16.彼が本当に求めたもの
「あ、いたいた! グウェーン!」
日が空の真上に来た頃、先ほど会ったとき同様に駆けてきたメァラの呼び声で顔を上げた。集中して探していたせいで、ずいぶんと村の東側まで移動していたことに気付く。朝は南から駆けてきたけれど、今度は北の馬車の停留方向からご登場である。忙しく村中を駆け回っていたのだろうか。
わたしの捜し物のせいかしらと思うと、申し訳ない気持ちと共に有り難く思った。
「どうしたの? もしかして、レシピについて何か進展が?」
「そうだよ。エディのヤツが村役場の人にきいたんだって。村はずれに住んでる若い男が、なんかそれっぽいもの持ってたってさ。布を被せてたらしいから、形や大きさが似てるってだけらしいけど」
「村外れに住んでる、若い男……まさか、ゴゥワーさん?」
今日は立て続けに同じ名前を聞くものだ。別々の物事の中心に彼の名前が出てくると、出来すぎた偶然のようで座りが悪い。
「さぁ。名前は知らないけど、エディはそいつのこと知ってるみたいで、珍しく焦って探し回ってたよ。アタシはその途中で会ったから、本を探しがてらグウェンを見つけたら伝えとくって話を聞き齧ったんだ」
「そうだったのね。わざわざありがとう。わたしもその人には心当たりがあるから、彼の家に行ってみるわ」
「グウェンも知ってんだ。じゃあ、もし当たりならすぐ返してもらえそうだね。良かった」
そうね、と無邪気に喜ぶことはできなかった。だって、本当に彼がわたしのレシピを拾っているのなら、今ごろレシピは既にわたしの手の中に戻ってきているはずだもの。
単に落とし物を拾ってくれたのなら有り難いことだけれど、それなら役場に預けておけば、エディが役場を訪れた時点で彼が受け取れた筈だ。そうでないなら、きっとわたしの居場所を誰かに聞いて、馬車まで届けてくれていただろう。
そのどちらでもないということは、届けられなかった――あるいは届けなかった理由が、何かある。胸がざわついて、わたしはメァラに礼を言うとゴゥワーさんの家へと急いだ。
籠を抱えてのろのろと走る。随分とくたびれた靴が村境に差し掛かったとき、またしてもわたしを呼び止める声が聞こえた。
「お前さん、旅の薬師の……まだ居っだのが」
息切れて足を緩めたわたしは、その耳慣れはじめた訛りに振り返る。通り過ぎてきた畑の畝の真ん中で、壮年の男性が鍬を担いでこちらを見つめていた。
あの納屋に泊めてもらっていた時に、ちょこちょこと顔を見せていた村人だ。彼には悪い噂を吹き込まれてもやもやとした気持ちにもなったが、あれは今思えば、わたしたちに忠告してくれていたのかもしれない、とも思う。
だからと言って、やはり知人を一方的に悪し様に言われることは、今でも良い気持ちはしないが。
「ええ。でも、そろそろ発つつもりです。今は、その、探し物をしていて。ゴゥワーさんのお宅にあるかもしれないので、そちらに行く途中でして」
「あいづなら、今日は漁の方どご手伝い行っでる筈だべ。北の入江ん方だぁ。今ごろ舟も戻っで魚の仕分けしでらぁな」
首に巻いた手ぬぐいで汗を拭きながら、壮年の農夫が言った。雨季が去ってちょうど収穫の終わった畑は、次の秋蒔きの準備で休む間もなく耕されている。この壮年の男性も、その下準備に追われているのだろう。
「そう、なんですか。教えて頂いて、ありがとうございます」
まさか彼の居場所を教えてくれるとは思わなかったので、わたしは呆けた調子でお礼を言った。危うく無駄足を踏むところだった。
