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四谷天窓の月  作者: 武上渓
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ー1話


ー1話


「やられた」

近藤光治は上野のビジネスホテルの軋むベッドの上で呻いた。

開かれたタブレットには、ユーチューブの胡散臭いタイトルが踊っている。

<戦場カメラマン車田さん救出にネット民大炎上>

元々シリアで武装勢力に拘束された時点で、光治を始めとする仲間が救出の交渉をスタートした。

現地の信用度の高い交渉人が身代金なしの解放に向けて、話し合いが進んでいた。

しかし、突然武装勢力側の態度が急変した。

交渉は進まず、突然解放のニュースが流れた。 


別のルートで身代金有りの交渉が光治達の交渉を潰したのだ。

ジャーナリスト救出で、国際世論を有利に展開したいカタールが3億を武装勢力に支払った。

この3億で、何人の死者が出るのか…光治は人はここまで、命に対して無慈悲なれる事に恐怖を感じた。

ユーチューブを閉じようとして、指が間違って別の動画を開いた。


カバーLOVETHEウォーズ 近藤春菜

若い女の子がギターの弾き語りで歌い始めた。

25年前に離婚した。妻はいつ死亡するか判らない夫を待つ事に疲れはてた。その妻との間に産まれたばかりの娘がいた。

名前は近藤春菜。

妻との約束で娘には1度も会っていない。

近藤春菜のチャンネルを開くと、たくさんのカバー動画の中に、路上ライブの動画が有った。

オリジナル「あいたい」とタイトルに有った。 


私のおとうさんは

戦場カメラマン

赤ちゃんの時に

離婚した

お母さんは

名前も教えてくれない

写真も捨てた


だから戦場カメラマンの

写真を全部持ってる

戦場カメラマンは全部

私のお父さん


あいたい

会った時に

誉めてもらえるように

私はこんなにも

一生懸命生きてる

だから

死なないで

死なないで

私の所に戻ってきて

戦争が全部終わって

戦場がとれて

カメラマンだけに

なったら

いいのにな



彼女の後ろを通り過ぎていた人達が足を止めた。

みるみる人垣ができる。

歌が終わると、元妻そっくりの顔で笑った。

涙が流れているのに、光治は気付いた。

概要欄を開く。

高田馬場四谷天窓に出ます!来て下さい。私は19時から30分やります。

会うのは、元妻との約束違反だ。しかし、春菜は自分の顔を知らない。なら、黙って席で聴いて、黙って帰れば良い。

日付は今日だった。           

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