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第八十三話 ダンジョン省大臣 合馬秀康

 


 国会議事堂に向かっている途中、謎の組織に襲撃されてしまった。

 睡眠薬入りの煙幕攻撃に遭い、警官たちが次々と倒れていく中、メムメムが魔術によって敵組織を制圧してしまう。


 その後は柿崎についていき、応援に駆けつけた車に乗って、今度は襲撃されることなく無事に国会議事堂に辿り着くことができた。


 柿崎に連れていかれ、俺とメムメムはダンジョン省に赴く。


 コンコンと柿崎がドアをノックすると、「どうぞ」と返事がきた。


「失礼します。合馬大臣、メムメム氏と許斐士郎氏をお連れしました」


 柿崎と一緒に、俺たちも部屋に入る。

 よく政治ドラマで出てくるような厳かな内装の部屋だった。

 中には人が一人。

 その人物は、背中を向けたまま大仰に答えた。


「そうか、ありがとう柿崎君。彼等と話がしたいから、君は下がっていいよ」


「大臣を一人にするわけにはいきません」


「安心してくれ、彼等は私に危害を与えることはない」


「……承知致しました」


 そう言って、柿崎はしぶしぶながら部屋を出ていく。


 残ったのは俺とメムメムと――、


「よく来てくれた。許斐士郎君……そしてメムメムよ」


 ダンジョン省の大臣、合馬秀康おうまひでやすだった。


(この人が……ダンジョン省の大臣、合馬秀康か)


 政治に疎い俺でも、ダンジョン省の大臣ぐらいは知っている。


 合馬秀康。

 大柄の体格に、渋い声色に爽やかな顔つきをした四十代男性。


 三年前、東京タワーがダンジョンに変貌し、その対応の先頭に立ったのが彼だった。


 毎日のようにニュースで、彼はダンジョンの状況を国民全体に会見をしていた。

 それから政府に新たなダンジョン省が作られ、新大臣に任命されたのが合馬秀康だった。


 ギルドを建てたのも、冒険者という制度を作ったのも、全部彼の功績である。

 今では、総理大臣の次ぐらいに有名かもしれない政府の人間だった。


 あの合馬秀康と直接会い、ガッチガチに緊張して声も出せないでいると、横にいるメムメムが剣呑な雰囲気を漂わせながら口を開いた。


「×××、××××××」


(え? なんでメムメムは異世界語で喋っているんだ?)


「ふっ、リミュル語か。懐かしい響きだな」


(え? なんで大臣は理解しているんだ?)


 メムメムがいきなりリミュル語で喋っているのも、大臣がそれを聞き取れているように見えるのも理解して困惑してしまう。


 しかも、メムメムは眉間に皺を寄せて険しい表情で睨んでいるではないか。

 だが、合馬大臣は特に気にすることなく爽やかに微笑んでいる。


 この二人って、今初めて会ったばかりだよな?

 なのに、どうやらお互いを知っているみたいな雰囲気だぞ。


『許斐君が困っているだろう、念話で話そうじゃないか』


「「――っ!?」」


 大臣の声が直接頭に響いてくる。

 なにがどうなっているんだ……メムメムがやっているのか?

 いや、そもそも何で大臣が念話の存在を知っているんだ?


『どうしてお前がこの世界にいるんだ、魔王』


『なにを言っているのか分からないな』


『とぼけるなよ。姿形は人間のものだが、魂までは誤魔化せない。お前の魂は魔王のものだ』


『はっ、やはりエルフという種族は厄介極まりないな。魂まで視られるとなると、流石に誤魔化せないか』


 二人はいったい……何を話しているんだ?

 魔王? 魂? なんのことだかさっぱり分からない。


『シロー、落ち着いて聞いてくれ。こいつは異世界の魔王だ。勇者マルクスと共にボクが滅ぼしたはずの魔王なんだ』


『大臣が魔王って……嘘だろ? 仮にそうだとしても、魔王はメムメムが倒したって言ってたじゃないか。なんで死んだはずの魔王が生きているんだよ?』


『それが分からないからボクも戸惑っているんだよ』


 俺とメムメムは、揃って合馬大臣を見つめる。

 彼は一拍置いたあと、説明するような話し方で伝えてくる。


『勇者一行に倒される前、私は自分に転生魔術を施していたのだ』


『驚いたよ……よくそんな古代魔術を知っていたね』


『ああ、これは魔王にしか知らされない魔術だからな。私はお前たちに殺され、転生魔術は発動した。しかし正常に発動されなかったのか、それとも運命のいたずらか、私が転生したのはあちらの世界でもなく魔族でもなく、こちらの世界の人間だったのだ』


『なるほど……それは災難だったね』


『全くだ。それも魔王としての記憶を取り戻したのは、私が二十歳の頃だ。ふざけているだろう? 人間に転生した上に、今さら魔王の記憶を取り戻したところで何の意味もない。まぁ、記憶と共に僅かだが魔力も使えるようになったはいいが。前世と比べたら、比べるのもおこがましいほどの魔力だがな』


『そうだね、ボクでも一瞬で殺せるよ』


 旧知の間柄のように会話をする二人。

 その会話を聞いていて、俺は思考がキャパオーバーに気味になっていた。


 だって信じられるか?

