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猫の擬人化アリかナシか  作者: 不眠の民
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節分即興で書いた【音ゲーの一時停止からコンボを繋げるのは至難の業】

遅れました。

デモ投稿しました。

見ていただけらば幸いです。

何時間…いや、何年かかったか。

俺は今人生最大の修羅場に出くわしている…。

一つのまばたきすら許されない状況に、指は疲労からか震え、息つく間もない。

乾いた眼球から血の涙が流れてきそうな程、集中し続けた。

何度だって諦めた。

「これは人間の出来るもんじゃ無い」

「判定おかしいだろ!」

何度だって失敗するたび、怒り、憎しみが俺の中に生まれ、形にならない感情をサンドバッグにぶつけてきた。

良くない行動だとは分かっている。

だが、それがやらない理由とはならない。

おかげですっかり、テーブルに軽いへこみが二、三個出来てしまった。

だが今ではこの不格好なへこみですら、努力の勲章に見えてくる。

(よし!難所は乗り切った!)

心でガッツポーズをすると、0.01秒で喜びをグッと堪え、最後まで気を許さぬようにする。

(あと、ホントに…もう少し……!!)

「ご主人さまご主人さま!今日が何の日か知っていますか?」

いつものごとく音ゲー三昧の休日を過ごしていた俺の集中を切ったのは、尻尾を振り乱し興奮気味のバニラ。

フルコンボ目前でイヤフォンを外され、俺は慌てて右上の一時停止ボタンを押す。

「え、今日?」

(何で今なんだぁぁぁぁぁあ!)

バッドタイミングなバニラに心は台を叩くよう指示するが、理性がギリギリ発動し命令をはね除ける。

「はい!今日は日本人にとっては大切な“あの日”ですよ!」

答えを待つバニラの瞳の輝きは一点の曇りも無く、完璧な回答を求めていた。

「え…え~と…」

その期待の重さに、真っ白になる俺の脳。

人の名前や誕生日など全く覚える事の出来ない人間には難解すぎる問題だ。

「う、うーん…なんの日だったけ?」

考えても仕方がないと、俺は正直に白状する。

するとバニラの尻尾は勢いを無くし、頬を膨らます。

「節分ですよ節分!なんで忘れてるんですか」

「ああ、そっか」

そっけない反応に、バニラは眉をひそめて怒りを示す。

(節分ってそんなに大事な日か?)

バニラのオーバーとも言えるリアクションに、ふと疑問がよぎる。

個人的にはお正月やお盆など他の行事と比べると影が薄く忘れられがちな部類だと思うのだが。

「ご主人さまを襲いに来るふとどきものを豆で成敗し、そやつの屍の上で一緒に恵方巻きを食べましょう!」

バニラの反応はクリスマスやハロウィンに匹敵するほどのものだ。

「さあご主人さま、いつまでもダラダラとしていないで、鬼を迎え撃つ準備を!」

「えっ、ええええええ」

俺は手を引かれ勢いのまま準備をすることになった。


…………


傾く夕日、街灯の光が薄く灯り出したころ、俺は疲労感に包まれながら近所のスーパーから帰っていた。

バニラと共に恵方巻や豆を用意しようと冷蔵庫を漁るも、毎度のことながら家には恵方巻の具材どころか食材がなく、バニラに睨みつけられ今に至る。

「ハァ…なんでこんなことに」

袋の重みからか、自ずと溜息が出てしまう。

いや、袋の重みだけではない。

多分この疲労の原因はスーパーで見てしまった主婦たちの夕方の死闘にも原因があるだろう。

夕方彼女らは店員の一挙手一投足に猛獣のような目つきで睨みつけ、半額シールが貼られるのを今か今かと待っていた。

そして半額シールが貼られると皆一斉に商品へ脇目も降らず飛び出し、争いが始まる。

撥ね退けられる主婦、飛び交う怒号、そうした激闘が三分ほど続いたのち…。

「フン!私に勝つだなんて100年早いよ!」

パーマをかけ、ヒョウ柄の服を着た飴を配っていそうな大柄の女性は商品を大袈裟に掲げると、そう吐き捨てて颯爽とレジに向かっていった。

「二度とあんな地獄絵図ごめんだ…」

これからはあの光景に出くわさないようスーパーに向かう時間には気を付けると肝に銘じ、いつしか家の前。

「ただいま~」

「お帰りなさいご主人さま、ささ、早く手を洗って、準備はできてますから!」

しっかりとエプロンに身を包み準備万端のバニラ。

(よかった、機嫌が直ったようだ)

