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第一話|少年は慈愛を知った。

 今宵は龍刻三千年。

 人間が全てに終わりを告げた「あの日」から、三千の年月が経った。

 しかし、今宵も変わらない。龍は世界の頂点に、人は世界の底辺にある。


 十にも満たない少年は、毎日をなんとか生き繋いでいた。ボロボロに破け、鼻が詰まるような悪臭のする服を着た少年には、仕事もなければ、住む場所もない。生きる価値だってあるのかわからない。

 彼は毎日、毎日、ひたすら精一杯に生きていた。

 そんな彼が今いるのは、三千年前までは、水の都『アクアノス』として栄えていた土地である、。しかし、その片鱗も感じさせないほどに、この地は朽壊している。


 とある日のこと、彼は群衆を見つけた。夜中にゴソゴソと蠢く人影。ごそごそ、ごそごそと何がを話しているように見られる。少年は小さな好奇心から、人の群れの中をかぎ分ける。すると、そこには刃こぼれをした剣や槍を振り回している男たちがいるのだ。それも図体が信じられないほど大きい男たちばかり。

 少年がしばらく観察していると、男たちはどこから持ってきたのか、食べ物を貪り始めた。

 すると、その中でも、とびきりの大男が少年の元へと、ドタっと一歩、そしてドタっともう一歩、歩きてきた。大男からはツンと鼻を刺す汗の匂いが広がる。

「おい、そこの小僧」

「……」

「何を見てる」

「……」

「何を見てるんだって聞いてんだ」

 大男は金槌のように大きな腕を振りかざした。少年は本能的に頭を覆い隠す。すると、大男は背中をボリボリとかき乱す。

「何だお前、もしかして俺たちに興味があるのか」

「……」

 少年はコクリと頷いた。

「そうか、そうか」

 大男はそれは嬉しそうに不気味な微笑みを浮かべる。

「俺たちはなぁ。あのリヴァイアサンを倒すために特訓をしてるんだ」

「……」

 少年は黙っている。しかし、先ほどとは違って、どこか興味津々に話を聞いていた。

 リヴァイアサンとは、この水の都『アクアノス』を数分にして壊滅させた龍の名前だ。蛇のように長い体をしたリヴァイアサンは、蒼く非常に強固な鱗を持っており、その牙で殺された人の数は数知れない。


 大男は目を輝かせる少年に興味を持ったのか、少年に質問を始めた。

「お前、親がいないのか」

「……」

 少年は寂しそうな目で、またコクリと頷く。

「そうか、そうか」

「……」

「おい、ジュウケイ! 食べ物をもってこい」

 ジュウケイと呼ばれた男は大男ほど体は大きくない。しかし、先ほどの訓練では、一端に槍を使いこなしていた。

「リーダー、そいつにやる飯なんて、ここにゃねぇよ!」

 ジュウケイは不機嫌そうに叫ぶ。

「俺の分でいい!」

「そうか」

 ジュウケイは大男が食べていた受け皿を掴むと、少年の元へと持ってきた。そこには腐ったパンの耳と、濁ったお湯がある。

 少年は一度伺うようにして大男を見上げ、大男が頷くやいな、それを貪り始めた。幸せそうに頬張る少年を見て、大男は嬉しそうに微笑む。


「おい、小僧!」

「……」

 皿が空になっていることに、少年は気が付いた。そうして、少年は、殴られる覚悟で、歯を食いしばる。

「おいおい、殴りゃしねぇよ」

「……」

 少年はキョトンとした顔で大男を見上げる。

「お前、俺たちに加わらないか」

「……」

「お前、一人なんだろ」

「……」

 少年はまた、コクリと頷く。

「食べ物も、こんなもんしかないが、食える」

「……」

 続いて少年は目を輝かす。

「そうか、そうか。だが、訓練は厳しいぞ。もちろん、ただともいかない」

「……」

 少年はまたキョトンとした表情で俯く。

「でも、やる気があるなら、受け入れる」

「……」

 少年は大きく強く頷いて、初めて不細工な笑顔を見せた。


「お前、名前は」

「……」

 少年は首を振る。それもどこか寂しそうな表情で大男を見る。しかし、親のいない少年は名前もなかった。

「そうか、お前……」

「……」

 大男は困ったような顔で、使えない頭をフル回転させる。

「良し、お前は今日からリュウキだ」

「リ……キ?」

「リ・ユ・ウ・キだ」

「リユウキ!」

 少年は嬉しそうに目を見開いた。


 こうして、少年は『リュウキ』という名をもらったのであった。

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