もしかすると先に動いていたエディもこちらに来るかもしれないので、道中すれ違ったら伝えよう。息を整えて方向転換すると、農夫が再び「おぉい」と声を掛ける。
「お前さんが、薬作る者同士の馴染みであの化げ物気にかげるのはわがるが、くれぐれも気ぃつけな。どんたに温厚でこどもみんた面被ってでも、あえだばあの巨体で、馬鹿力で、白痴だ」
「……はい」
再三聞かされた忠告を、今度はぞんざいに扱うことなく心に留めた。今なら、彼の言わんとするところもわかる。
それでも、やはり、ゴゥワーさんを白痴と捨て置いて、正しく導こうとしなかったその怠慢を、わたしは快く思えそうになかった。
――何を思ったところで、これは部外者であるわたしのエゴなのだけれど。
▽ ▲ ▽
途中ですれ違った村の人々に尋ねて、なんとか農夫の言っていた北の入江まで着いた。
途中で行き合うだろうと思っていたエディは見かけなかったので、どこかで行き違ってしまったのだろう。彼もゴゥワーさんの家は一度行って知っているので、居ないとわかれば後からこちらに来る筈だ。
入江には農夫の言うように、午前も日の高くなった今、いくつかの舟が岩場に括り付けられている。ごつごつした剥き出しの岩場を忙しなく往復しながら、草場に広げた筵へ魚の網を運ぶ人々の姿があった。
けれどその中に、わたしの探し人の姿は見つからない。
「すみません! こちらにゴゥワーさんがいらっしゃると聞いたんですけど、どこに行かれたか知りませんか?」
声を張り上げて、少し先の方で舟から漁網を下ろした男性に尋ねる。ゴゥワーさんに劣らず上背のあるその人は、入江の岩場から少し離れた丘の方を指さした。
「さっぎ休憩さ入ったってんで、あっちの木陰さ走ってったぞ。今日は日差しが強ぇがらなぁ」
「ありがとうございます!」
「どういたしまして。気ぃ付げでな」
手を振られて、振り返す。緩急のある足場を転ばないように移動して、乾いた草場の木立に踏み入った。
海が近いのに緑も豊かで、村から少し南に下れば荒れ地と鉱床の山がある。豊富と言うほど採れないまでも、人々が飢えることのない資源が眠るこの地は穏やかだ。
過不足のない、足りるということを知る土地。この平穏を保ったまま、何の憂いもなく離れることができれば良いのだけれど――。
(それは、彼次第かしら)
背中を丸めたずんぐりむっくりの巨体が、木陰に隠れきれず視界に飛び込んでくる。
「こればチコリ、ヤグルマギク……ヒメフウロ。いち、にぃ、……ご。ご以上は……えぇと、いっぱい。葉っぱの形はわがるんだども、字ぃはやっぱ読めねなぁ」
ぼそぼそと繰り返される独り言に、彼が探し人であることを確信する。この数日でもう聞き覚えてしまった、間延びした声だ。
がさり、とわたしの立てた音に驚いて、大きな人影が震えた。こちらに背を向けていたその人が振り向き様に、手に抱えていたものを背に隠す。
「グ、グウェンさ……」
「こんにちは、ゴゥワーさん」
「ど、どうしてここに」
「あなたがわたしのレシピの行方を知ってらっしゃるかもしれないと聞いて」
ちら、と彼が背後を一瞥する。やはり根が素直なのだろう。隠し事ひとつ隠せない、その正直さは愛すべきものだと思う。けれど、それとこれとは別問題だ。
大切なものを失くしたわたしが悪いけれど、拾い物の持ち主を知っていてなお猫ババしようものなら、それもまたいただけない。
彼がなんと答えるのか気になって挙動不審に揺れる瞳を見上げると、――あら?
