第二話|少年は死生を知った。
ついに決戦の冬。凍えるほどに寒い大地にだれもが凍える。しかし、この戦いにくさこと以上に。リヴァイアサンの弱体化は重要なポイントだった。
決行は、リヴァイアサンの夕食の時間。食べ終わる寸前を狙う。
もちろん失敗は許されない。
「それでは、リヴァイアサンの討伐に向けて出発するぞーーーーー!!!!!」
「「「おぉぉぉーーーーー!!!!!!!!」」」
大男の力強い叫び声が皆を盛大に鼓舞する。やる気は十分。これが成功した暁には、この地獄の生活から抜け出せるのだ。男たちは作戦通りにリヴァイアサンの住処まで、出発に出た。
計画は次のようだった。まず、食事には腐った果物を混ぜておく。すると、いつものように、それを頬張ったリヴァイアサンは激痛に苦しむことになる。そこでジュウケイを先頭に皆が襲撃するのだ。
とても単純ではあるのだが、ジュウケイ自身が給餌係に就くまでには、血生臭い苦労が存在していた。これはリヴァイアサンに信頼されてこその作戦だったのだ。全てはこの作戦を成功させるため。それほどに皆が討伐計画に期待を込めていた。
そして始まる。
「ホォホォ、キョウのショクジは、ニクダンゴか。こんなもんワレには、ヒトクチだ」
リヴァイアサンはいかにも偉そうに、一口に肉団子を頬張った。汚れた口周りを長い舌でペロリと舐める。
「ハヤく、ツギはデザートのジカンだ!」
リヴァイアサンは準備された果物に疑問を抱くこともなく、また一口に皿を平らげた。すると、リヴァイアサンに異変が始まる。
「ギュ、グ、ゲェ、ウゥ……ジュ、ジュウケイ、キサマ……」
リヴァイアサンは体をひねくり返しながら、悶えて苦しむ。リヴァイアサンの赤くなった瞳にはジュウケイの姿が映し出されていた。
「今だーーーー!!!!!」
大男の掛け声とともに、総勢百人を超える軍勢がリヴァイアサンに襲いかかる。
大男が殴り、ジュウケイが刺し、リュウキが斬る。リヴァイアサンは尾を無造作に振り回してのたうちまわっていた。全員での総攻撃。
殴って、刺して、斬る。
ひたすらに、殴って、刺して、斬るだけだ。
「ギュウウーーーーーン」
リヴァイアサンは今にも死ぬような醜い声を出した。皆がいけると思った。これで変わると思った。
しかし、その時、リヴァイアサンの振り回していた尾は大男を蟻かのように軽く吹き飛ばした。
「リ、リーダーーー!!!!!!!」
大男の飛ばされる姿に叫ぶリュウキ。しかし、リヴァイアサンの猛攻は止まらない。コツでも掴んだかのように、次々とメンバーを尾で吹き飛ばし始めたのだ。
「まだだーーーーー!!!!!!」
リュウキは皆を鼓舞するように全力で叫ぶ。しかし、メンバーは少しずつ死への恐怖を感じ始めていった。皆は絶望を感じ、すべてを諦めたようにその場に立ち尽くす。
「死、しにたくねぇ」
「もう無理だ……」
「終わりだぁ……」
しかし、止まると尚更、リヴァイアサンの標的だ。みるみるうちに、メンバーが飛ばされ、消え、死んでいく。そして、リュウキも足を止めてしまった。
「……」
そこに振り下ろされるのはリヴァイアサンの大きく硬い尾だ。スローモーションのように降ってくる尾をみて、リュウキは瞳を閉じると自分の死を悟った。
ーーこれが俺の終わりだ。
その瞬間、リュウキは何者かに突き飛ばされ、湖へと飛んでいく。リュウキは不思議に思って目を見開くと、そこには血だらけのジュウケイの姿があった。
「い、生きろ……生きろ、リュウキ……」
ジュウケイを遠目にリュウキの体は凍った大地を滑っていた。そして、どうにも抗えないリュウキはそのまま、海へと身を沈めた。暗い湖の底へとリュウキは静かに沈んでいく。
人の悲鳴もだんだんと遠のいていき、リュウキの目からはしょっぱい涙が流れていた。自分の無力さを悔いた。
ーー自分にあの時、皆を鼓舞するだけの力があれば……
ーーあの時、諦めずに戦って入れば……
深く深く沈んでいくリュウキは、紅く輝く光るなにかを目にした。何かは、わからない。しかし、彼はそれを手に強く握りしめる。しかし、もうリュウキの身体には力がなかった。抜けていく力と共に、彼の意識を失った。そのまま、彼は底知れぬ湖に沈んでいくーー。