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保健室の匂いはやっぱり落ち着かないなと思いながら、ぼおっと天井を眺めていた。
気分はもうだいぶ回復していた。
僕は今保健室のベッドの一つに横になっている。雨宮が難しい顔で僕を見ている。
僕は壁につけられているカレンダーを見た。6月の最終日。明日の午前0時を過ぎたら一斉にヘッドエモーションのアップグレードが始まり、古い形式の感情ファイルはもう読み込めなくなる。
結局間に合わなかったな。
焦りよりも失意が大きかった。雨宮を喜ばせることができなかった。
「ねえ。もしかしてなんだけどさ」雨宮はじっと僕の顔を見て言った。「わたしが渡した感情合成してる?」
隠していたわけじゃないのにすぐには答えられなかった。
「その顔見ただけで答えがわかったよ」
僕も黙って雨宮を見返す。
「こんなに無理するまで、どうして?」雨宮の表情は変わらない。
僕も問われて考える。
どうしてだろう。
佐藤の失敗を見て、感情を合成するとはどういうものか理解しているはずなのに、どうして。
雨宮は長く息を吐いた。
「そんなに辛そうな顔見たくなかったよ」
雨宮のためにやっていたことが結果的に彼女を悲しませてしまった。
雨宮の視線がカレンダーに向いた。
「明日は7月か」
そうだ。結局達成することはできなかった。
雨宮に対して申し訳ないという気持ちがあった。手伝うとか言っておいて、結局何もすることができなかった。
「尾道くん。そんなに気にしなくてよかったんだよ」
「できると思ったんだ」
「……そっか」
保健室の外ではすでに蝉が鳴き始めている。これから気温もどんどん上がっていくだろう。
「ねえ。明日って予定入ってる?」
「いや、なにもない」バイトもしていないので基本的に土曜日は暇を持て余していることが多い。
「じゃあ、ちょっとつき合って欲しい場所があるんだけどいい?」




