表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/286

第四話 カップラーメン

 



「一日だけ、考えさせてくれないか」


 小さい声でそう告げると、顔を上げた星野さんは唇を噛んでいる。良い返事が貰えなくて、悔しそうな顔を浮かべていた。

 そんな彼女の顔を見ていられず、俺は俯きながら重い口を開く。


「君の境遇には、同情するよ。夕菜の事も、事実かもしれない。ただ、急にいろんな事を言われて頭が追いつかないんだ。だから、整理する時間が欲しい」


「そう……ですよね。私も、自分が無茶で失礼な事を言っているのは分かってるんです。でも……私が頼れる人は、許斐さんしかいないんです」


「……」


 そう言われても、俺にとって星野さんは赤の他人でしかない。

 会社の同僚にイエスマンと揶揄される俺でも、今回ばかりはおいそれと了承する訳にはいかなかった。


 ――ぐぅぅぅ。


 しみったれた雰囲気をぶち壊すかのように、星野さんのお腹から大きな音が鳴った。恥ずかしそうに手を当てる。お腹の音のお蔭で少しだけ気が楽になった俺は、ゆっくり立ち上がった。


「カップラーメンでいいかな?悪いけど、それぐらいしか出せないんだ」


「じゃ、じゃあ私が作ります!料理の方も腕を磨いてきたので、美味しく出来ると思います!」


「気持ちは嬉しいんだけど、あいにく冷蔵庫の中は空っぽなんだ。だから、今日のところはカップラーメンにしよう」


 やる気を出す星野さんにそう告げると、しょんぼりしてしまった。

 男の一人暮らしなんて、大体はカップラーメンとかコンビニ弁当だろう。自炊の方が節約できるけど、金銭的に余裕がある俺はそっちでいい。自分で作るより断然美味しいし、料理や片付けは面倒だからな。


 申し訳ないと思いながら、お湯を沸かしてカップラーメンに注ぐ。

 二人で黙々と食べていると、星野さんはこっくりと舟をこいでいた。

 無理もない。愛媛なんて遠いところからやって来て、寒空の下夜遅くまで俺を待っていたんだから。相当疲れているはずだ。

 時間も十一時を越えているし。


「それ食べたら、今日は寝なよ。俺のベッド使っていいから」


「うぇ!?……そんな、お気遣いなく!こんな押しかけて迷惑かけてる上に、ベッドまで借りるなんて図々しいことできません!ここで寝させてもらえれば大丈夫です!」


「それじゃあ風邪ひいちゃうよ。ただでさえ身体が冷えているんだから。君が風邪を引くと困るのは俺なんだ。分かってほしい」


「ごめんなさい……ありがとうございます。カップラーメン食べたら凄く眠たくなってきちゃって、もうやばいです」


「だろうね」


 今も瞼が半分閉じてるから。俺は今にも寝そうな星野さんを自分の部屋まで連れていき、ベッドに寝かせる。布団をかけて部屋を出ると、ソファーに腰掛けて深いため息を吐いた。


(結局、泊まらせてしまった……)


 家に上げた段階ではアウトよりのセーフかもしれないけど、泊まらしてしまった今では完全にアウトだ。何もなかったと言っても、言い逃れは出来ないだろう。パパ活や援交と同じで、歴とした犯罪者だ。

 でも、あの状態の女子高生を寒空の下に放り出す訳にはいかないし、最終的にこうなってしまう事は薄々予感していた。

 仕方ないよなと自分に免罪符を与えつつ、俺は電気を消してソファーに寝転がった。


 星野さんの事や夕菜のことで頭が一杯になるが、それよりも強烈な眠気に襲われてしまい、俺はいつしか眠りに落ちていったのだった。



 ◇◆◇



 夢を見ていた。

 俺がまだ高校生で、夕菜が小学生だった頃の夢だ。

 九歳離れた妹はお兄ちゃんお兄ちゃんと俺を呼んで、よく甘えてきた。兄の贔屓目に見ても、俺と血が繋がってんのかと思うぐらい夕菜は可愛い女の子で、両親から避けられている俺にとって夕菜は太陽みたいな存在だった。


『お兄ちゃんのお嫁さんになる!』


 満面の笑顔でそう言われて、何度悶絶したか分からない。

 俺は一生、夕菜を大事にする。

 そう誓ったほど、俺は夕菜を大切に想っていたのだ。



お読みいただきありがとうございました!!

明日も投稿しますので、よろしくお願いします!!


「面白そう」「続きが気になる」と思っていただけたなら、ブックマーク登録及び下にある☆☆☆☆☆のクリック、もしくはタップをお願いします!

星は1でも凄く嬉しいです!!

ご感想もお待ちしております!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 保護者の許可とればいいだけでは?なぜ防げる犯罪を犯したの?
[一言] 女子高生を致し方なく泊めただけで犯罪者なわけ無いのに、犯罪者だと断定しているのは何らかの前フリだろうか? でなければ酷い違和感。
[良い点] >泊まらしてしまった  泊めてしまったではないところに、こう、断言し難い迂遠な心持ちが表現されていると感じました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