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第百八十七話 乱戦

 



「重量級モンスターが二体か。それに強化までされているとはな……」


「それだけではありません。二体とも武装してあります」


 二体のモンスターを目にして愚痴を吐く靖史に、楓が付け加える。

 彼等が言う通り、バグがカース・オブ・サモンによって召喚したゴブリンキングとミノタウロスはそれぞれ装備を纏っていた。


 ゴブリンキングは重厚な黒鎧を身に纏い、剣と盾を装備している。ミノタウロスは巨斧グレートアックスを携えていた。恐らくあの装備もカースシリーズによるものだろう。


 ただでさえ驚異的な強さを誇っているのに、カースシリーズという凶悪な装備までしているのは厄介この上ない。

 多対一だった戦力差があっという間に五分……いや下回っている状況に、靖史が名乗りを上げた。


「ミノタウロスは俺に任せろ。本当は俺がこの手で奴をぶっ飛ばしてやりてぇが、今回はシロー達に任せた」


「それは構わないけど、君一人でアレをなんとかできるのかい?」


 ミノタウロスと一人で戦うと豪語する靖史にメムメムが怪訝そうに尋ねると、彼は収納空間から竜斧ドラゴンアックスを取り出し肩に担いで自信満々に答えた。


「おいおいメムメム、俺を誰だと思ってやがる。これでも最前線組の上級冒険者だぜ? 強化されていようが、ミノタウロス如き俺一人で十分だ」


「ふ~ん、それは頼もしい限りじゃないか。君の言葉を信じて任せよう。ならボクとカエデとシマダがゴブリンの王を担当しよう。アカリは後ろから全体の支援、そしてシローは本丸だ。それでいいかい?」


「「了解!」」


 場数を踏んできたメムメムが瞬時に作戦を立てて各自に問うと、士郎達は強く頷いた。それぞれ武器を取り出し、いつでも戦える準備を整える。

 そんな士郎達に、バグは小指でほじった耳糞をふっと吹くような仕草をして、


「もう作戦は終ったか? ならそろそろ宴を始ようじゃねぇか。さぁ行け、ゴブリンキング! ミノタウロス!」


「ゴァアアア!!」


「ブモオオオ!!」


「「ファイティングスピリット!」」


「エリアプロテクション、エリアソニック」


 戦いの火蓋は切って落とされた。

 バグが命令を下すとゴブリンキングとミノタウロスはシロー達目掛けて猛進する。それに対し楓と靖史が同時に戦意高揚のスキルを発動し、島田がパーティー全体に防護と加速スキルを付与する。


「おらぁ!」


「ブモオオ!」


 最初に剣を交えたのは靖史とミノタウロスだった。

 勢いそのままに巨斧を豪快に振るう。斧がかち合いガギインッと鈍い轟音が鳴り響いた。


 靖史は攻撃力と防御力にステータスが特化したパワータイプのアタッカーである。俊敏力は劣っているが、彼が放つ攻撃は大抵のモンスターを一撃死するほどの破壊力を兼ね備えている。

 だが、冒険者屈指の靖史のパワーと強化されたミノタウロスのパワーは互角であった。


「ギガフレイム」


「パワーアロー!」


 こちらに突っ込んでくるゴブリンキングに、メムメムが豪炎を、灯里が豪矢を放つ。しかし二人の先制攻撃は、左手に持っている大盾を掲げたゴブリンキングに防がれてしまった。


「ガアアアッ!」


「シールドバッシュ!」


 盾を掲げながら灯里達に突進してくるゴブリンキングに、楓が立ち塞がりながら盾による攻撃スキルを発動する。


 凄まじい膂力で跳ね飛ばさそうになったが、楓はギリギリ踏ん張ってゴブリンキングの進行を止める。その隙に灯里とメムメムが追撃を行うが、紙一重で躱されてしまった。

 その図体で鎧を身に纏っていながら俊敏性があるようだ。


「ゴアアッ!」


「ホーリーショット! プロバケイション!」


「ガァッ!?」


 灯里とメムメムを先に潰そうと二人に足を向けたゴブリンキングに、そうはさせまいと楓が【光魔術3】で取得する『光の散弾(ホーリーショット)』を放ちながら、挑発スキルで敵視タゲを奪い取る。