 異世界の存在だけでも信じられないのに、メムメムが倒したという魔王がこっちの世界の人間に転生しているなんて考えられないだろう。

 それも日本を動かす役目の人がだ。


 でも、多分これは事実なんだろう。

 異世界の存在も、合馬大臣が異世界の魔王の生まれ変わりだということも。


『魔王のお前がなぜ人間の味方をするような真似をしているんだ。あれだけ多くの人間を殺したくせに』


『魔族を束ねる魔王として人間を殺していただけだ。人間に転生している今、人間として生きているのは道理に適っているだろう?』


『……言われてみればそうか』


 えっ……そこは納得しちゃうんだ。


『で、なんでお前が人間の中でも偉そうなポジションにいるんだよ』


『私は政治家の息子として生まれたんだ。順調にエリート街道を歩み、国を動かす仕事についた。今では妻ももらい、一児のパパだ。どうだ、笑えるだろう?』


 流石魔王……転生してもスペックは高かったのか。


 それも、国を動かす大臣になってるんだから凄いよなぁ。やっぱり、元々王をやっていただけに人を纏めるのは得意なのだろうか。


『別に笑いはしないさ、ムカつくけどね。それよりも、あのダンジョンはお前の仕業かい?』


『そんな訳がないだろう。あれは一個人がどうにかなる代物ではない。十中八九、私たちの世界の神々の仕業だろうな』


『そんなことだろうとは思ったけどさ。なんでこんなことしでかしたか分かるかい?』


『奴等の考えを私が知るわけがないだろう。私がダンジョンに関わったのは、大臣というポストを得るためと、人類を守るために動いたに過ぎん』


 話が凄いスピードで進んでしまっているけど、なに一つ追いつけない。

 俺はまず、気になったことを二人に尋ねた。


『ちょっと待ってくれ、あっちの世界には神様が存在するのか?』


 俺の疑問に答えたのは、合馬大臣だった。


『いる。それも一柱だけではなく、多く存在している。良い神も悪い神も、くだらない神もいる。奴等は神界から出ることはできないが、魔力や恩恵を人間や魔族に与えているのだ』


『ほ……本当にいるんだ。じゃあその異世界の神様が、世界中の塔をダンジョンに変えた元凶なんですか?』


『少なくとも私はそう睨んでいる。あんな芸当を成せるのは奴等ぐらいしかいないからな。何故ダンジョンを出現させたのか、あんなゲームのようなシステムを採用したのかまでは、見当もつかないけどね』


 ま、マジか……。


 今までネットに様々な憶測が立てられていた。その中には、神様の力だとかもあったけど、まさかその通りになるなんて……。


 ダンジョンの謎が分かって驚き呆然としていると、メムメムが続きを話し始める。


『魔境に封印されていたボクが何故、この世界に現れたのか分かるかい?』


『そんなこと私が知るはずがないだろ』


『そっか、それもそうだね。いやーまさか、またお前と会うなんて思わなかったよ』


『私も同じ気持ちだ。自分を殺した相手に会いたくなどなかったさ』


 と、その時。

 コンコンとドアがノックされる。それを聞いた合馬大臣は、俺たちに謝ってきた。


『すまないがこれから用がある。お前と先程の件で会見を開かなければならないからな。二人とも、今日はここに泊まっていってくれ。この話の続きは明日しよう』


『おーけー』


『えっ、あっはい』


『あとのことは下の者に任せてある。言う通りにすれば悪いようにはしない』


 最後にそう言って、合馬大臣は部屋から出ていってしまう。


 残った俺とメムメムは、合馬大臣の部下と思われる人に今日泊まる部屋に案内されるのだった。


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[気になる点] 合馬(おうま)←→魔王(まおう)。アナグラムというか、なんというか、神様って……いや考えてみたら世界中の神話にロクなのいなかったわ [一言] この人がケツ持ってくれるなら安心かな。今後…
[良い点] 超展開がいい意味できれててついてくのが大変である。だがそれが心地よい。脳に新鮮な物語の味わいが広がる。 オイラが物語に求めているのはこれなのだ。この感覚がオイラは欲しいのである。執筆あり…
2021/11/15 16:04 退会済み
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