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匠の消防士  作者: oga
消防士編
9/25

「っぐ……」

 

 体が動かない。

俺はしくじった。

柱が持ちこたえられずに、天井から瓦礫が落ちてきて下敷きになった。


「おやっ、さん」


 すると、炎が揺らめき、ドクロのフードを被った化け物に姿を変えた。

幻覚か?

手にはでかい鎌を持ち、どうやらそれが死神だということが分かった。


「そんな都合良くいくか。 お前か背中のヤツ、どちらかの命を渡せ。 もしくは両方でもいい」


 ふざけんなよ……

こちとら、一度は腹を括った身だ。

おれのいのちを払ってでも、おやっさんを助ける。


「俺が死ねば、おやっさんは助けてくれんだな?」


「……お前のいいなりになるのはつまらん。 やはり、死ぬのはこっちだ」


 死神が鎌を振るうと、俺の背の木が燃え、転がり落ちた。

代わりに、炎が気を失ったおやっさんに燃え移った。


「や、やめろーーーっ」


 







「はっ……」


 真っ白な天井。

ここは、病院か?

どうやら、俺は店内で気を失って仲間に救助されたらしい。

傍らにあるテレビが、焼き肉大王で起きた火災を報道している。


「負傷者の数は14名、内、死亡したのは一名。 山田重五郎さん(72)です」


「嘘だろ……」


 頭が真っ白になった。

俺の見た死神の光景が、現実になっちまった。

俺は頭を抱え、あ、ア、ア…… と言葉にならない嗚咽を漏らした。

すると、扉から誰かが入って来た。

スーツを着た、たまに見かける顔の男。

消防本局からやって来た課長、只野(55)だった。


「傷は大丈夫か?」


「……」


 只野は、ポケットに手を突っ込んだまま、ぼやいた。


「もう後10年で逃げ切れたのにな。 お前は守護神だと本局じゃ評判だったんだぜ?」


「皮肉、ですか」


「さあな。 だが、ツキってのは続かねぇ。 今回の火災で死者が出た。 原因はガス管の老朽化。 責任は店側とお前の指導不足ってことで折り合いがついた。 店は損害賠償を払うと言っているが、ウチの金は世間様の金。 だから、本局は損害賠償の代わりに、お前をクビにすることにした」


 クビ。

人命を背負っている消防士の責任は重い。

しかし、俺はその言葉を聞いて少しも動揺することは無かった。

どうやら俺はこれ以上、消防士を続けようという気が無かったらしい。


「貯金はあるか? 無ければ第2の人生について、考えておきな。 じゃあな」


 俺の28年間の消防士生活は幕を下ろした。

そして……

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