ー最終話
ー最終話
春菜は、物販の横の椅子の上の小銭入れのような物に気付いた。
「これ誰のですか~?」
完売で物販は終わっても、まだ四谷天窓の中はごった返していた。
誰も首を振る。
ほの子さんが言う。
「中見てみたら?名前が有るかも」
ファスナーを開けると、白いバナパスポートと書かれたカードが何枚か入っていた。お金もクレジットカードもキャッシュカードも入っていないが、JRのTOICAが入っている。
「あとは、写真かな?紙に包んである」
春菜は開いた。
「勝手に開いちゃ駄目よ。どうしたの…?」
春菜は写真を食い入るように見ていた。
ほの子も見た。若い夫婦が赤ちゃんと一緒に写っていた。
「この男の人、さっきのスーツの……春菜!」
春菜は、エレベーター横の階段に消えた。
「おとうさんっおとうさんっ!」
商店街を行き交う外国人達が振り返って見た。
商店街を抜けると横断歩道は赤だった。
その向こうにスーツの人が歩いている。
叫んでも、山の手線の叩きつけるような電車の音が、ガード下に降って来て掻き消される。
青になった。
走った。
改札の前でスーツの人は立ち止まってポケットを探った。
そして、振り返った。
春菜は両手で写真を光治に差し出した。
光治は
そうか…
と言って両手を拡げた。
春菜は赤ちゃんのように。
叫ぶように。
泣き声を上げて。
父親の胸に飛び込んだ。
四谷天窓の月完結