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匠の消防士  作者: oga
消防士編
2/25

巡回

(ったく、仕方ねーだろうが……)


 確かに俺が消防士になってからこの28年間、奇跡的に1度も火災が起きたことはない。

理由としては、そもそもこの街が過疎地で、火や油をよく使う飲食店も殆ど無いから。

駅前だって焼き肉屋が一件あるだけだ。


(まあ、気持ちは分からなくもねーけどさ)


 自販機でコーヒーのホットを購入し、詰め所に戻る。

パキリ、と蓋を開けると、暖かい黒の液体を胃の中に流し込んだ。

舌の上に苦みだけが残る。


「……マズいな」


 ギシ、と倚子にもたれると、俺はまた物思いにふけった。

アインシュタインのヤツの気持ちも分かる。

俺だって、この職業にある種の期待を持って働き始めたクチだ。

そんな一番イキってる時期に、火災現場を経験したことがない隊長がいると知ったら、卒倒するだろう。

だが、何年もやっていると段々怖くなる。

毎年、何人かの消防士は火災現場で亡くなる。

その通達を受けるたび、俺はこの部署で良かったとつくづく思う。


「給料泥棒ですよ」


 そんなセリフがアインシュタインの口から出たことがあった。

だが、よく考えろ。

他の奴らより楽して給料を貰ってる風に見えるかもだが、明日には死ぬかも知れないんだ。

命をかけているってことを考えたら、月40万の手取りでも俺は安いと思う。


「お子ちゃまなんだよ、アイツは。 はな垂れ小僧の癖しやがって」

 

 ギイ、ギイ、と背もたれに体を預けていると、いつの間にか3時を回っていた。

ハゲとアインシュタインが戻って来る。


「隊長、ランニング終わりました。 巡回、行かなくていんすか?」


 ハゲに言われて、俺は慌てて立ち上がった。


「お前に言われなくてもこれから行くよ」


 隣のアインシュタインは一言も喋ろうとしない。

それが俺の気持ちを逆なでしたが、ぐっ、と言葉を飲み込む。

俺が若手の時代だったら、隊長に黙りは喧嘩を売っているのと同じだ。

お疲れ様です! の一言くらい、常識だろうが。


「……」


 何か言ってやりたいが、今のご時世、そういうのはパワハラだ。

本社でも散々、教育をやらされた。

俺は怒りを一旦静め、平静を装って言葉を吐いた。


「……昨日回り切れなかったとこ回ってくるから、何かあったら連絡頼む」


「ッス」


 外の冷たい風に当たれば、怒りも自然と収まるものだ。

巡回は消防士の日常業務で、火災の多い冬のシーズンに家を一件一件回って火の用心を促す。

17時が定時の為、ある程度回ったら一旦詰め所に引き返し、ハゲ、アインシュタインの2人は帰宅。

俺は泊まり勤務の為、今日は詰め所にいなきゃならない。


「っし、このアパートからだな」

 

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