「ゴゥワーさん、あなた、そんな目の色をしていたかしら」
海からの陽の光が眩く反射しているせいだろうか。栗色だと思っていた瞳が、灰の混じった緑色に恐れを滲ませてこちらを見下ろしている。
それはまるで、悪戯のバレたこどもが親からの怒りを恐れるような視線だった。
「んだ……お、おいら、海ぃ近くに行ぐど、昔っから目の色変わるんだべ」
「珍しい体質なのね」
そう言えば、ゴゥワーさんと会うときはいつも海から離れた彼の家か、墓地のような、やはり海から遠い場所だった。
そうか、村の人たちが彼を取替え子と呼ぶ理由のひとつは、この特異な体質のせいだったのか。
場所によって変わる瞳の色が、妖精か、化け物じみた不気味さを村人たちに与えていたのだ。素性が知れないことも相まって敬遠されていたのだろう。
初めて遭遇する現象に驚きを隠せないながらも、今重要なのはそこではない。彼の後ろ手に持つ、それを確認させてもらわなければならないのだから。
「ゴゥワーさん。今、後ろに隠したものを見せてくれませんか。わたしのとても大切なものかもしれないんです」
彼に向かって手を差し出す。彼は泣きそうな顔で、言葉もなく首を振った。お願い、と言い募ると、なお強く首を横に振る。
「ねぇ、ゴゥワーさん。もしもそれが、ゴゥワーさんにとって失くしたら困る、とても大切な……たとえば、家とか、シャベルとか、そういうものだったらどうしますか? 朝からずっと探していて、やっとそれかもしれないものを見つけたのに、確かめさせてもらえなかったら」
「んた!」
「そうですよね。わたしも嫌です。それに知り合いだと思っていた人から隠されると、とても悲しいわ」
慎重に言葉を選んで語り掛けると、彼はやっと、おずおずと後ろに回した手を差し出した。
大きな手に握られていたのは、思ったとおり、色褪せた布で隠すように包まれたわたしの調薬レシピだった。
よかった、見つけた。込み上げる安堵からほっと胸を撫で下ろす。けれどレシピを受け取ろうと一歩近づいた途端、彼はまた飛び上がるように後退った。
「お願い、ゴゥワーさん。それを返してください。あなたにもお話ししたでしょう、とても大切なものなんです」
こちらも必死に訴えかけると、彼は葛藤するようにレシピを抱き込んでぎゅっと目を瞑った。まるでわたしの嘆願を意識の外へ追い出そうとしているみたいだ。
――そもそも、どうして彼はレシピを隠そうと思ったのかしら。
拾ったにせよ、(……考えたくないけれど、)いつかの隙に彼が盗んだにせよ、彼は文字を読めないのだから持っていても仕方がない。それを、わざわざ隠してまで手元に置きたかったのは何故?
「ゴゥワーさん、この間言っていたわよね。自分は字が読めないから、その本を見ても何もわからないと。それなのに返そうとしないのは……何か、知りたいことがあるの?」
「……んだ」
やっと、彼がひとつ頷いてくれた。答えてくれる気はあるようだ。
「それは毒に関すること? それとも薬に関すること?」
ひとつひとつ、こんがらがった彼の意図を紐解くように尋ねると、ゴゥワーさんは「どっちも」と呟いた。
「グウェンさんが、ケシの睡眠薬は赤ン坊殺すこどもあるっつったがら。薬が毒さなるごどもあるし、もしがしだら、毒が薬さなるごどもあるで思っだがら」
「あなた、もっと薬の知識を知りたいのね……? それで、わたしのレシピを盗んだの」
「がめでね! 借りだんだぁ」
「持ち主に無断で拝借することを、人は盗むと言うのよ。あなたはわたしに無断でわたしのレシピを持って行った。落ちていたものを拾ったのだとしても、返そうとしなかったわよね。違う?」
「……違わね」
「そうでしょう」
「おべだぐでも、グウェンさんはもう村出で行ぐっつってだがら、これ以上教えではもらえね。