 気を引けられればいいと思って撃ったホーリーショットは、意外にも効いている様子だった。


 もしかしたら【光魔術】は呪術に対して効果的なのかもしれないと予想する楓だったが、タンクの役目を担わなくてはならないと、防御に専念する。


 欲をかいて攻撃に周り、ミスをして死んでしまっては元も子もない。タンクである自分が死んでしまったら誰が灯里達を守る。

 攻撃よりも防御だと、楓はゴブリンキングの一挙手一投足に集中した。


「はぁああ!!」


「はは、俺の相手はお前か!」


 各自が重量級のモンスターと戦闘を開始している隙間を縫って、士郎は一人バグへと斬りかかっていた。

 バグは呪術の剣(カース・ソード)を手にしており、士郎から繰り出される斬撃を防ぐ。


「アスタリスク!」


「カース・アスタリスク」


「なっ!?」


 一度に六連撃を放つアーツに、バグもまた同じ技を被せてくる。

 同じ技で相殺されてしまったことに驚く士郎へ、バグは口角を上げながら左手を翳すと、


「カース・ギガフレイム」


「うおぉ!?」


 士郎が十八番とする超近距離豪炎を放たれてしまった。寸前で左腕に装着しているバックラーで防御したが、衝撃によって吹っ飛ばされてしまった。


「ハイヒール!」


 初手から大ダメージを受けてしまった士郎に、戦場を見渡していた島田がすぐさま回復させる。

 回復されながらゴロゴロと地面を転がる士郎はすぐに立ち上がって体勢を整えると、バグは収納空間から新たに装具を取り出して攻撃してくる。


「カース・ウイップ」


「ぐっ!」


「ほらほらどうしたぁ!? そんなもんなのかよぉ!」


 不規則な軌道で襲い掛かってくる鞭を、士郎は懸命に剣で振り払う。

 だがこのままでは防御で手一杯で反撃することができない。


「フレイムアロー」


「ぐぉ!?」


 ひたすら耐えるしかない防戦一方の状況に苦戦していると、遠くから放たれた灯里の援護射撃がバグの肩に着弾する。予想外の不意打ちによってバグの攻撃が止まった好機に、士郎はギガフレイムを放ちながら駆け出した。


「ちっ、カース・ギガフレイム」


 不意打ちを受けて苛立たしそうに舌打ちをするバグは、黒い豪炎を放って相殺する。そのまま士郎を警戒するが、爆炎が晴れても士郎の姿はどこにも見当たらなかった。


「ブレイズソード!」


「ぐっ、上かよ!?」


 上空から豪炎剣を振り下ろしてくる士郎に、バグは間一髪剣で防ぐもその威力に堪え切れず吹っ飛ばされてしまった。

 士郎はギガフレイムでバグの視界から自分を消した後、スカイウォークによって上空から奇襲をかけたのだった。


「カッカッカ! やるじゃねぇか、そうこなくっちゃ面白くねぇ! なら今度はこれだ、カース・オン・ダーツ!」


「――っ!?」


 バグが収納空間から取り出して投げたのは手裏剣だった。しかも手裏剣は一気に数が増え、射線から逃げる士郎を追尾するように飛来してくる。


「ギガフレイム!」


 逃げ切れないと判断した士郎は、豪炎によって手裏剣を吹き飛ばす。難を逃れた士郎は、額から流れる冷や汗を拭いつつ、ギリギリの自分とは違い余裕な態度のバグを観察した。


(強い……それにどれだけ武器を持ってるんだよ)


 バグは冒険者のようにアーツや魔術を使ってくる。さらに収納空間から次々と強力な武器を使ってくるトリッキーな戦術は非常に厄介だった。


 しかも使い時(タイミング)が上手い。まるで熟練の冒険者の相手をしているようだ。


(集中しろ……心を研ぎ澄ませ。あいつの行動を予測しろ!)


 初見で対応するのは難しい。が、四の五と文句は言っていられない。

 バグを倒すには、初見でも強力な武器を掻い潜らなくてはならない。


 身体中の細胞を活性させ、士郎の集中力が極限まで高まっていく。

 刹那――エンジンが温まったかのように【思考覚醒】が発動し、士郎の頭が急激にクリアになった。


「これで終わりか? もっと愉しもうぜ! カース・パラライズスモッグ!」


 こちらに駆け出してくる士郎へ、バグは収納空間から野球ボールサイズの球を数個投げる。球が爆発すると、煙幕が展開された。


(さぁそのまま突っ込んでこい)


