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匠の消防士  作者: oga
消防士編
3/25

おやっさん

 このアパートに住む101号室の住人の名前は山田重五郎(72)

定年を迎えて年金生活をしてる爺さんで、おやっさんっつー愛称で親しまれている。

28年もこうやって巡回してれば、顔も完璧覚えられてるし、俺は寂しい老人のいわゆる話し相手みたいなもんだ。


「おやっさん、いっかな?」


 この時間、スーパーにいなければ大体家にいるはずだが……

呼び鈴を押すも、中から返事はない。

再度、ノックをして呼びかける。


「おやっさん、留守かい?」


 ……やっぱり、返事はない。

買い物か、と隣の部屋へと行こうとした時、何か違和感を覚えた。


「……カートがあるじゃねーかよ」

 

 カートとは、手荷物を持つのが難しい老人がよく使う、旅行鞄みたいな形をしたローラー付きのカートだ。

おやっさんはいつもそのカートを入り口のドアの横に置いている。


(カートがあるってことは、スーパーじゃない。 でも鍵がかかってる)


 スーパー以外の目的でこの時間、おやっさんが外に入るのを俺は見たことがない。

胸騒ぎを覚えた俺は、確認の為に庭の方へと向かった。


(確認だ。 ……何かあったのかも知れない)


 俺は入り口と反対方向の庭へと向かい、そこにある窓から中の様子を窺おうとした。

だが、カーテンで遮れている。


「くっそ」


 窓の扉にも鍵がかかっていて、動かそうとしても開かない。

こうなったら、と俺は胸ポケットのボールペンを手に取り、ガラスにあてがった。

そして、地面に落ちていた掌サイズの石を手に取り、掌底の要領でボールペンの頭にそれを叩きつけようとした。


「おりゃっ」


「おいっ、何しとんだ!」


「……!」


 ギリギリの所で石を持つ手が止まる。

俺は、驚いた様子でそこに立っていた老人こと、山田重五郎を見た。


「おやっさん、アンタ、何してんだよ!」


「それはこっちのセリフだ! 消防士が盗っ人まがいのことしおって!」


「ち、違う違う。 呼び鈴を鳴らしても返事がねぇからさ、おやっさん、中でぶっ倒れてんじゃねぇかって」


「バカもんが。 これを買いに行っとったんじゃ」


 おやっさんは、コンビニの袋からあるものを取り出した。


「……へ?」


「お年玉の袋じゃよ」 

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