第百六十二話 部屋と本
本日で、東京ダンジョンタワーを連載してから丁度一年目になりました!
そして総閲覧数が1000万PVを越え、書籍化もされました。
一年間通して書き続けてこられたのも、こんなに沢山読んで頂けたのも、本作が書籍化されたのも、全て応援して頂いている読者様のお陰です!
本当にありがとうございます!
いつも応援して頂いている読者様に何か感謝のお返しをしたいと思うのですが、書き手としては小説を書くことしか能がありません。
なので、短編を書かせていただきました。
タイトルは『東京ダンジョンタワー外伝〜神木刹那、我は此処に在り〜』となっております。
こちらは本編では明かされない、刹那の始まりの物語となっております。
こちらを読んで頂けると刹那の過去や秘密が分かるので、よろしければ読んで頂けると幸いです。
長々と申し訳ございませんでした。
これからも東京ダンジョンタワーをよろしくお願い致します!
刹那が放った強力な武技により、巨人の石像を倒すことができた。
石像に捕まえられて圧殺されそうになった時はもう駄目かと思ったけど、三人とも無事で良かったと安堵する。
「二人ともお疲れ様、エキサイティングな戦いだったね」
「お疲れ様です(ははは、エキサイティングって……楽しむ余裕なんて俺はなかったけどな)」
「それなりに楽しめたな」
良い汗かいたなぁと言わんばかりに爽やかな笑みを浮かべる風間さんと、やや満足している刹那。
こっちはそれどころじゃなかったのに、この二人はなんでそんなに余裕なんだ。
やっぱり冒険者のトップを張り続ける人達は違うなぁと痛感させられるよ。
「それにしても許斐君には驚いたよ。まるで石像の行動が事前に分かっているようだったからさ。もしかして、未来を見ることができるのかい?」
「あ~あれは別に未来が見える訳じゃないんですよね。なんかこう、“こうした方がいい、こうするべきだ”みたいなのが頭に浮かんでくるんですよ。多分【思考覚醒】ってスキルの影響だとは思うんですけど」
風間さんに聞かれたので曖昧に答える。曖昧というのは俺も上手く説明できないからだ。
戦っている最中に、テンションが上がったり集中力が高まったりすると頭がクリアになる。
すると俺が自分の意思で考えるよりも先に頭が「こうすればいい」みたいな命令を送ってきて、その命令を聞いた身体が勝手に動くんだ。
思考がクリアになっている最中は何でもできるような全能感が溢れてきて、ネットとかで調べてみるとスポーツ選手が極限の集中状態に入る時になる“ゾーン”に近いものだと思われる。
その状態になるキッカケは多分【思考覚醒】のスキルが発動しているんだけど、自分の意思で発動できる訳じゃないのが難点なんだよな。
「なるほど、そのスキルは自分の意思で発動できるのかい?」
「いえ、勝手に発動しているんだと思います」
「へぇ……そういえば刹那も許斐君と似たような動きをしていたよね。さっきの戦いでもそんな素振りが何度かあったけど、もしかして同じスキルを持っているのかい?」
「さぁな。っていうか詮索してくるんじゃねぇよ。ステータスってのは冒険者にとって重要な情報だ。お前みたいにわざわざ世界に晒すような真似はしねーんだよ」
「すまない……僕が悪かったよ。つい好奇心を抑えきれず聞いてしまった」
風間さんが尋ねるも、ぴしゃりと刹那に窘められてしまう。風間さん含めアルバトロスはファンの為に定期的にステータスを公開しているから、その延長線でやってしまったんだろう。
だから悪気はないと思うんだよな。
それに刹那だってさっき風間さんにレベル聞いていたけど、それはいいのか?
「お前もだぞシロー。相手が誰だろうが、易々と教えるんじゃねぇ」
「あ……うん、気を付けるよ」
こっちまで飛び火が飛んできてしまった。まぁ俺も迂闊だったな……今度から気をつけよう。
反省していると、ゴゴゴゴ!! と地鳴りのような音が聞こえてくる。
なんだ? と気になって音の方に顔を向けると、石像の後ろにあった扉が開いていた。
「次に進めってことか」
「HPとMPを全回復してから行こう。入ってすぐに戦闘に発展するかもしれないからね」
風間さんの提案により、俺たちは失った体力をポーションなどでしっかり回復する。因みに、また風間さんからポーションを貰うことになってしまった。
戦闘の最中に刹那からも飲ませてもらったし、なんだか申し訳ないな。
軽く休憩を取った後、俺たちは扉の中に入る。すると――、
「……」
「ここは、部屋かな……」
「また行き止まりみたいですね」
扉の中は個室のような場所だった。
部屋は石造りになっていて、広さはワンルームの六畳間ぐらい。角に木製の机と椅子が置いてあるだけで他には何もなかった。
ぱっと見たところ、次に繋がる扉や通路みたいなものはなさそうだけど……。
「机の上に本があるね。ちょっと見てみようか」
机の上に一冊の本を見つけた風間さんが、手に取ってパラパラとめくる。今のところ手掛かりになるのはこの古びた本みたいだけど、本を読む風間さんはお手上げといった感じで首を振った。
「駄目だ……文字が読めないね。英語でもないし、他の国の字でもなさそうだ」
「俺にも見せてもらっていいですか?」
「勿論だとも、はいどうぞ」
どんな文字なのか気になり、風間さんから本を貸してもらう。パラパラとめくってみるが、彼が言ったように見たこともない字で読むことは不可能だった。
なんだこの文字? 英語でも漢字でもないし……古代文字とかなのかな。それともダンジョンが作った創作文字か?
