オピオンの卵 その5
決して忘れていたわけじゃあないです。ホントだよ?
2060年5月27日
ファジー島上空
ベクター隊第1部隊アスラー・アスワド軍曹
アスワドは降下地点に付くとすぐさまメイキットに報告する。
「1-1、降下地点に着きました。どこです?」
「今着いたところだ。オーバーストの準備が終わったら、雲から出て降下するぞ」
「1-2、いつでも行けるぜ」
アスワドは、オーバーストの充填が終わっていることを確認すると、機首を下に向ける。雲が左右に裂け次の瞬間には島の全貌と10機以上の小銃を構えたFCLが見える。そして、2機の降下中のFCLを見つける。アスワドはメイキットとドグレスであると見当つける。
「1-1! オーバーストは?」
「まだだ、もっと下りてからだ」
アスワド達3人は敵からの集中攻撃を最大速で垂直降下でかわしていった。敵のFCLを瞬く間に抜いていき、島が倍以上に大きくなっていく。
「1-2、1-3、そろそろ島の防空射撃圏内に入る。オーバーストの準備はできているな」
「はい、でも今から使うと地表にぶつかりますが」
「いや、大丈夫だ。腕には自信があるんだろ。どのみちもう引き返せないよ」
アスワドはメイキットの言葉に無茶振りを感じながらも上から降り注ぐ弾丸と、迫ってくるであろう弾丸のことを考えると迷っている時間はなかった。
「くっそ、やってやりゃあああ!」
アスワドは覚悟を決め、オーバーストのスイッチを入れる。激しい浮遊感がアスワドを襲うと、歯を食い縛り体が持っていかれないようにする。敵のFCLを振り切ると、地上から迎撃が始まり弾丸の閃光が迫り来る。だが、超高速で突撃する3人にとって全くもって問題がなかった。3人を狙った弾は全て数秒前までいた空間を撃ち抜いていた。
アスワドは瞬く間に地面が接近する状況に恐怖心を覚え、それから目をそらすようにメイキット達を見ると、さらに後方に位置していて戦闘形態に変形していた。何か考え事をしなくては気がどうにかなってしまうと思い色々なことを思考する。
再度攻撃対象を確認し、最優先は格納庫次に管制塔と滑走路、一応周辺の対空砲、計器に格納庫を読み込ませロックオン対象に設定する。
次にアスワドはオーバースト終了時の予測高度を計算する。そして、計器は-320メートルという数字を示す。アスワドはこの数字を見ると青ざめ、反射的に瞬間FCLを戦闘形態に変形させ、FCLの足を地面に向けて急減速を試みる。
直後に上から天井で押しつぶされるようなGにアスワドは自分でも聞いたことのないような声を上げる。そして、地表間際で止まるとオーバーストも制限時間を迎える。アスワドは息を上げ、唾が口から出てきかけているにもかかわらず口を閉じずにいられながらも、力弱い手で既にロックオンされている攻撃対象に向けミサイルを発射させる。
弱弱しいパイロットとは裏腹にミサイルは活き活きと格納庫へ向けて飛んでいき爆音と共に火炎が発生する。仮設なのか鉄パネルで作られていた格納庫は見た目通りの防御力であっけなく吹っ飛ぶ。
「1-3! それは後のやつに任せろ。お前は北側の対空砲を壊していけ」
メイキット隊長が力強くそう言う。隊長も同じ衝撃を食らったはずなのに全然応えた様子がないように見え、アスワドは心から感心する。
「りょ、了解!」
メイキットは「俺たち少数が目標を攻撃するよりも、対空砲を潰して仲間の到達率を増やしたほうが作戦の遂行の効率が良い」という意図をシャットダウンしかけている頭をたたきながらそう理解する。燃え上がる格納庫とそれに慌てる敵兵達を飛び越し黒い森へと向かう。アスワドはFCLに対空砲をロックオン対象に変更させる。すると、森の至る所から反応が出る。それはFCL等は一撃で破壊できる75.5mm砲を三連装備し、下にはキャタピラを持っていて現在は4本の支柱によりその砲台を支えていた。アスワドは近いものから狙いを定め返り討ちに遭わないように接近しながら空爆を開始する。
対空砲は、アスワドという天敵の存在を知り逃げ惑うが、キャタピラから生み出される速度はたかが知れており、対空砲への攻撃はほぼ事務的な作業となり、その間にアスワドの体調はほぼ万全になる。20門程対空砲を鉄くずに変えた後、アスワドは山の中腹辺りにFCLらしき影を発見するが、ズームをしてもうっすらとしか確認出来ないので敵なのか味方なのか区別をつけられなかった。
「1-1、山側に未確認のFCLを発見、指示願います」
「こちら1-1、こっちの南側でも確認した。多分敵の迎撃だろう。後続が飛行場に攻撃を仕掛けている間、奴らの相手を出来るな?」
「えぇ!? それって戦闘隊の役目じゃあ・・・」
「その戦闘隊がいないんだ。おまえしかいないだろ、1-3」
「・・・了解です。引き付けるぐらいしかできませんよ」
「十分だ」
アスワドは攻撃機が戦闘機の相手をするなんてどれだけのオーバーワークでそれを当然のように命令してくる隊長を含めたこの軍はブラックだと確信するが、命令なので従わないわけにもいかず。敵戦闘機への攻撃をするため山から距離をとり、再びオーバーストのチャージを開始させる。また本来の目的でもある対空砲も排除しながら大きく旋回し山に向かう。彼は今回の作戦のために装備された2丁の小銃を手に持ちオーバーストの準備完了まで距離を縮める。
