後編
フェリックと私が婚約を結ぶと、クリストーラ王国全体の運勢が上がり、次から次へと良いことが起こった。
天候に恵まれるようになったため、作物が大量に採れるようになり、民の飢えはなくなった。
魔法石と鉄鉱石が大量に取れる山が見つかり、貿易が盛んになったことで、民の生活は豊かになった。
対称的にバカ王子のいたウィザビラ王国は悪政が続いたため、逃げ出す民が続出した。
多くの民がこの王国に逃れて来たので、難民が自立できる環境も準備した。
「セイラミア、君のお陰でクリストーラ王国の全てが良くなったよ。本当にありがとう」
フェリックはそう言って、私に頭を下げた。
「いえ、今まで言えませんでしたが、私は以前、ウィザビラ王国から追放されました。ですが、フェリックは私のことを女神とまで言ってくださいました。フェリックがこの王国の王子でなければ、この発展はありませんでした。私はそう思っています」
「セイラミア……」
フェリックは、私の名を呼ぶと、そのまま私を抱きしめた。
「フ、フェリック?!」
「私と結婚してください」
「え、え、私とですか!?」
「ふふ、婚約者のあなた以外に誰がいるのですか?」
そう言ってフェリックが微笑む。
ああ、フェリックは本当に素敵な人ですね。
「私でよければ喜んで」
私がそう返事をすると、フェリックは、
「よし!」
と声に出して、拳を握った。
「あ、失礼、思わず」
フェリックが恥ずかしそうに顔を赤らめた。
そんなフェリックの純粋な姿に感化されたのか、私もなんだか気恥ずかしくなって顔が火照ってきた。
「セイラミア」
「フェリック」
私達はそう名前を呼び合い、お互いの目をしばらく見つめ合った後、ゆっくりと顔を近づけ……
優しい口づけを交わした。
◇
私とフェリックは無事に結婚して仲睦まじく過ごしていたが、その幸せは長くは続かなかった。
女神の化身として人としていられる期間を過ぎてしまったため、強制的に天界に戻されることになってしまったのだ。
「ごめんなさい、フェリック、私の正体は女神だったのです。そのため、私は天界に戻らなくてはならなくなりました」
「女神のようだとは思っていたけど、セイラミアが本当に女神だったなんて……」
フェリックがあからさまに離れたくないという表情をしている。
「フェリック、私も本当は天界に戻りたくはありません。ですが、私の本来の目的はウィザビラ王国を護ることでした。その使命を捨てた状態で、あなたと過ごし続けることを選択した場合、このクリストーラ王国に不幸を呼び起こすことになってしまうのです」
「そ、そんなことが」
「それはきっと、心優しいフェリックには耐えられないこと。ですから、これが私達の運命だと思って、どうか諦めてください」
「セ、セイラミアはそれでいいのですか! 私と離れ離れになることになっても、耐えられるのですか!」
「本当に、フェリックはズルいですね。本当は離れたくないに決まってるじゃありませんか。短い期間でしたが、私は心からあなたのことを愛していました。だからこそ、この私に天界の神が同情し、クリストーラ王国に福をもたらすことができるのです」
「セイラミア……」
フェリックは悲しみのあまり、今にも泣き出しそうだ。
「私はあなたのことを天界から見守り続けますから、だから、そんなに悲しい顔をしないでください」
「だったら、どうして!! どうして、セイラミアが涙を流しているのですか……」
「え?」
自分では気がつかなかった。
顔に手を触れると、大粒の涙が溢れ出していた。
あんなに時間をかけて、気持ちの整理をし続けてきたのに。
フェリックとは笑顔で別れようと思っていたのに。
「あはは、女神失格ですね」
私がそう言うと、フェリックが私を強く抱きしめた。
「セイラミアがこの王国の女神の化身になれるように祈り続けますから!! いつか、戻って来られるように祈り続けますから!! どうか、それまで待っていてください」
「いつになるか分かりませんよ」
「それでも、祈り続けます」
「戻ってくる頃には、フェリックはおじいさんになっているかもしれませんよ」
「それでも、祈り続けます」
「本当、フェリックはズルいですね。そんなこと言われたら、諦められないじゃないですか」
「諦めないでください」
「ふふ、本当にフェリックは諦めが悪いですね」
フェリックの諦めの悪さに、思わず微笑してしまった。
「それだけが取柄ですから」
そう言って、フェリックも私に微笑みかけてくれた。
「必ず戻ります」
「はい、必ず戻って来て……」
地上にいられる限界がきてしまい、フェリックの言葉を最後まで聞くことはできなかった。
こうして、私は地上から姿を消した。
◇
あれから五年、私はセイラミアのことを想って、時間を見つけては祈り続けていた。
クリストーラ王国は、五年の期間を経て更なる発展を遂げていた。
「今も私達のことを見守り続けているんですよね。セイラミア」
寂しくないと言えば嘘になる。
その寂しさを少しでも忘れられるようにと、私はクリストーラ王国のために必死に働いた。
もちろん、クリストーラ王国の国民を愛おしく思う気持ちはある。
けれども、セイラミアがこの王国に戻って来た時に、恥ずかしくない王国にしておきたい。
そんな思いもあった。
「でも、やっぱり、寂しいよ。セイラミア……」
「私もです。フェリック」
「?!」
この声は。
別れたあの日から何度も思い出し続けてきた、私が愛する人の声。
離れたくないのに、離れなければならなくなって、どうしようもなく恋焦がれた私の大切な人の声。
「セイラミア!!」
私は思わず大声を出して、セイラミアに駆け寄っていた。
「フェリック!!」
セイラミアも声を上げて、私に駆け寄って来た。
そして、お互いを強く強く抱きしめ合った。
「ずっと、ずっと逢いたかった!!」
「私も、ずっと、ずっと逢いたかったです!!」
お互いの想いをぶつけ合い、気がつくと私とセイラミアは涙を流し合っていた。
流し続けたその涙は、別れていた間に枯渇してしまっていた私達の心を満たし……
喜びの涙へと変わっていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
評価が多いと続きを書きたくなる気持ちになりやすいので、もし続きを書いて欲しいと思った方がいましたら、画面下の「☆☆☆☆☆」から評価をよろしくお願いします。
もちろんブックマークも嬉しいです!
感想も気軽に書いていただければと思います。
『どんな苦難もあなたとなら ~悪役令嬢にされて追放された私が敵国だった皇太子と愛を紡ぐ物語~』
というタイトルで新しく連載小説を投稿し始めましたので、興味がありましたら、そちらも読んでいただけると幸いです。
https://ncode.syosetu.com/n9338hn/