食材がないと知った時のバニラは、今にも襲い掛かってきそうな獲物を狩る目つきをして、「ウゥ…」と唸っていた。

その姿は親父がバニラの尻尾を踏んで怒らせた時の反応と似ていた。

その結果親父は足から多量の血を流し、妹の美里哉が悲鳴を上げ、その日は怖いからと俺のベットで寝ていた。

その事件以降親父はバニラがトラウマで、撫でることもしなくなり、見るたびに、足の傷が痛むとか。

「…どうしましたご主人さま?早く買ってきた食材を切りましょうよ」

「あ、ああ…」

バニラの凶暴な姿を思い返し、本当に機嫌を直してくれてよかったと心底思う。

「さて、ご主人さまはどんなのを買ってきた…」

袋から食材を一つ一つ出していくと、バニラの顔はどんどんと目元に影を落としていく。

「ん?どうかしたかバニラ?」

「何で…何で…何で魚がないんですか!」

買い物袋が空になったのを見て、バニラは抑えていただろう感情をあらわにする。

俺が買い物袋から出したのは、豆まき用の豆、卵、キュウリ、カニカマ、レタス、アボカド、のり。

確かにマグロやサーモンなどの魚はない。

「ご主人さまは真面目に恵方巻を作ろうと思ってないのですが!」

「カニカマあるじゃん、一応魚だぞ?」

「カニカマって…こんなの人間のカニへの欲望が生み出した紛い物ですよ!」

「カニカマ美味いじゃん…バニラだっていつも喜んで食べてたじゃん…」

「なっ……それは私が猫だったときの話ですよ!」

頬を染め図星なバニラ。

刺身の魚は根こそぎ主婦たちに先取りされてしまい、仕方なく俺は目についたカニカマをかごに入れ達成感に浸り帰ってきた。

それをこんな風に言われるとは…まあ、予想していなかったわけではない。

だから俺は、第二の秘策をこの食材の中に隠している。

「で、結局カニカマ恵方巻にするんですか?」

少々納得のいっていないバニラに、俺は不敵な笑みを浮かべる。

「な、何ですか…まさか、ちゃんと魚を…」

「いや、そうではないんだが…」

即答する俺に、尻尾をたたきつけ怒りを示すバニラ。

「まあ、本物はなくても、人間の味覚ってのは惑わせられるんだ…バニラ…」

「……?」

首を傾げるバニラに、俺は第二の秘策を披露するため、アボカドを一口大に切り、冷蔵庫から刺身醤油を取り出す。

「……この二つで錬金術でもするんですか?」

「フフッ…錬金術…ある意味そうとも言えるかもな」

勿体ぶる俺の態度に、完全にお怒りのバニラ。

包丁を持ち出して今にも襲い掛かってきそうだ。

その反応に俺はすぐさまアボカドに醤油をかけ、自信満々にバニラに差し出す。

「………刺身はどこですか?」

「どこって、これだよこれ、これがマグロの味なんだ」

「ハァ……毎度のことながらバカなことを言いますね…そんなわけないじゃないですか」

怒りなど吹っ切れ、もはや呆れにシフトチェンジしたバニラの感情。

肩を落とし、深く溜息を吐くさまは、もはや主人としても、人間としても見ていないようだった。

「……一回…一回だけでいいんで…食べていただけませんか…」

心底嫌そうな顔をしつつ、バニラは一つ、醤油アボカドを食べる。

「どう…でしょう…」

バニラは天井を見つめ、ゆっくりと咀嚼しテイスティングしている。

俺も一つ、アボカドをつまみ、味を確かめる。

「…………」

「…………」

俺も同じように天井に視線を向け、ゆっくり咀嚼する。

「……………………?」

「……………………?」

醤油アボカド、マグロのようにも思えるし、アボカドに醤油をかけたような味にも思える…。

そんな謎めいた味に、俺もバニラも困惑することしかできない。

「………これは…別に美味しくないわけじゃないですが、普通にマグロを買ったほうが良いと思います」

「はい……すいません…」

総評、小細工なしにマグロを買え。


…………


どうにか醤油アボカドで怒りを沈めた?俺はカニカマ疑似マグロ恵方巻をバニラと作り、ササッと食べることにする。

「恵方巻って…絶対黙って食べきるの無理だよな…」

「ダメですよご主人さま、しっかりとした行事をこなさないと罰が当たりますよ!」

「ハイハイ…」

「では、今年の恵方は…東北東のやや東…」

やや東って…結局どこなんだと疑問が浮かぶが、これ以上バニラにとやかく言われるのもあれなのでぐっとこらえる。