(あれ? でも最後のページだけ読めるぞ)
端から端までめくってみるも、全て意味不明な文字で書かれていて何も分からなかったのだが、最後のページだけなんとなく読める。
え~っと、なになに――、
「『この本を読める者のために記録を残しておこうと思う。永遠の呪いにかけられた先達に終焉を与えたかったのだが、俺では力が足りず解放することができなかった』」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? なぁ許斐君、その本の内容がわかるのかい!?」
「あっはい。文字自体は全然わからないんですけど、最後のページだけ何故か読めるんですよね。自分でも謎なんですけど」
「そう……なのか」
最後のページだけ読んでみると、驚愕する風間さんに問いかけられる。なんとなく読めますと答えれば、彼はショックを受けたように茫然としていた。
すると腕を組んで壁に寄りかかっている刹那が続きを促してくる。
「面白いじゃねーか、続きを読んでみろよ」
「わかった。え~と、『そこでこの本を読む者に頼みがある。どうか俺の代わりに、先達を呪いから解き放ってほしい。本来なら俺の手で成し遂げたかったのだが、どうやら挑戦できるのは一度までなんだ。だからどうか、彼に終焉を与えてくれないだろうか。ここまで来れた君ならきっとやり遂げられる。幸運を祈っているよ マルクス』……これで終わりです」
「その内容からすると、本の持ち主の代わりに呪いをかけられた先達ってのを倒せばイベントクリアって感じか」
「僕もそう理解したよ。ただ一つ気になることがあるんだ。マルクスってどこかで聞いたことがある言葉なんだよね。許斐君は知らないかい?」
「そう……なんですよね。俺も何度か耳にしたことがあるんですけど……」
なんだったっけかな~。
う~ん……マルクス、マルクス。何かの名前だった気がするんだけど。
(ん? 名前?)
『ボクの名前はメムメム。凶悪なる魔王を滅ぼした勇者マルクスの仲間であり、大魔導師アルバスの一番弟子であり、ただのエルフでもある。よろしく頼むよ』
「あっ!?!?」
記憶を掘り返した俺は大声を上げた。
そうだ! そうだよ! マルクスってメムメムの異世界の仲間だった勇者の名前じゃないか!!
なんですぐに気付かなかったんだろう。すっかりド忘れしちゃってたな……。
「知っているのかい?」
「はい。マルクスって多分、メムメムが異世界にいた時の仲間の勇者です」
「ああ! そうだね、確かに彼女はそう言っていたね! 僕としたことが、何で気付かなかったんだろう」
「その本の持ち主がエルフの仲間だってんなら、この状況を詳しく知ってるんじゃねぇのか?」
「そうだな……ちょっとメムメムに聞いてみるか」
刹那の話に頷いた俺は、収納からリュックを、リュックからスマホを取り出してメムメムに電話をかけてみる。
しかし、『電源が入っていないか電波が繋がらないところにいるか――』と繋がらなかった。試しに灯里に電話してみるが、そっちも繋がらない。
「あれ……おかしいな」
「どうしたんだい?」
「いや、電話が繋がらないんですよね」
出ないどころか、電話が繋がらないのはどういうことだろうか。ダンジョンには電波が通っていて、ネットにも繋げられるし電話もできるようになっている。
なのにどうしてか電話が繋がらない。
「その理由がわかったよ。どうやらここには電波が通ってないみたいだ」
「オレもダメだ。圏外になってやがる」
「ええ!? ほ、本当だ……」
自分のスマホを確認している二人に言われて、俺も画面の左上に注目するとアンテナが立っておらず圏外になっていた。
嘘だろ……なんで圏外になってんだよ。
「もしかして僕たちが今いるのは、ダンジョンの中ではない……ということか?」
「それか単にイベントだからってのもあるかもな」
はぁ……メムメムに聞いてみようと思ったのにな。
「次のステージへの手掛かりはわかったけど、この後はどうしようか。扉のようなものもないし」
「それなら上を見てみろよ。面白いものがあるぜ」
「上? これは……魔法陣?」
上を指し示す刹那につられて顔を上げると、天井に魔法陣らしき紋様が描かれているのを発見した。こんなものがあったのか……全然気づかなかったよ。
「魔法陣か……これに何かすると次の部屋に行けるのかな?」
「試しに魔法を撃ってみるか」
ニヤリと笑う刹那が魔法陣に向かって手を向けた時だった。突然、ぐぅうううっと気の抜けた音が鳴り響く。
その音の出所は俺の腹からで、二人は俺のほうに注目する。
「ははは……すみません、お腹空いちゃったみたいで」
「おいシロー、呑気に腹の音鳴らしてんじゃねーよ」
「もうお昼の時間だから仕方ないね。よし、決戦の前に腹ごしらえといこうじゃないか。腹が減っては戦が出来ぬっていうしね」
ため息を吐く刹那に、フォローしてくれる風間さん。こういうのはいつも灯里のパターンだけど、今回は俺がやってしまった。申し訳ないというか、結構恥ずかしいな。
「ありがとうございます」
風間さんの提案により、俺たちは昼ご飯を取ることにしたのだった。