第1話 僕は友達がいない
ラブコメ……のはず
「残念ですが、もう手遅れです」
僕は、そう告げられた。
「う、嘘ですよね……? ………お願いします、嘘だと言ってください!」
聞き間違いかと思い、──もはや縋るような声で、もう一度聞き直す。
が、
「いいえ、残念ながら………」
静かに首を横に振る姿を見せられてしまっては、もう希望は無いのだといやでも分かってしまう。
そんな……嘘だろ……?
だって、そんな馬鹿な話があっていいはずがない。
「なんで僕がこんな目に……」
呟いた僕に、その人は重々しく絞り出すような雰囲気で、けれどはっきりとした口調で改めて告げた。
「あなたは………この先も一生友達ができません」
僕に友達ができないなんて……嘘だそんなことーーーー!
※
僕の名前は十宮蓮也
どこにでもいるような普通の高校一年生、夢と希望に満ち溢れていたはずの十六歳だ。
そんな僕は今 学校帰りに、めちゃくちゃ当たると巷で話題になっている占い屋さん
‘シャルロットエヴァーローズの占い館’に来ている。
え?なんでそんないかにも怪しそうな所に来てるかって?
そりゃあもちろん占ってもらうためさ。
どうやらここの占い師さんは『オーラ占い』っていうのをやってるらしくて、その的中率は驚異の100%だと言われている。
ここに来れば大抵の迷い猫は見つかると評判になっているらしい。
……あれ?僕は来るべき所を間違ったのか………?
けれど結局。まあまあ高いお金を払って、しかも滅多にしない予約までして来たので占ってもらう事にした。
そこで僕は
「君のオーラは……友達ができないオーラですね」
って言われました。
とても悲しかったです。
※
………………ということで、回想終わり。
「なんなんですか!?友達ができないオーラって!僕はいつ友達ができるかを聞きたいんです!!」
そして今僕の目の前には、先程その残酷な占い結果を伝えた、全体的に真っ黒な服装をしたいかにもって感じの占い師さんがテーブルを挟んで座っている。
よくある顔を隠すあれもつけていてなんとも怪しい雰囲気を醸し出しているけれど、それがある事で占い師感はひしひしと伝わってくる。水晶ではなく、なんの変哲もない紙と鉛筆を使っていたのが残念だった。なんとなく裏切られたような気がしたけど、多分気のせいだ。サイレン音も聞こえない。
それにしてもおかしい。
僕は『いつごろ僕に友達ができるか占ってください』って聞いたんだけど……。
そもそも本来、僕は占いで未来を見てもらうとかそんな事だったはずで、決してぼっちとしてお墨付きをもらいに来たわけじゃ無いんだ。
断じて『あ〜、もうこれ婚期逃しちゃってますね。ここからは結構厳しいですよ?』的なことを言われに来たわけじゃ無いんだ。
そもそも、僕がぼっちだとなぜ分かるんだ? 僕、そういう事を決めつけてはダメだと思います。(いつ自分に友達ができるか知りたがってる人のセリフ)
頭の中ではそんないくつもの言葉が浮かんでは消え、どうにも納得いかない占い結果に、つい占い師さんに詰め寄ってしまう。
「いやぁ、そう言われてもオーラがオーラですからねぇ」
ここまでのオーラは本当に珍しいんですよ と、その言葉と裏腹にあまり驚いていないかのように真顔で伝えてくる占い師さん。
「だから僕のオーラってそんなにヤバイんですか⁉︎」
さっきからオーラオーラって……大体オーラで僕の何が分かるんですか!!?オーラって何なんですか!?(オーラ占いに来た客のセリフ)
悲壮感に満ちた僕の言葉に、けれど相変わらず淡々と答える。
「そうですねぇ……例えば、素直に真正面から“僕と友達になってください!”って言っても、
“チェンジで”って即答されるくらいやばいですね」
「相当ヤバかった!」
たしかに昔『友達になってください』って言ったら、『いやぁ、それはちょっと……』って言われたことはあるけど。
「何か手立ては無いんですか!?……こう、怪しげな壺とか、べらぼうに高いブレスレットとかネックレスとか!ほら、パワーストーンに祈りを込めてくれませんか!!?」
「私、それを自分から求める人は初めて見ましたよ」
「無いんですか!?10万までなら出せますよ!なんせ友達と遊びに行くのに使わないからね!ハハハハハ!」
昔、お年玉で買おうとしたゲームソフトは一人用でした。
結局それを諦めて、いつか友達としようと思って買った四人用のゲームは今も引き出しの奥に眠っている。
「そう悲しい暴露をされましてもねぇ」
あぁ、泣きたい!
「そこまで泣かれても困りますよ」
訂正、もう泣いてた。
とめどなく流れる涙を、それを見かねた占い師さんから受け取ったハンカチで拭っておく。
「そもそもオーラというのは歳を重ねるごとに強くなっていくものでして」
占い師さんはそう説明を続ける。
そうなのか……もっと早くに気づいていたら、もしかしたらまだ間に合ったかもしれないのか。
「なら僕はいつならまだ手遅れじゃ無かったんですか?」
「君の場合は……2歳ですね」
「2歳!?」
そんな早くから僕は友達ができないことを自覚してなくちゃいけなかったのか!?
悲しすぎるだろ!
そう思いながらも、一応その姿を思い浮かべてみる。
──泣きながら必死に友達を求める2歳児。
……ふむ。
ひどく切ない。
でも、
「くっ、こうなったらタイムマシンを開発して……」
「私、タイムマシンを友達をつくるために必要としている人を初めて見ましたよ」
「え?野比家のドラちゃんだって野比くんと友達になるためにタイムマシンを使って未来から来たじゃないですか」
「あれは結果論です。そもそもなんで二次元と比べてるんですか」
「はっ!友情を操るコントローラーとカプセルを作れば……!」
「あ、多分そういう物を使おうとしたら壊れますよ」
「僕のオーラってひみつの道具でも対処できないくらいヤバイの!?」
どんだけ頑ななんだよ僕のオーラ。
もう少し柔軟に対応してくださいませんかね?
ええ、本当に、お願いです………本当に、頼みますからぁあ!
※
こうして無駄に非現実すぎる現実を突きつけられるだけ突きつけられてあっという間に時間は過ぎ、
「それではあなたに友達ができることをいつも心の片隅でなんとなく祈っています」
「それってもう諦めろってことですよねぇ!?」
最後の最後まで真顔で淡々と言葉を並べていった占い師さん。
結果、僕が占いの館で得たのは『これからも友達ができない』という悲しい未来予想図だけだった。
ここまで的中率100%というものを恨めしく思ったのは初めてだ。
絶対なんて信じるもんか!
不可能なんてあり得るものか!!
………でもそうか、100%かぁ。
あ〜あ、友達欲しいな!(切実)