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三途の川に行った件

作者: 工藤まなみ

私は扁桃腺が弱く直ぐ熱を出していました。風邪をひくと内科ではなく耳鼻咽喉科に行ってました。看護学校を卒業して晴れて国家試験に合格して看護師になってもそれは変わらず逆に不規則な生活のせいで月一回は熱を出すといった感じでした。

そこで耳鼻科のドクターから扁桃腺取ったら?と提案されます。


「腎臓やられたら困るでしょう? 局所麻酔で直ぐだからさ」

と言われて師長と相談する。


「今ね、忙しくて‥‥‥そんなに長く休みはあげられない」


「まあ、局所麻酔で簡単に取れますから長い休みは取らないです」


「そうね‥‥‥よく熱出しているからね。それで休まれるよりいいかしら?」

‥‥‥そうですよね。(;'∀')

と言う訳で3日お休みをもらってオペに挑みます。オペ室の看護師。通称オペ看は寮では隣の部屋で友人。

私は夜勤明け(深夜から朝まで勤務)でそのまま入院。オペ看の友人と病棟の友人に挨拶をする。


「小児ではよくオペを担当するけど自分がとなると緊張する」

そんな私に病棟の友人が


「ふふふ。大人になってから取るのってオペ後のご飯は最悪だよ。朝ご飯はパンにしようか?」


「そうだね。そうしようかな」


当時は扁桃腺の摘出手術は夏休みを利用して予約が入る位でした。子供達はオペ後も元気でモリモリご飯を食べていました。自分もそうだと思っていたのですよ‥‥‥。友人がパン食にしてくれた意味が良く分かりました! 味噌汁は地獄のような苦しみでした。ううーーー傷に染みるーーーー!それを知っている友人はゼリーを差し入れてくれました。

「でしょう? ご飯食べれないと思ったから。はい。差し入れ」

と笑っている。子供ってスゴイ! そう思ったのでした‥‥‥。これはオペ後の話です。では本題に入りましょう。


オペ当日、点滴棒を持ってオペ室へと入りオペ室の椅子に座る。ドクターから


「局所麻酔だからね。口開けて」

と口を開けシューっと麻酔を吹きかける。次に注射で患部の周りに麻酔をする‥‥‥ん? 片方終わって何かおかしい‥‥‥


「先生気分が悪い‥‥‥です。ちょっと待って下さい」

と、手を挙げて口を閉じる。


「もう片方あるからね」

と軽く笑うドクター。

それから私の意識は暗くなりオペ看の声が‥‥‥。


「先生! レート(脈)40切りました!」


その後は覚えていません。ぺちぺちと頬を叩かれて目が覚める。目の前では、オペ看の友人が泣きそうな顔で

「ビックリしたんだからー! ごめん! 結構バシバシ叩いちゃったー! もう! モニターがぴーっていったんだよ! ぴーって!」


モニターがぴーって‥‥‥それ心停止だよね‥‥‥。足元にはドクターが

「驚いたよ。本当に‥‥‥教科書では知っていたけど‥‥‥まさか自分がそれに当たるなんてね。でも、良かった‥‥‥」

そっかーあー。 キシロカインショックってやつか‥‥‥。でも、そんなに頬を叩かれた覚えはない。名前を呼ばれて2回程ぺちぺちされた感じ?


病棟では大騒ぎになっていたらしい。だって数分で終わるオペなのに、帰って来ない! まあね。帰れないのよね。これじゃあ‥‥‥。


病棟に戻ってきたら病棟の師長さんやら看護部長やら居て‥‥‥

「聞いた時は驚いたわよー! もう大丈夫? 仕事は今週休みにするように病棟師長に言ってあるから」

と看護部長から聞き。


「この休みとる為休日出勤してまして、ここ3週間休んでませんでしたから、それで、身体に負担になったんですかね」

と、つい本音をぽろりと言ってしまった。


その後、自分の病棟師長が看護部長室へ呼び出された事は知らなかった‥‥‥。お見舞いに来た友人から聞きました。部長からお叱りを受けたそうです。無理な勤務はさせないように! と。有給も使わせてもらえないブラックな病院(病棟)でしたからね。今は労働基準法で負担にならないような勤務が組まれていますが、当時は酷いものでしたよ。実際は月の半分以上夜勤でしたよ。3交代でしたけど、準夜の翌日は日勤何て当たり前、日勤の後に深夜勤務も多かったです。分かりにくいですよね。準夜勤務は夕方から勤務して深夜1時に帰る。で()()()()()()に日勤をするのです。同じく日勤の後帰って、その夜1時からに勤務をするそれが深夜勤務です。時間どおりには終わりません。睡眠時間は足りず。準夜勤の後の日勤は辛い…お昼ごはんの後は睡魔との死闘ですよ。そんな激務をこなし休みはそのオペ後に当てる為休んでいませんでした。おっと話が逸れたかな? そのオペでどれ位心停止していたか忘れました。


その意識の無かった時私は賽の河原に居たのだと思います。ごつごつした石が足元にありました。そしてそこには、沢山のろうそくがあったのを覚えています。目の前には大きな川があって誰かがこっちを見ていました。誰だろうと歩き始めた時、


「工藤さん! 工藤さん!」

私の名前を呼ぶ声がしました。そうだ私、今オペ中だった。と振り返りました。そこにはさっきの友人の顔が‥‥‥


「良かったあー!」


と半べそでした。こうして私は無事生還したのです。その事は病院中で話題となっていて、私を知っているスタッフからは必ず

「大変だったんだってね」

と笑顔で肩を叩かれました。もちろんドクターからもです。病棟の友人は


「病棟はあの時帰って来ない! どうした! って本当に大変だったんだよ。モニター見たけど、びっくりする程フラット(心電図の波形の波がない)だったわー」 


あの時名前を呼ばれていなかったら‥‥‥。うん! 名前を呼ぶって大事なんだ。と再確認しました。以上私が見た賽の河原の出来事でした。‥‥‥他にも何かあったような‥‥‥あのろうそくって‥‥‥。誰か知っている人いませんか?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄いお話だなぁと、作品の臨場感にどきどきしながら興味深く拝読しました。ご自身にオペ室勤務経験がおありで、自分がオペを受ける立場で、心停止の機械音……。出来事にまずビックリですが、そのビック…
[一言] ∀・)生きてくれてて良かった。みんなから愛されてる工藤まなみさん、お大事に。
[良い点] 心停止までされてしまうとは、実に壮絶な体験ですね。 御生還されて何よりで御座います。 やはり、御無理は禁物ですね。 貴重な体験談をありがとうございます。 [一言] ズラッと並ぶロウソクのイ…
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