「多分…こっちですよね…では、食べますよご主人さま?話しちゃダメですからね?わかってます?」

「分かってる分かってる…」

「では、頂きます…ンッ…」

恵方巻を口にすると、律儀に黙々と食べ進めるバニラ。

一方俺は、そんなバニラの様子に一ついいことを思いついた。

「…………」

早くも半分ほど食べ進めたバニラ。

(……まだだ…)

好機はまだここではない。

もう少し、食べ進めたらだ。

「…………」

集中を切らさず恵方を向き続け、食べるバニラ。

残りの長さは後三分の一といったところ…。

(もうちょっと……まだ粘れる…)

「…………」

残りも五分の一に差し掛かってきたころ。

(よし…)

「美味しいか、バニラ?」

「…ンッ?ハイ!もちろん……って、あっ!」

残り一口といったところでバニラは喋ってしまった。

いや、明らかなる俺の誘導尋問に引っかかってしまったバニラ。

「ハハハハハ!喋っちゃったなバニラ!」

「むううううううう、性格悪いですよご主人さま!」

目に涙を浮かべ本気で悔しがるバニラ。

可愛すぎるバニラの反応に、少しながら節分というイベントに感謝をした。


…………


「最後は豆まきですね…」

「バ…バニラさん…これはどういったプレイでしょうか…」

俺は紙製の鬼の面をかぶらされ手足を椅子に縛り付けられ、身動きが取れないようにされていた。

「ご主人さまが悪いんです…私を騙すような事をしたから…」

「いや…でもバニラだって反応したし…」

「『美味しい?』と聞かれて無視なんてしたら印象悪いじゃないですか!しかも食べきる直前で言うなんて、性格悪すぎます!」

もっともな正論に何も言い返せない。

だが、お面の小さな穴越しに見えるバニラの必死に言い返すバニラの表情はとても愛おしい。

「逆にこれぐらいで済ましたこと感謝してください…豆まきの台になるだけだなんて、楽なもんですよ?」

「鬼って良くないものって感じなんですけど…」

「…………反省してください…」

そう言って構えるバニラ。

「では、鬼は…外!」

そうしてなげられた豆は、俺に対する恨みがこもってるとしか思えないほどの威力だ。

「痛い!バニラさん痛い!…豆って結構固いから、もう少しお慈悲を…」

「福は…内!!」

「痛い!」

「鬼は………外!!」

「あっ…当たっちゃいけないとこ当たった!マジ痛い!」

「福は……………内!!!」

「痛い!!!」

俺の言葉など耳を貸さず、バニラは気が済むまで豆を俺に投げつけた。

(やっぱり節分なんて大っ嫌いだァァアァアあ!)


…………


「ハァ…何で節分の豆って美味しく感じるんだろ…」

「敵に投げつける武器になるからじゃないですか?これから常備しておこうかな?」

「勘弁してください…」

不敵な笑みを浮かべるバニラに、情けなく頭を床につける。

「…………冗談です」

そう言いながら、薄く微笑み、豆を頬張る。

(なんやかんやあったが、節分、悪くなかった…)

今まで眼中になかった行事だが、バニラのおかげで節分の事をよく知った。

ひょんなことから始まった擬人化猫バニラとの生活。

決して良いことばかりではないが、そういった思い出も人生を豊かにするかけがえのないものだとしみじみ実感する。

「ありがとうな、バニラ…」

「なんですか急に…まだ完全に許したわけではありませんからね」

「フフッ……これからもよろしくな…」

「………もー何ですか!気持ち悪いですよ!」

そうして二人、豆を食べた。

(あ、そういえば…)

色々と忙しくて忘れていたが、フルコン目前の音ゲーを放置していたのを思い出す。

「さーて…一時停止中…」

俺は絶望した。

どこまで譜面を進めていたのか…仮に分かったとして、一時停止を解除しても…ノーツを打てるのかを…考えれば考えるほど絶望絶望。

(あぁ……やっぱり俺、節分嫌い)

死刑宣告のカウントダウンに、俺はそう返した。


…………

本日は節分でした。

節分の思い出を振り返るために見てください。

皆さんどうか、節分を忘れないで。

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