最終話|少年は闇夜に笑う。
リュウキは目を覚ますと、転がるジークフリートの骨を見て、納得した。
「終わった! 帰るぞ、あの地に……」
リュウキは、あの地、かつての水の都アクエリノスの地に訪れた。すると、そこには、修復された建物と、人々の笑い声、歓声などが聞こえてくる。
「お兄ちゃん!」
遠くからやってくるのは、一人の女性であった。しかし、彼女はリュウキの体を見ると、走り去っていく。リュウキはどことない絶望感を覚えるしかなかった。ただ、彼女は戻ってくると、その手にはローブがあった。
「これで身体を隠しなさい!」
そう優しくローブでリュウキの体を覆った。にしても、リュウキには覚えもないのに、彼女はやけに馴れ馴れしい。
「私を覚える? 私、リヴァイアサンにこの地が壊滅させられて、あなたにあたった……」
「あぁ」
リュウキはあの時の少女が見事に成長したことに喜びを感じた。それもリュウキの体を蔑まずに、認めてくれたように思い嬉しく思う。
「まさか、こうなるとはね。本当に感謝してるよ」
「そうか……」
「ずっと会って、お礼が言いたかった。謝りたかった!」
「そうか……」
少女につれられてリュウキは復興されていく立ちものの風景を見た。
「これがあなたの救った世界なのよ!」
「……」
世界を救ったという言葉に、リュウキ自身は実感が持てていなかった。彼からしてみれば、ただの贖罪だったのだ。
そうしてしばらく経つと、リュウキがこの地『アクアノス』を、そして世界を救ったことが知れ渡った。リュウキはというと、かの女性アーリアと婚約を果たしていた。盛大な結婚式ができるわけでもなく、すでに指輪も嵌っている。しかし、一緒に暮らせる相手がいることにリュウキは心から喜びを感じていた。
しかし、『アクアノス』に伝わっていたのは、それだけではなかった。王都から、とある噂が伝わってきたのだ。それは、ドラゴンスレイヤーは実は龍自身である真実についてだった。そして、リュウキが常にローブを羽織っていることから、誰もが少なからず噂に興味を持った。
それからというもの、どうにかローブの内側を見ようと画策する者は少なくなかった。しかし、リュウキに戦いを挑んだところで、誰も太刀打ちできるはずもなかった。しかし、そんなある日のこと、町中の男は武器を持って現れた。そして、彼らが攫ったのはリュウキの妻アーリアだった。
「妻の命が惜しければ、今すぐにそのローブを脱げ!」
「「「脱げ脱げ!!!」」」
「「「「脱げ脱げ!!!」」」」
「……」
リュウキは目にも止まらぬ速さで男たちを蹴散らした。しかし、そのあまりの速さに、ローブがひらりと風にまった。
「あ、あいつはドラゴンだーーーーー!!!」
その様子を見ていた男は、大声で叫び始める。リュウキはどんどん広がっていく話に、アーリアに迷惑をかけまいと、アーリアをおいて、ローブを脱ぎ捨てて駆け出した。数々の町や都市を走る抜ける。その度に石や物を投げつかられた。
リュウキは少しは世界を救ったつもりにもなっていた。しかし、現実は厳しかった。
しようと思えば、犯行勢力を一瞬にして死へ誘うだけの力をリュウキは有している。だが、その力は使ってはいけない物だった。気が狂いそうになりながらも、なんとか怒りを押し留めて、リュウキは疾走した。
そうして、リュウキが辿り着いたのは、ジークフリートとの戦いの跡地、王都の火山だ。世界最大の火山である。噴火口から見下ろす下には、マグマが煮えたぎっており、噴火口を熱風が駆け上がる。
「」
リュウキは静かにその中へと姿を消した。簡単には溶けない龍の鱗は、だんだんとリュウキを蝕んでいく。痛み、憎しみ、苦しみ、悲しみ、その全てを背負いこみ、リュウキの命は終わりを迎えた……