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情報処理室に戻るとほとんどの部員が残っていた。みんな五季がそのあとどうなったのか気になって帰れなかったようだ。
僕と雨宮は質問攻めにあう。他人の恋愛事情を詳しく話すのも悪いと思って、雨宮と顔を見合わせ五季とその彼氏が別れたという事実だけ伝えた。
詳しいことが知りたいなら本人たちに訊いてと言ったら、みんな口々に思い思いの想像を語っていた。
雨宮が帰らずに作業を始めたので、僕もパソコンを起動させる。
彼女の表情がどこか上の空だったので僕は近づいて気になっていたことを訊ねた。
「あのさ、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「さっき10年以上前の感情ファイルのこと言ってたけど興味あるの?」
「うーん。興味があるっていうか、大切にしている感情があるんだよね」
「それを最新の保存形式にしたいんだったら変換する機械あるよ」
「いや、それは大丈夫」雨宮は僕の顔を見る。「大丈夫っていうのは実際にもう変換してみたんだ。けど、どうにもやっぱり違うんだよね」
販売当初の保存形式と現在のはだいぶ違うらしく変換すると多少の誤差が生じてしまう。変換したあとの感情を体験しても同じものと思えないという感想を聞いたことがある。
ただ変換さえしてしまえば、7月にすべてのヘッドエモーションのプログラムが強制的に最新のに自動更新されたあとも引き続き共感することができる。
7月以降も以前の保存形式の感情を共有するためには、きっとそれ専門の研究機関の機器を使うか、もしくは違法な方法を取るしかなくなってしまうだろう。
「もしかして、7月以降もその感情を共有したいってこと?」
「え? そんなことできるの?」雨宮は驚いた顔になる。
できるのだろうか。自分で言っといて不安になる。変換したあとの感情ファイルをどうにか操作して、元の感情とまったく同じにすることは可能なのだろうか。
「ちょっと調べてみるよ」適当なことは言えない。まずは情報を集める必要がある。
「そっか。そういうこともできるかもしれないんだね」何度も雨宮は頷く。「ありがとう」
雨宮の笑顔に僕は思わず顔を背けた。
「うん。できる限り頑張ってみるよ」
「わたしも調べてみるね」
彼女は小さくガッツポーズをつくった。