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第六十四話 士郎の実力

 


 ダンジョンから帰還した灯里と楓と拓造の三人は、着替えや換金を済ませ待合室で士郎のダンジョンライブを見ていた。


 本当は大広間で士郎を出迎えてあげたかったのだが、待っていても他の冒険者の邪魔になってしまうので待合室で待機することになった。


「ダンジョンの中に住んでる人っているんだね」


「ほとんどが古参ばかりですが、意外といますよ。ダンジョンの中はモンスターがいますから所有地とかもないですし、可能であるなら自由に使っても許されてます。特に二十一層からの孤島ステージが多いですかね。あの階層までいくと冒険者の数も少ないですし、気候的にも一番過ごしやすいですから。ダンジョンの中に一ヶ月以上住んでいる冒険者もいます」


 三人は丁度、士郎が御門亜里沙の家でおもてなしをされている場面を見ていた。


 ダンジョンの中にお洒落な部屋があることに驚いている島田に、古参な部類の楓が説明する。


 楓が言うように、ダンジョンの中で暮らしている冒険者はいる。


 現実世界から少しずつ物を持ち運び、自分の住処にしてしまうのだ。だがそれができるのは、一人でもモンスターを圧倒できるほどのレベルがあり、モンスター除けの結界石を沢山買える資金がある冒険者に限られているが。


 特に多いのが孤島ステージだ。簡単に説明するならば南国の島である。


 広いステージに透き通った海があり、気候も温かくて過ごしやすい。冒険者達からはボーナスステージと呼ばれており、ここで過ごす冒険者は多い。


 物好きな冒険者なんかは、わざわざ屋台や海の家を開いていたりする。これがかなりの人気らしい。


 あとは御門のような職業を活かした冒険者もいる。


 薬を作るため密林ステージに拠点をつくったり、鍛冶職の冒険者が鉱石を掘るため孤島ステージの山岳階層で武具や防具を作っていたりと、職業のための拠点を作っているのだ。


「この人……綺麗だね」


「そうですね」


(うわ~、許斐君帰ったら大変だぞ……)


 御門と楽しそうに話している士郎を、灯里と楓が真顔で見ていて、二人の雰囲気を察した島田が冷や汗をかく。


 御門は美人で、士郎は鼻の下を伸ばしているわけではないが楽しそうに会話をしている。島田も男なので、士郎の気持ちが分かっただけに、心の中で合掌する。


 もしかしたら修羅場になるかもしれない。


 御門と別れた士郎と刹那は順調に探索する。刹那が戦うたびに、三人は「すごーい」と感心していた。動画で何度も視聴しているが、やはり日本最強の冒険者は伊達ではなかった。


 そしてついに、二人は自動ドアを発見する。

 安堵する三人だったが、突然刹那が士郎に斬りかかって仰天してしまう。


「この人なにしてんの!?」


「遊びって……これどうみても私闘だよね? ダンジョンでの冒険者同士での私闘って確か禁止だったよね?」


「私闘は禁止です。刹那はいったい何を考えているんでしょうか……」


 三人が困惑する中、二人の戦いが始まってしまう。


 だが初心者を卒業したばかりの士郎が日本最強の冒険者の相手になるわけがなく、どんどん傷が増えていった。


 それを見て、灯里がギリっと歯を食いしばりながら口を開いた。


「ひどい……こんなのイジメじゃん」


「手加減はされていますが、それでも敵う相手ではありませんね」


「許斐君も頑張ってるけど、こんなん無茶苦茶だよ」


 仲間の士郎がボロカスにやられていい気がしないのは当たり前だ。灯里などは、今から行って刹那を張り倒したいほどブチ切れている。


 だけどそれは不可能なので、苛立ちながら見守っていた。


『できないか。ならこういうのはどうだ? お前がオレに一太刀も届かせられなかったら、お前のパーティーを全員斬り殺してやる』


「「――っ!!?」」


 画面の中の刹那がそう言った瞬間、灯里たちの顔が怒りに染まる。


 それが士郎に本気を出させるための挑発であると分かっていても、言っていいことと悪いことがあるだろう。


 ただ、顔が変わったのは三人だけではなかった。

 優し気な士郎の顔が一変し、戦士の顔つきになる。


 そこからは凄いとしか言いようがなかった。

 突然士郎の動きにキレが増し、あの刹那と互角の剣戟を繰り広げている。いや、士郎の方が僅かに押しているようにも見えた。


「士郎さんって……こんなに凄いんだ」


「私も驚きました……まるで相手の考えを先読みしているかのように動いていますね」


「そっか、二人は知らなかったんだね。ミノタウロスとの戦いから、こういう動きをする時もあるんだよ。後ろからじっと見てると、それがよく分かるんだ」


 灯里はモンスターに集中しているし、楓は士郎の横にいるから分からなかった。回復支援の島田だけは、後方で士郎の戦う姿を見れるため、ノッている時の彼を知っている。


 戦いは佳境に入り、士郎が剣を突き付けられてしまう。


 勝負は刹那が勝ったかのように思われたが、本人の申告で士郎が一撃入れたみたいだった。

 刹那は士郎に手をやって起こし、少し話をして、士郎は自動ドアをくぐり抜ける。


 そこで動画は終了してしまった。


「士郎さんを迎えに行こう!」


「「そうですね(だね)!」」


 帰還した士郎を迎えるため、三人は待合室を出たのだった。


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