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オピオンの卵    作者: 猿くん
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オピオンの卵 その4

 2060年5月26日

 ファジー島海域

 ベクター隊第1部隊アスラー・アスワド軍曹

 FCL隊に出港から2度目の出撃命令が下ったのは日が変わる3時間前であった。いつもは船内は就寝時間で静かなのだが、今はFCLのエンジン音と整備班の怒号の嵐であった。




 アスワドはFCLのコックピットでブリーフィングに参加した後、出撃まで待機をしていた。今回の作戦は以下のものであった。

「我が艦隊の作戦はファジー島にある敵の前線基地の破壊また、ファジー島の制圧だ。東に4000メートル級の山、西に密林が広がっている横長い島だ。敵司令部は山の内部にあり、更に西側には密林を切り開いて建設した飛行場が2つある。




 今回は第10、第11艦隊と陸軍第10師団の合同作戦でもある。敵の基地は中規模のものと見られる。基地への攻撃は我が第9艦隊と陸軍で行い、第10、第11艦隊は敵の援軍阻止を受けもっている。現在我が艦隊は島の東から接近している。陸軍が上陸しやすいように地上への砲撃支援をするためだ。しかし、これには問題があり砲撃中、飛行場からのFCLの攻撃が邪魔になってくるのだ。




 そこでお前達の出番だ。攻撃隊は隊を2つに分け、飛行場を各個破壊、戦闘隊は途中攻撃隊の護衛、島に到着後、駐留の艦隊を襲撃し陽動しろ。だが、島の上を飛ぶんだ向こうも相当の対空兵器を配備しているはずだ。だから、お前達をたたき起こして警備が多少は薄い夜間に出撃させるのだ。今回の作戦はお前達の戦果にかかっている。失敗は許されんぞ。以上だ」




 ファジー島は南太平洋のローストリア大陸東方に位置し、ユーリシター連合国軍の南太平洋における最前線である。また、ここから後方にはカレニア島があり、ここは2個大艦隊とアメリア本土を空爆出来る大型航空機が離発着できる飛行場を保有しているという大規模な基地であった。




 だが、これより後ろはフォロモン諸島補給基地や、ローストラリア大陸がありアメリア軍がファジー島とカレニア島を抜けると南太平洋の戦局は大きく変わるのであった。

 アスワドはパイロットスーツに付いている袋型の水筒で口の乾きを潤していたら、メイキット隊長からの無線がかかる。スイッチをいれると、メイキット隊長とドグレス先輩と繋がる。




「やあ、起きてるかい? 第1部隊の詳しい作戦行動が確定したから。僕らだけで会議だよ」

「んたく、夜間とか、どんだけブラックなんだよ」

 と、ドグレスが機嫌が悪そうな顔で悪態をついていた。どうやら熟睡中のところを無理矢理起こされて、だいぶ機嫌が悪いようだ。




「うちは軍隊だからホワイトもブラックもないさ、今回の作戦内容だけどいわゆる奇襲攻撃だ。だから、飛行場の真上、高度1万5千から急降下爆撃を行う。そんで、向こうの隊と話し合って俺達は北側を燃やすことになった。腐っても前線基地だ。油断したら蜂の巣だし、うち漏らしても蜂の巣だ。気を引き締めていこう」




 メイキットの作戦の説明が終わった頃全てのFCLの換装が終わり、第1陣の戦闘隊が全て発艦し終えるまで攻撃隊はエンジンを温め待機する。

 戦闘隊が全機発艦した後、とうとう攻撃隊の出番になる。アスワドは甲板に上がると夜の恐さに改めて気づかされる。甲板の先と海の境が分からず艦橋もうっすらとぼやけていた。




