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オピオンの卵    作者: 猿くん
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オピオンの卵 その6

言い訳をすると、学業が忙しい時期なんです。許してください。


2060年5月28日

ネウケン2世船内

ベクター隊第1部隊アスラー・アスワド軍曹


アスワドはメイキット達、2人に持たれながら敵の増援に見つかることなく帰艦を果たした。アスワド機の破損状態に整備士達は呆れ顔で見上げているのをアスワドは見てみぬふりをして「お疲れ様でーす」と明るく声を出し、コックピットを後にする。




 アスワドは格納庫の傍らに置かれてあるベンチに仰向けになって腕でアイマスクがわりにしていた。本当はベッドに潜り込みたいのだが、艦隊がファジー島の約35キロメートル圏内にまで進軍したため、いつ出撃が下るのか分からないのでベンチで心と肉体の休養をとっていたのである。




 ここ、格納庫は攻撃隊と戦闘隊の2フロアに別れていて今、アスワドがいる攻撃隊の格納庫にはFCLが敷き詰めらていたのだが、先の作戦行動で半分にまで減少し、それに比例するかのように喧騒さもなくなっていった。




 また、仲間を失った悲しみか出撃の疲労で壁際に座り込んでいるパイロット達をちらほら見かけた。

「・・・・戦争か」

 と言って、アスワドは伸びをするため腕をどかせると突然、熱々のタオルが被さってくる。あわてて起き上がり、タオルを顔から払うと後ろから聞いたことのある陽気な笑い声がする。振り返ると案の定、ドグレスであった。




「何するんですか! いきなりー!」

「だ、だって新人が、し、知ったかようなか、顔をしてたもんだから」

 ドグレスの途切れ途切れの声が格納庫に響く。彼は深呼吸して自分を落ち着かせると、アスワドのもとに来た理由を話し始めた。




「艦長がオメーをお呼びだ。何をしたのか知らんが、顔を引き締めていってこい」

 要件だけ告げると、ドグレスは格納庫の出口に向かいながらアスワドに手をふって出ていく。




 アスワドはドグレスから貰ったタオルで顔を拭くと、微かにあった眠気を何処かへ追いやる。そしてこのタオルをどう始末していいのか分からず、艦長室に向かう道中にいるはずの掃除員に渡すことにする。




 アスワド達が乗っているネウケン2世は南北統一アメリア連合国軍が保有している空母でも大型級の艦で、船体の大部分が格納庫と甲板として設計されており出っぱった様に艦橋があった。そのため、艦橋に行くには複雑なルートを通らなければならない。




 アスワドは格納庫から出ると、何回も折り返される階段を上りまた、違う階段を上るのを3回繰り返した後、艦長室の前に到着する。アスワドは深く深呼吸し、息を整えるとドアをノックし自分の名前を告げる。中から入室許可の返事があるとアスワドはドアのスイッチに触れ開けて入室する。




 部屋の中は右側に制服姿のメイキット隊長、左側にブロンドの髪を短く切り揃え、見いってしまうぐらいの美形な顔立ちをした女がいて肩の線を見るにアスワドと同じ階級であった。その隣に赤髪をオールバックにしていて陽気そうな雰囲気を漂わせる男がいた。その人はアスワドより肩の線が多く少尉という事がわかる。そして正面の椅子に座っている艦長がいた。




 艦長は焦げ茶色の肌にくっきりとしわを刻み、制服の上からでも分かる筋肉質の体をしていた。その体付きから軍に入ってから生粋の船乗りだということは経歴を見なくても分かった。



 艦長の一言目は嫌味から始まった。

「おい、俺は14分前に招集をかけたんだぞ。何故5分以内に来なかった? 艦長に呼ばれたのにとろとろと来やがってなめてんのか? 言ってみろ」

「いえ、ドグレスから報告をうけ」

「すぐに人のせいか! 貴様は! それになんだその服装は!? 上官に面会するのにパイロットスーツとは無礼者がぁ!」




「いや、いつ出撃かわか」

「怒られているのだからまずは謝るのが筋だろうがぁ! 貴様、俺を馬鹿にしているのか!」

「艦長、時間もないことだし本題を」




 アスワドがこっぴどくやられているのに見るに耐えなくなったのかメイキットが艦長をなだめる。艦長は1つ咳払いをし熱を冷ます。

「アスラー・アスワド軍曹。貴様を現時点をもって攻撃隊から戦闘隊へ異動とする」

「はあぁ!? なん」

「はあぁ!? とは貴様! 海に沈めるぞ!」




「艦長!」

 またしてもメイキット隊長が艦長をなだめる。その光景に赤髪の男は苦笑いをする。

「っち、分かっておる」

「何故、俺、いや、私が戦闘隊へ?」

「なんて察しの悪い馬鹿なんでしょう」




 さっきから黙って立っていた女が俺が勝手なこと言えないのを良い事に艦長に聞こえないように嘲笑してくる。アスワドは彼女を横目で睨み付け「黙れ」とアイコンタクトを送るが、彼女は関係がないようにわざと目をそらしていた。


「ったく、戦うしか頭にないのかこの馬鹿が!」

「まー、そんなに言わないで下さい。これでも可愛い後輩なんですから。で、アスワドも毎回の出撃で敵の戦闘隊とボロボロにはなるけど戦えてるんだ。そこが評価されてるんだよ」

