救助
火が回るのは一瞬だった。
山田重五郎とその娘と息子、旦那の4人で焼き肉大王で食事をしていると、下のフロアで爆発音がした。
何事かと店員の一人が下の階へ向かうと、絶叫。
火だるまになりながら2階へと駆け上がり、続け様に踊り狂った炎が2階の天井を炙った。
「火事だ!」
客の一人が叫び、みな席を立って窓際の方へと向かった。
「ど、どうしよう!?」
娘が動揺し、旦那も慌てふためく。
(くそっ、よりにもよってこんな時に……)
重五郎は階段を見やったが、とても降りられる状況ではない。
煙と炎が迫り、パニックに陥った客らは窓から身を投げた。
「お父さん! お父さんっ!」
「落ち着け、この街にはダイキがいる。 必ず駆けつける!」
娘が10才になる息子を抱え、窓から飛び降りようとするのを必死に諭す。
2階から地上へはおよそ10メートル。
1階は天井が高く、飛び降りて無事では済まないだろう。
「おしぼりを口にあてるんだ!」
旦那が息子と妻におしぼりを渡し、自分は腕で口を塞ぐ。
熱気と煙に巻かれ、もう後30秒ももたないというその時だった。
2階から誰かが駆け上がり、こちらに水を吹きかけた。
「ダイキ!」
「おやっさん、無事かっ!」
まだ、おやっさんらは生きている。
2階の延焼は1階ほどではな無かったのが幸いした。
すぐさま俺はジグザグに水で火を消し止めつつ、おやっさんの方に向かった。
「おやっさん、大丈夫か!」
「ああ…… 娘たちだけは助けてやってくれ」
「何言ってんだよ!」
俺は、窓から顔を出した。
そのすぐ下には、ハゲとアインシュタインがマットを敷いて待ち構えていた。
2人ともナイス判断だ。
これなら、飛び降りても死にはしないだろう。
俺は、おやっさんの奥さんと旦那にここから飛び降りるよう指示した。
「ここから飛び降りるんだ」
2人は頷き、俺は2人の息子に向き直った。
「少し怖いかも知れねーが、できるよな?」
「うんっ」
っし、と俺は最後におやっさんの方を向く。
「後は、アンタだな」
「ダイキ、ワシのことは…… お、オイ!?」
俺はおやっさんを担いで背中に乗せた。
「耐えろよ、おやっさん!」
おやっさんはここから飛び降りることはできない。
だから、直接担いで下から脱出する。
早く降りないと来た道が炎で塞がれる。
あとどれ位建物が持ちこたえられるかも分からなかった為、俺はできる限りのスピードで2階を後にした。
酸素ボンベとおやっさんを背負い、重量は100キロオーバーだ。
それでも、火事場の馬鹿力で階段を降り、炎に包まれた1階を駆け抜けようとした。
だがその時、天井からメキリ、という不気味な音が響いた。