 胸中でほくそ笑むバグ。これは単なる目くらましの煙幕ではなく、一度ひとたび吸ってしまえば麻痺の状態異常にかかってしまう。初見ではまず見破られないだろう。


 が、バグの企みは士郎の機転によって阻止されてしまう。豪炎による爆風を利用し、煙幕を消し飛ばされてしまったのだ。

 そのまま突っ込んでくる士郎にバグは内心で舌打ちをしながら、次なる仕掛けを施した。


「はぁああ!」


「うぉ!? (なんだこいつ、さっきより全然キレが良いじゃねぇか!?)」


 士郎から繰り出される怒涛の攻撃に、バグは防ぐだけで精一杯になってしまう。


 剣速自体は然程変わりないが、攻撃の一手一手がこちらのウイークポイントを確実に射抜いてくる。徐々に追い詰められ、ついに避けきれずバグの身体に剣先が届いた。


「これでくたばりな! カース・ディメンションソード!」


 逆転を図ろうとするバグは、先程施していた仕掛けを発動する。

 それは今持っている呪術の剣の固有能力による、時間差の斬撃攻撃だった。


 予め剣を振って空間に斬撃を残しておき、任意のタイミングで発動できる凶悪な能力。

 しかも相手からは見えない透明な斬撃は、初見では絶対に避けられないだろう。


 だが――、


「ふっ!」


「なにぃい!?」


 士郎は半身になる事で、透明の斬撃を紙一重で躱した。

 まるで、そこに攻撃が来ると分かっていたかのように。


「たまたまだろ! カース・ディメンションソード」


「――っ!」


(嘘だろおい!? 何でこの技を初見で躱せるんだよ!?)


 避けられたのは偶然に過ぎない。

 奇跡は二度も起こらないと、バグは連続で剣の能力を発動する。しかし、時間差による不可視の斬撃は、その全てが士郎に対応されてしまった。


 剣で受け止めるか、バックラーで防御するか、はたまた躱すことによって不発に終わってしまったのだ。


 そんな筈はあり得ないと慌てふためくバグ。

 彼奴が困惑するのも無理はない。不可視に加え、こちらのタイミングで発動できる斬撃をどうして対処できる。それも見た事がない初見で、だ。


 これは偶然ではなく必然だった。

 何故ならば、士郎は見逃していなかったからだ。煙幕を豪炎で払った後、バグは誰も居ない場所に剣を振るっていた。


 これまでトリッキーな攻撃を仕掛けてきた敵が、そんな無意味な行動を取る筈がない。必ず何かあると踏んでいた士郎は警戒し、予測していたのだ。


 普段の士郎だったならば初見で対応するのは不可能だっただろう。

 だが【思考覚醒】により集中力が極限まで研ぎ澄まされた士郎には、不可視の時間差斬撃を対処できた。


「クソが! ならこれで――がっ!?」


 仕掛けが不発に終わったバグは、さらなる奇襲をかけようと収納空間から呪具を取り出そうとするが、不意に飛んできた矢が腕に刺さった痛みに呻いてしまう。


 その好機に、士郎は剣を持つ腕に力を入れて踏み込む。

 刀身が紅く輝く真・鋼鉄の剣を、低い体勢から斬り上げた。


「心刃無想斬!!」


「ぐぁああ!!」


 士郎のユニークアーツが炸裂し、バグの左腕を斬り飛ばした。

 堪らず悲鳴を上げるバグは、トドメを刺される前に煙幕球を地面に転がし、大きく距離を取る。惜しくも追い打ちをかけられず、士郎も煙幕から離れるように距離を取った。


「はぁ……はぁ……クソッ、最初からあの邪魔な女を狙っておけばよかったぜ」


 ゴブリンキングに攻撃している灯里を睨みつけながら悔しそうに呟くバグ。


 一人後方にいる灯里は、全体の戦況を把握しながら的確な援護を行っていた。ゴブリンキングを主軸にしてはいるが、ミノタウロスと戦っている靖史が危ない場面になった時に援護もしている。それは士郎においても同じだ。


 灯里がいるからこそ、パーティーの均衡が保たれていたのだ。


「だったらあの女を封じ込めてやる。カース・オブ・チェイン!」


 ニヤリと下卑た笑みを浮かべるバグは、収納空間から呪具を取り出す。

 それは鎖であり、能力を発動すると鎖が消えてしまう。どこにいったかといえば、離れたところにいる灯里の上下左右の空間が裂け、そこから鎖が飛び出して彼女の手足を拘束した。