んだども、この本見づげだどぎ、思ったんだ。大切なものっつってだこの本が無ぐなれば、グウェンさんはまだこの村さ残ってくれるがもしれね、それで、この本読めるようになれば、おいらももっとうまぐ薬作れるがもしれねって」
ぽつぽつと語られる、それはきっと、誰も聞いたことのない彼の心からの望みだったのだろう。彼に寄り添おうとする人はこの村に少なかったし、薬についての話を咀嚼できる人など今やひとりも居ない。
養祖父母が生きていた時分には彼らが手ほどきできたことも、抑制できたことも、亡くなってしまっては口出しひとつできないのだから。
彼がそう考える火種は既にあった。それを燃え上がらせたのは、わたしの昨日の行動だ。
どうしたものかと考える傍らで、彼は更に続けた。
「おっかぁが」
「ええ」
「昔、そうやって村の人たぢに親切にしてだような気がするんだぁ。村の人たぢは喜んで、おっかぁにじっぱり親切返してだ。んだんて、おっかぁのしてだようにすれば、」
「自分も親切にしてもらえると思った?」
「んでね。おっかぁが帰ってぎでくれるがもしれねって」
彼の言う“村の人たち”とは、この村のことではないだろう。彼が母親と共に居た頃があるとするなら、この村に辿り着く更に前だ。
彼の思いの丈を聞いて、漸くわかった。彼にとっての薬というものは、わたしにとっての調薬レシピと似た側面を持つものだったのだ。
今やたったひとつ、母親から残された記憶。それが、彼とその母親との絆だった。だからそれに固執するのだ。捨てられたと言われながら、今もまだ、幼い頃に別れた母親を待っている。
「んだども、おっかぁはいづまでも帰ってこね。おっかぁが帰ってくる前さ、おいらから薬取り上げようどする人たぢが居るんだ。
クワやスキたがいだおっかねぁ人たぢが、家さやってぎで戸ぉ叩ぐんだよ。
赤ン坊殺したのはおめか、って。
おめが毒盛ったのが、って。
じっちゃやばっちゃみたいにおめも焼いでしまうぞ、って。
んだんて、薬も毒もじっぱり書いであるこの本だば、赤ン坊がら悪もの取り出して助けるこども、あの人たぢが家さ近付がねようにでぎる方法もあるがなって」
彼の行動はあまりに浅はかすぎた。己のためであり、村人のため、ただ親切のつもりでしたことが、おぼろげで幼かった曖昧な記憶ゆえに、取り違えて、尽く裏目に出てしまっていた。
「毒は、自分を害するものを簡単に遠ざけられるような便利な魔法じゃないし、薬は、どんな病でも治せる手軽な奇跡ではないのよ」
「んだば、おいらはどうすればいいだ?」
縋るような目で見下されて、わたしはたじろいだ。わたしだって、自分の指標を探して旅をしている最中なのだ。
恐らくわたしより年上だろう彼に指し示せるものなど、たかが知れている。それでも彼が何かを望むなら、今のわたしに言えることはひとつだ。
「薬の知識は、良い面だけを見ても身につかないわ」
彼が本当に薬の力で人々を助けたいと、また己を脅かすものから身を守りたいと思うのなら、大きな町のきちんとした薬屋へ弟子入りして、薬効も毒性も等しく理解するべきなのだ。
適切な対処を学ばなければ、いずれまた今と同じことの繰り返しになる。
そう諭すと、彼はでも、でも、と躊躇いを見せた。幼い頃からずっとこの村で育ってきたのだ。今さら村を出ることなど考えていなかったに違いない。
反論の言葉をどうにか絞り出そうとするゴゥワーさんを遮って続けた。
「知識を付けてください。虐げられたくないのなら。この村の同胞であることを、胸を張って生きたいのなら。愚かで半端な知恵ではなく、あなたが敵だと思うものすべてを生かしたまま利用できるだけの知識を付けなさい」
「んだども」
「他を排除して得られる平穏なんて一時しのぎだわ。いずれまた、あなたを脅かすものが現れる。この国が、嘗てそうであったように」
「んだども、おいらさいろんなこど教えでくれる人なんで、このアングルシー島には……」
「世界はアングルシー島だけで出来ているわけじゃないのよ」
