突入
心臓の音が耳元でうるさい。
そして、叫び声。
2階の窓から人が飛び降りた。
「キャアアーッ」
ギャラリーが叫ぶ。
火が揺らめきが、まるで死神の微笑みだ。
俺たちをあざ笑っている。
動揺している俺の肩を、誰かが引いた。
「俺に行かせて下さい!」
強い力で俺を掴むのは、アインシュタインだった。
俺は、胸に迫るものがあった。
普段は協調性の無いヤツが、同じ方向を向くと
こんなに頼りになるとは。
俺個人の意見では、すぐにでも了承したかったが、今は隊長の立場で場を仕切らなきゃならない。
「水を入り口から吹かないと中に入れない。 それはお前の役目だ」
ハゲがアインシュタインに言う。
「若ぇのはすっこんでろよ」
「……了解」
車内に置いてあった酸素ボンベを背負い、俺とハゲは入り口でスタンバイ。
アインシュタインがホースを使って入り口付近に水を撒くと、俺たちは一気に中へと入った。
「ぐあっ」
内部は視界が分からない程、煙で充満している。
更に熱気が酷い。
まるで火であぶられるマシュマロの気分で、1秒でもこの場から去りたいが、進しかない。
「誰かいますかーっ!」
全力で叫び声を上げると、足元に柔らかいものが引っかかった。
(うっ……)
人だ。
生きているのか分からない焼かれた人間が横たわっている。
「運ぶぞっ」
「ハア、ハアッ……」
ハゲと二人で無理やり引っ張り出す。
どうにか一人を店外へと引きずり出すと、再度突入の準備に入る。
呼吸を一旦整え、ハゲに呼びかける。
「……よしっ、行くぞ」
「オエッ、オエーッ」
突然、ハゲが酸素マスクを外し、その場で胃酸をぶちまけた。
ハゲは半分泣きべそをかいて、言った。
「お、俺、無理っす」
「ざっけんな、行くぞッ!」
俺は、無理やりハゲを立たせて酸素マスクを覆い被せた。