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君に伝えたい、たったひとつの気持ち  作者: 山橋和弥
第3章 合成
11/23

3-3

 放課後。情報処理室で雨宮と会った時も話題は好感度ランキングではなく昨夜学校の掲示板に突如として載せられた謎の感情のことだった。

 雨宮は自分が3位だったことをどう思っているんだろう。気になったが今はそのことを訊ける雰囲気ではない。いや、そもそもどんな空気だって僕は雨宮にそんなことを質問できる人間ではなかった。

「びっくりしたことが起こったよね」雨宮の声は少し興奮している。

 いま情報処理室には僕と雨宮以外に何人かの生徒が課題をやりに来ているようで、自然と声を潜めた会話になる。

「雨宮も体験したの?」

「うん。回ってきたからね。も、ってことは尾道くんも?」

 僕は頷きを返す。

「誰がなんのためにしたんだろうね」雨宮は首を捻る。

 おそらく教師たちは誰がの部分はもう把握しているだろう。学校の掲示板はそもそも学生番号と自分で決めたパスワードを入力しないとアクセスできないし、匿名で投稿したとしても教師はそれがどのアカウントからなされたものか知ることができる。だからすでに教師はその子を呼び出して厳重注意をしているだろう。あの掲示板をつかうというのはそういうことだ。だから僕は誰がよりも、どうして教師に筒抜けのあの掲示板を使ってあんなことをしたのかのほうが気になった。

「ちなみにこれって誰の感情だかわかる?」

「僕たちがってこと? それは管理権限がないから難しいと思うけど」

「例えばさ、尾道くんが前にも使っていた同じストーカー同士の波長を見分けられるように、この感情を分析して誰のかわかることはないの?」

 少し考える。

「できるかできないかで言えばできるね。けどそういうソフトは高いよ、値段がね。個人個人の感情の波長は指紋みたいにそれぞれ違う特徴があるらしいけど、それを判別するソフトは普通の高校生は持ってないと思う。そういう仕事に就いているか、それとも趣味で高額出して買う人か」

「ちなみにESP部には?」

「残念ながらないね。精度が低いやつならあるけど、それじゃあ正確な結果は得られないし」

 雨宮はじっと考え込む仕草をする。

「あれ、もしかして誰が感情を載せたのか知りたいの?」

 意外と雨宮にも野次馬根性的なものがあるのだろうか。それならそれで僕もつき合う気持ちは準備できてるが。

「いや。誰にもわからないならそれでいいんだけどね」

「もしかして感情体験して気になることあるの?」

 これまでも雨宮は色々な感情を共有したときに僕には気づけなかったことに気づくことが多かった。もしかして今回もそうなのだろうか。

「うーん。誰かわからないならそれが一番なのかもね」

 雨宮は含みのある言い方をした。その言葉からはこのままこの問題が大きくならずに沈静化していくことを願っているようだった。

 けれどその雨宮の期待を裏切るようなことがその日の夜に起こった。学年の好奇心旺盛のある男子生徒が知り合いの人に頼んで誰の感情か判別させるソフトを使用したらしい。彼は自分が発見した真実を周りに言いふらさずにはいられず、その日のうちに様々な経路を通して学年の掲示板に謎の感情を残した生徒の名を明かした。

 僕は佐藤からその情報が伝えられた時に、その意外さに驚くよりも早く雨宮の顔が思い浮かんだ。

 彼女が危惧していたことが現実になった。これからどうなるんだろう。

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