地震
今年は2019年12月30日。
そしてお年玉袋とくれば、もはや目的は一つしか無いだろう。
「……お孫さん、ですか?」
「娘の子供がな、これから来るんだよ。 お年玉くれぇ準備しとかねぇと、ケチ臭い爺さんだと思われちまうだろ?」
目尻にしわを寄せて、楽しそうに笑うおやっさん。
おやっさんの奥さんは随分前に亡くなっていて、ずっと独り身だ。
だから、年に一度、みんなが集まるこの日は何より大切なんだろう。
「でも、おやっさん元気そうで良かったですよ」
「たりめーだろ。 俺ァまだまだ現役だぜ? へへへ」
「……あ、所で、このアパートに集まるんですか?」
「何で話題逸らしてんだよ。 ……娘がこっちに顔出して、そっから駅前の焼き肉大王で飯食う予定だ。 んで、娘んちで元旦を過ごすのさ」
……俺たち消防士は元旦も関係なく勤務だから、一般的な正月ってのはもう随分過ごしてない。
まあ、それはさておきだ。
「じゃ、勤務の途中なんで。 あと、火の元には十分注意して下さいね」
「わーってるよ」
16:50分。
十数件のお宅訪問をこなし、俺は詰め所に戻って来た。
そこで、簡単な点呼を始める。
テーブルを囲んで、何か報告することがあるか、確認を取る。
「報告ある奴いるか?」
ハゲが首を振る。
「特には」
アインシュタインも頷く。
「俺も無いです」
「っし、したら解散にすっか」
2人が倚子から立ち上がろうとすると、突然、グラグラと建物が揺れた。
「地震か?」
ギシギシ、ギシギシ、としばらく横揺れが続いた後、ようやく収まる。
即座に俺はテレビを付け、震源地と震度のチェックをする。
番組の最中、画面が切り替わりニュースキャスターが速報を伝えた。
「只今、千葉県沖で震度4の地震を計測したとの連絡がありました。 近隣の住人は津波に注意して下さい」
(結構でかかったな。 でもまあ、支障はないか)
ハゲが小さく舌打ちする。
「ったく、帰ろうとした時にこれっすからね。 嫌がらせでしょ」
俺は、まあ大丈夫だろ、と2人に帰るよう促した。
だが、これから2時間後に、未曾有の事態が起こるとは予想だにしていなかった。