので会話が楽で問題はないのだが。


「話しても問題ないですよ。というか、むしろ今の内に事実を広めて伝えておかないといつか緊張状態が爆発して大変なことになりそうですし」

「ああ、確かにそうだね。今の段階で既に学校で起こった悪い出来事が全てゆっちゃんの仕業って風潮になってるから、ゆっちゃんがもう居ないって話を広めておかないと危なそうだ」


 なかなか想像よりも深刻な状況だ。


「とりあえず、話は僕が広めておくからそれはよし。問題は君の状況だねぇ。まあ、人間関係に疲れたら第一相談室に来るといいよ。僕はいつもはそっちに居るから話し相手くらいにはなれるよ」

「ありがとうございます」

「まあ、君のためというよりも僕が暇なのが理由だけどね」

「先輩は授業受けてないんですか?」

「受けてないよ。相談室でゴロゴロして給食食べて委員会の仕事して家に帰る日々を絶賛継続中」


 ふむ、どうやら先輩は授業をサボってるのではなく、本格的な相談室登校生のようだ。

 先輩は話を続ける。


「僕は前世がミジンコで今回初めて人間に生まれたから上手な生き方が判らないんだよね。主に人間関係で苦労してるんだよ」

「ミジンコからいきなり人間ってなかなかハードル高いですね」

「やっぱりそう思うでしょ? 来世はミジンコに戻りたいね」


 そういって肩をすくめる先輩。

 これが相談室のヌシことミジンコ先輩との最初の出会いだった。



―続く―

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