「やっぱ、夜は全然見えないなー、1、2メートルしか見えない」

「はっ、今さらだぜアスワド、夜間はほとんど計器とにらめっこだ。危険度は跳ね上がるが、この作戦で本土に帰れる。頑張れよ」




 アスワドは腕のストレッチをしながらドグレスの言葉に「了解っす」と応え、1つ深呼吸する。

「こちら司令官、ベクター1準備はいいわね。ベクター1-1から行きなさい。それと、必ず戻ってきなさいよ」

「りょーかい、ベクター1-1、メイキット発艦する」




 その言葉と同時に隊長機は高速で微かなエンジンの光だけを残して闇に溶け込む。

「っしゃー、ベクター1-2出撃する!」

 アスワドはドグレスのFCLが飛び立つ音を聞きながらエンジンの出力を上げる。

「ベクター1-3、いけるわよね。行きなさい」

「ふっー、ベクター1-3出る!」




 慣れてきたGが体を襲い、次の瞬間には夜の空に飛ぶ。

 全ての攻撃機が発艦した後、編隊を組み、高度1万5000を目指して上昇しながら目的地に接近していく。

 「こちらベクター1-1、全機の1万5000に到達を確認、全機水平に戻せ、引き続き目標への接近する」

「ベイラー1-1からベクター1-1、俺達はベクター隊の後を付いていく。先導を頼む」

「ベクター1-1、了解した」




 攻撃隊の全機発艦が確認されると、作戦開始の号令が出される。

 高度1万5000の夜の世界は雲が地を作り所々は割れ、黒い大海が月の光を反射させていた。空は幾つもの星が輝き、そして月が存在感を強く放つ。その絶景に見とれたアスワドは今から戦場に向かうことを忘れコックピットからその美しさに見とれていた。




 出撃してから、2時間が経ちとうとう目標の島を30キロ圏内に捉える。

「こちらベクター1-1、司令部へ現在攻撃機は高度を保ちつつ目標の30キロ圏内まで来た。このまま侵入し攻撃を開始する」

「こちら司令部、了解我々は攻撃隊の直接的支援を行えない、十分と周囲を警戒せよ」




 攻撃隊は警戒をしながら着実に目標との距離を詰めていった。すると、第3部隊の隊員から急報が入る。

「ベクター3-2から全機へ、雲の下に未確認のFCLを島の上空付近で発見。敵機と思われる」

「こちらベクター1-1、FCLの数は?」

「分かりません。ただ10機以上はいたと思われます、東方、味方艦隊方面に向かっていた様に見えました」




「艦戦隊の攻撃はまだないはずのに、先を読まれていたのか。全機へ通達、敵の奇襲を受ける可能性がある警戒しろ。また、念のため雲の中に入る。ある程度は編隊を解いても良い、雲から出ないように注意しろ」




 アスワドは高度を少し下げ雲の中に入る。雲の中は見渡す限り真っ白で、前にいたはずのメイキット機が見えなくなる。よってレーダーのみしか頼れるものがなくなるが、雲の中なら敵に見つかる事はなく安心であった。ただ、敵の動きは十分注意するものであった。




 FCLの計器が島まで5キロメートルを示した頃、攻撃隊は望ましくないことに奇襲を受けた。下方から銃弾が襲ってくる。

「こちらベクター1-1! バレット隊、敵の奇襲を受けた。救助頼めるか!」

「こちらバレット1-1、無理だ。現在、敵艦隊攻撃を仕掛けたところだが思いの外苦戦している! おい! クラスチャー! くそっ、聞いての通り増援を送ることはできない!」




「ちっ、ベクター1-1から全機へ! 各自回避行動をとって降下地点に急げ! 着いた者から垂直降下、攻撃を開始しろ!」

 雲の中は弾丸の嵐であった。しかし、敵は雲の中にいる攻撃隊の詳しい居場所を知らないので乱射をするしかなく、攻撃隊は運が尽きなければ当たる事はなかった。




「ベクター1! 降下地点につきしだいオーバーストをやる。各員準備しろ!」

「ベクター1-2了解!」

「ベクター1-3了解!」

 メイキットからの指示でアスワドはオーバーストのスイッチを入れ充填を開始する。




「にしてもベクター1-1、まさか降下時にオーバーストを使用するつもりですか?」

「ああ、そのまさかだよ。下手すれば地面にぺっちゃんこだけど、そうでもしないと敵の防空網のいい的だからね。頑張ってもらわないと、火だるまになるよ」




「それならやってやりましょう!」

 アスワドはその言葉に従い降下地点向かう。

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