「きゃあ!!」


「灯里っ!?」


「カッカッカ! これでも喰らっておけ!」


「ぁ……あああああ!!」


 不意に現れた鎖に対処できず、灯里は両手足を拘束されてしまう。

 さらに鎖から電撃のような痛覚が身体を駆け巡り、灯里は苦しそうに悲鳴を上げた。


「灯里!」


「おっと! お前の相手は俺だろ? カース・ギガフレイム」


「くそっ!」


 灯里を助けに行こうとする士郎に、バグが半分になった腕を掲げて黒い豪炎を放つ。士郎は反転しながら間一髪バックラーで防ぐも、衝撃によって飛ばされてしまう。


「ゴアアアアッ!」


「ぐっ!」


 灯里が離脱したのは戦況に大きく影響を与えていた。

 ゴブリンキングが強引に楓を押し退けると、そのままメムメムに向かって突進する。


「ストロングラビティ!」


「ガァアア!!」


「ちっ!」


 楓が立て直す時間を少しでも稼ごうと重力魔術を放つが、ゴブリンキングは雄叫びを上げて力付くでメムメムに突進してきた。無防備なメムメムに剣を振り下ろすが、横から飛び出た島田が新緑の鎌で間一髪防御する。


 しかし――、


「ゴアア!」


「うわぁああ!」


「ぐっ!」


 ゴブリンキングの圧倒的な膂力に、島田は成す術もなくメムメムごと薙ぎ払われてしまった。


「ブモオオ!!」


「ちぃ! どれだけしぶといんだよ!」


 ミノタウロスの攻撃を受け止めながら悪態を吐く靖史。

 これまでに何度もダメージを与えているが、ミノタウロスは倒れるどころか勢いを増している。


 ミノタウロスの特徴は圧倒的なまでのパワーだが、実は耐久力とスタミナが最も厄介であった。


 無限に攻撃をし続ける脅威的なスタミナと、どれだけ攻撃しても倒れない耐久力。


 その都度島田から回復されているお蔭でHPに問題はないが、ステータスに関係ない精神的疲労とスタミナ疲労はどうにもならない。

 どちらも失われれば、動きが鈍くなり徐々に不利になっていくのは当然だろう。


「カッカッカ! 形勢逆転だな! さぁどうするよ!! もう諦めて大人しく死んじまったほうが楽だぜ!」


「ぐっ……」


 愉しそうに嗤いながら告げてくるバグに、地面に這い蹲っていた士郎は足に力を入れて立ち上がる。


 灯里は拘束され、メムメムと島田を庇うように楓が懸命に戦っている。靖史も体力の限界を越えながらミノタウロスに果敢に立ち向かっている。


 どこも状況は最悪だが、このまま負ける訳にはいかない。絶対に。


「ふざ……けるな。俺達は戦う、絶対に諦めたりしない!」


 剣を構え、勇ましく吠える士郎。

 その瞬間、士郎の身体から橙色の光が迸った。


 その光は勇気の証。

 何者にも屈さず、絶望に抗う希望の光だった。


「カッカッカ! 出やがったな“勇者”め! いいだろう、クライマックスには申し分ねぇ! 来いよ、その力で俺を倒してみやがれ!」


 橙色の光に包まれる士郎を睥睨しながら、バグはかかってこいと言わんばかりに両腕を広げたのだった。



バグの正体は、初代ポケ○ンゲームに出てくるミ○ウのように、開発者が遊び心に敢えて入れたバグ(裏技)のようなものです。


因みに若かりし頃の私は金銀のボックスコピーと、通信対戦(あの頃はケーブル)で何故か全てオ○タンになってしまう上にHPゲージが緑から限界突破して赤ゲージが増えてしまうバグが大好きでしたね。しかも死なないからどうやっても倒せない…。


オク○ンからエアロブ○ストが出てくるのはシュール過ぎて友人と大爆笑してました。



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毎回毎回あかりが邪魔だなぁ・・・ そんなに心配なら現場に連れて来なけりゃいいのに・・・ 戦いの最中に意識が他に持っていかれるのが、どれだけ危険な事か・・・ 闘う者の心得が出来てないなら、好きな女なんて…
[気になる点] 耳くそも鼻くそも大して変わらんのに鼻くそだとより汚く感じるのはなんでなんだろう [一言] 覚醒イベント! でもまだオレンジって事はまだ上があるんだろうな 虹はやり過ぎにしても金ぐらいは…
[一言] 勇者と呼ばれちゃいましたな。
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