彼が、いかに住みづらかろうとこの村から離れがたく思う気持ちも、少なからず理解できる。少し前のわたしもそうだったから。
なんだかんだと理由を付けて、結局踏み出す強い意志が持てなかっただけなのだ。それを不可抗力であれ、こうして旅に連れ出してくれたのは――不本意なことに、イングランド人である――エディだった。
きっとあのとき彼が居なければ、家を失くしたわたしは、コンウィ近くのあの集落に転がり込んでいただろう。そうしてまた、週に一度、薬草や薬を売って、ただ生きるためだけに生きたのだ。
それで得られるものは、日々の糧のみに過ぎないと言うのに。
(それ以上のものを得たいのなら、未知の場所にも踏み出さなくちゃ)
考えて、思いを巡らせるのは少し前に出会った、あのバンガーの修道女たちだ。
「わたしはほんの少し前、あるシスターに出会ったわ。彼女は大切なものを守るために他者を傷付け、大切なものを守りたいがためにそこから動けなかった。そこ以外で、生きていくすべを持っていなかったから」
「大切な、もの」
「そう。本当のこどもほども大切な子」
「本当のこども」
覚えたての言葉をなぞる幼子のように、ゴゥワーさんが口の中で呟く。思考を放棄していないのなら、否定の言葉が出なくなった分、彼の中で心揺らすものがあるのだろう。
「手放し難いものが、時には己の足枷になるときもあるわ。わたしはそれを否定できない。……だけど、今のあなたに足枷はないのでしょう?」
「あしかせ、って、何だべ」
「自分の足を引っ張るもの。そこから何処へも行けないように止めようとするものよ。
育ててくれた老夫婦も、今は亡くなってしまったと聞いたわ。奥さんやこどもが居るのでも、他に家族が居るわけでもないって。自分の身以外に守るべきものがないのなら、あなたはどこにでも行けるし、どんなふうにも生きられる」
ふ、と彼の灰緑色に輝く瞳に光が差した、気がした。それは枝葉の間からたまたま差した日がそう見せたのか、それともわたしの目の錯覚だったのかもしれないけれど。
ただひとつだけ確かに言えることは、それが彼の隙だったということだ。
話に聞き入るゴゥワーさんの油断を突いて、わたしは一気に彼の懐へ踏み込んだ。緩んだ腕の間からレシピをもぎ取ろうとしたのだ。
けれど突然のわたしの反撃に、驚いた彼は一拍遅れて本を抱え込むと、御せない防衛反応のままにわたしへ背を向けようとする。
わたしは彼の腕にしがみついて、レシピを上から叩き落とそうとした。一方で、態勢を立て直したゴゥワーさんの左腕が、わたしをその身から剥がそうと振り上げられる。
彼の丸太のように太い腕を押さえようと、引っ掻いた爪の先が、袖を割いてめくり上げた。
「えっ……!」
力任せに振り振り払われ、後方へと吹き飛ばされる。その刹那、彼の左肘の付け根に赤い痣が見えた。
三角形にみっつ並んだ、特徴的なナナカマドのような痣だった。
灰の混じった緑の目。
髪は黒パンよりも濃い焦げ茶。
左腕の内側にみっつ並んだ、ナナカマドの実に似た赤い痣。
銅で作られたポマンダーと、同じ薬草を使った調合を示す子守唄――そうだ、あの唄の薬草をつい最近見かけた気がしたのはこれだった。
まるで死の淵で見ると言う人生回想のように、ホリーヘッドのペンロスヴェイルーで出会った女性のことを思い出した。
どうやら、もうひとつの探しものは存外近くに居たようだ。
(――あ、これ、倒れるわね)
痛いのは嫌だな、と場違いにも呑気に考えながら、わたしは背中からの衝撃に備えて目を強く瞑った。
海辺と内陸で場所によって目の色が変わる体質の人も稀に居るようです。ゴゥワーはそれ。
日光の照射量やら、虹彩が鮮やかな人は感情の昂りで目の色の比率が変わることもあるそう。
あと、食べ物の成分によって長期的に瞳の色や虹彩が変化するなどの事例もあるそうです。人体のふしぎ。