 察しの悪いアスワドにメイキット隊長は異動になった理由をわかりやすく教えてくれる。そして、隊長に褒められることはアスワドにとって素直にうれしかった。

「あれ、俺もしかしてすごいんすか!」

「「うぬぼれるな」」




 艦長からまたもやきつい叱責が来ると同時に、女の声が混じっているのをアスワドは聞き逃さなかった。もう一度彼女を睨むと、口パクで「馬鹿」と言ってくる。初対面であるはずなのにどれだけこの女は図太い神経を持っているのかとアスワドは思った。

「戦闘隊の人員が足りなくなっただけだ馬鹿が。で、そこにいるのがお前が入る戦闘隊第4部隊だ」




 艦長が指を指した先にはさっきからうるさいブロンドの女と赤髪の男であった。男は自分の髪をなでると自己紹介をする。

「えーと、俺が隊長のフライアーだ。期待してるぜ新人」




 彼は手を出して人受けのいい笑顔をする。アスワドは握手に応えて「こちらこそ。アスワドです」と答える。

「いつかぶりね新人。ジゼルよ。もうお守りは必要ないのかしら?」

 「ジゼルよ」と言った声からアスワドはこの前助けに来たパイロットだと判断する。

「もうお手をお借りしないのでご安心を」



 アスワドはジゼルの挑発に「お前も新人だろうが!」という突っ込みも胸の中に抑え、丁寧に返し一礼をする。ここはあくまで、精神的余裕を見せつけておきたかったからだ。

「早速だがお前らに仕事だ。5時間後ミーティングを始めるから各隊長はそれまで隊員に休息を取らせろ。下がれ」

 挨拶はもう終わったと判断した艦長が指示を出す。それに応えてアスワドを含む4人は敬礼をすると部屋を退出する。あの体育会系艦長から離れてアスワドは心底ほっとする。




「はあ、それにしても攻撃隊がひょこひょこと戦闘隊へ編入なんて戦闘隊も落ちぶれてしまいましたねー、隊長」

 ジゼルはアスワドが扉を閉めた瞬間に明らかに彼に聞こえるように言う。これは明らかな宣戦布告だが万が一の聞き間違いがあるかもしれないので一応聞き返す。

「おいでか女、おめえさっき何て言った?」

「あら、ちっさいのまだいたの? ごめんなさい視界から消えたからもうおねんねしたのかと」

 確定。彼女は完全にケンカを売りに来ている。何よりも背の事を言い出したのでここは黙っておくわけにはいかなかった。



「はあ、これだから身長に栄養が行きすぎて頭すっからかんの奴は。自分の隊の方が優れているって思いたがるのもしょうがないだろうが少しは大人になったらどうだ?」

「キャンキャンうるさいわね。このチビ、ただ単に攻撃隊よりも戦闘隊の方が優れてるから事実を述べたまでよ」

 


 チビを連呼するジゼルにとうとうアスワドの内心も穏やかではなくなってくる。

「は? 訓練所で何してきたんだよこの木偶の坊。攻撃隊の生還率と戦闘隊の生還率も覚えてないのか?」

「あははははは、あんな5年前の数字を信じてたの? FCLの技術力はここ数年で大きく伸びたわ。それにより生還率も上がってきた。それでも記載の生還率が低いのはただの新人をびびらせてるだけよ。無駄なお勉強お疲れ様ー」




「馬鹿が。ここまで知ったかぶれるとかもはや憐れだな。ここ数年といっても2、3年だ。そこで開発されて実践配備されているのはまだせいぜい第1艦隊か第2艦隊の主力艦隊だ。俺らんとこみたいな第9艦隊には未だに旧式の機体を使っている。だから、教科書の数字がここでは適切なんですー。分かったかこの木偶の坊!」




「くそチビが、お仕置きが必要ね」

「やってみろよ。返り討ちにしてやるよ」

「こらこら、アスワドいい加減にしないか、そもそも背が小さいのは事実だろ、現実を見ろよ」

 そこで一瞬仲裁のように聞こえたメイキット隊長の横やりにアスワドは誤解が生まれないように反論をする。



「いやいやいや、待ってくださいメイキット隊長。チビとか言ってくれてますけど、俺175ありますからね。全国平均ちゃんとありますからね。ただ、俺の周りがでかすぎるだけです。この女に限ってはたった2、3センチ違うだけですからね」

「女の子に身長抜かされてるのはどうなのよ。このチビ」

 



「俺はな男女平等主義者だからな、男と同じように殴るぞ」

 二人の喧騒を静観していたが、そろそろ見かねたフライアーが今度こそ本当の仲裁に入る。

「おーい、そろそろ寝たらどうだい? 次もあるんだし」

「そうだね、フライアー君の言うとおりだ。ずっとじゃれあってるのも面白いとは思うけど、時間を考えて欲しいよね。後アスワド、俺はもうお前の隊長じゃないよ」

 メイキットも本来の役目である立場になり、止めに入る。アスワドも二人の上官に言われたのでさすがにここは食い下がるしかなかった。



「失礼しました。メイキット上官殿、しかし、このデカイのがうるさいもので」

「あんたねえ」

「まあまあ2人共、いい加減にしてくれ。これから一緒に戦っていく仲間だろうが、仲良くしてくれよ。ほら、握手でもして」




 アスワドはフライアーの申し入れを嫌々ながらも受け入れ、ジゼルに右手を伸ばす。ジゼルも右手を出し握手をする。



だが、彼女は2人の隊長には分からないように目一杯の力を右手に込める。この時アスワドは本気でこのゴリラのような女を殺してやろうかと考えたのだった。

これからも頑張るウナギ♪

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