他の味方部隊が飛行場の爆撃を開始した時と同じ頃、アスワドはオーバーストを起動させ、敵迎撃部隊に向かって突撃を開始する。初陣から3回目のオーバーストの使用で降りかかるGに慣れてきたアスワドであったが、今回2回目の使用のせいか、それとも急降下など激しい飛行をしたせいか、小さくミシ、ミシとFCLが悲鳴を上げるが、アスワドはそれを空耳と決めつけ前方の敵に集中する。
接近すると敵の姿がはっきりと見えるようになる。敵は4機で縦に1列の編隊を組み飛行場へ向かっていた。アスワドの急接近に敵が気付いた時には既に小銃の射程内であり攻撃編隊になった時にはアスワドの攻撃が開始された。
だが、彼らはだてに前線基地に配備された精鋭のFCL乗りをやっていないので最初は動揺したものの、すぐにアスワドを中心に円で広がり囲いを作る。 その刹那、アスワドは正面に構えていたFCLに向かって特殊兵装として毎回1発装備される煙幕用のミサイルを通常のミサイルと一緒に発射する。
更にアスワドはミサイルを小銃で起爆させ煙幕を誘爆させる。煙幕はアスワドを始め、ミサイルから離れようとした正面の敵、周りの敵を丸飲みにした。
アスワドに対峙する隊長機は部下に退避を命令し自分も下がろうとするが「warning」と警告表示がでる。その瞬間、戦闘形態のFCLが煙を切ってタックルをするように突撃をしてくるのが目に映り、次には体当たりされた衝撃が身を襲う。
小さく呻くと、なんとか突撃してきたFCLから離れようとするが、自機の体勢が制御できず無抵抗に山に叩きつけられ、その激しい衝撃に意識が飛びかける。手でヘルメット越しに頭を叩きながら自機の損傷具合を確かめると、もはや行動不可能だと知る。
目の前の敵は自分が動けないことを知ったのか、仲間の支援に対応するためか自機から離れる。敵の常識から外れたタックルに怒りを覚えながらも通信が生きていることを確認すると、部下に指示を出す。
アスワドは山にぶつけた敵のFCLが行動不能と分かると、援護に来た3機の攻撃を距離をとりながらジグザグで回避していく。さすがに猛スピードでFCLに衝突した損傷は小さいものではなく右腕が動かなくなっていた。突拍子の事はもうやらないという反省と思い通りに行ったことの嬉しさを噛みしめていると、突如左側から対空ミサイルが数発飛んでくる。それらは、山の迷彩が施された対空火器からのものだった。
今度は驚きを隠せない声をあげながらミサイルから逃れるため山と逆方向に背面飛行する。アスワドは追尾してくるミサイルは全部で6発と確認すると、左の小銃で1発打ち落とす。すると、誘爆で目の前が爆炎のオレンジ1色になる。
が、爆煙から2発のミサイルが姿を現す。アスワドには視界に突然現れた2発のミサイルをどうすることもできず、頭の思考が停止しかける。だが、突然ミサイルは炸裂しアスワドに着弾する前に爆破する。
アスワドはその衝撃で操作が効かなくなり地面に落とされ、何本も木をなぎ倒しやっとのことで機体は停止する。アスワドは地面に落ちた振動に悶えながらも機体の損傷を調べる。すると、背面から落ち、地面でだいぶひこずったせいかエンジンが破損していることが分かる。
しかし、即座にアスワドは3機の敵がまだいたことを思い出し、目視で探しながらレーダーを起動させる。レーダーは2機のFCLを捉えると、上空にその2機が姿を現す。しかし、それは敵機ではなく第1部隊の隊長機と副隊長機であった。
「おーい、アスワド君生きてるかーい?」
「おいおい、こんなんで死なれたら第1部隊の名折れだぜ」
数分前に聞いたはずの2人の声が何故かとても懐かしく思える。既に南側では仕事を済ませ、こっちの迎撃部隊3機まで撃破した2機のFCLはとても大きく見えた。肺に入っていた空気をすべて吐くと、体が脱力し、今更緊張していたことに気付く。
「はい、なんとか生きてます。けど、機体のエンジンがやられましたぁ」
「はっはっは、すっかりとバテてやがる。しょーがねえ、俺らで持ち帰るかー」
「だね、全く世話の焼ける部下だよ」
「え、帰るってことは、作戦は成功したんですね!」
「いやまあ、成功はしたんだけど、撤退かな」
メイキットの声の様子からどうやら予想だにしていないことが起きたのだと察する。
「え、それってどいう・・・・」
「この島にいた艦隊のFCLがかなりの熟練だったんだよ。戦闘隊が壊滅的らしい。そして、その部隊が今こっちに向かってきてるんだよ」
どうやら、アスワドの快進撃のようには作戦自体はいっておらず、むしろ攻撃隊はかなり窮地に立たせられているらしかった。
「そういうことなら、今すぐ帰りましょう!」
アスワド自身ではもう飛ぶことは出来ないので、左手の小銃を放り投げ隊長の方へ手を出し「担いでください」とお願いする。
「はいはい・・・こちらベクター1-1、敵の増援が東より接近中、各隊は各自は無事帰艦せよ」
「ベクター2-1、了解した」
「ベクター3-1、了解」
ホントだからね?