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オピオンの卵    作者: 猿くん
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オピオンの卵 その1

 2060年5月24日

 ファジー島沖

 ベクター隊第1部隊アスラー・アスワド軍曹

 「ふー、はー、ふー、・・・・落ち着け、アスワド。散々シュミレーションやって来ただろ、高得点取ってきただろ。今回が初の出撃なだけで何も緊張する事はない。ただシュミレーションと同じ様にすれば良いだろ。だから落ち着け、俺」

 


 最低限の照明しかない甲板エレベーターの中で艦載機、FCLのコックピットで俺は一人、パニックに陥っていた。



 甲板エレベーターが昇り切ったことを知らせる衝撃と同時に日光が上から射し込んで来る。目の前には飛行甲板が真っ直ぐ伸びて、その先は地平線まで続く大海と大空が広がっていた。



右側には、俺と同じ艦上攻撃仕様のFCLが甲板一杯に2機並んでいた。落ち着きかけていた鼓動が再び騒ぎ始める。息が段々と浅くなっていくき、心臓が口から出そうになる。



 おい、ルーキー!

 これじゃあ、駄目だ。飛んでも全然動ける気がしない。どうにかして落ち着かなければ。

 おい! ルーキー!



 え、えーと。どうやって落ち着くんだっけ。

 わ、わあーー、手足が震えてきちゃった。

 と、とりあえず、し、深呼吸をし、しなければ。

 くそ、どうしたんだ俺! いつものクールな男はどこにいったんだ! 



「おい! 聞いてんのか! ルーキー!」

「はっ、はいい!」

 突然、ヘルメットのスピーカーから上官のドグレスの野太い怒鳴り声が飛んでくる。

「おめえ、さっきから、はーはー、うるせんだよ! マイク切ってから興奮してろ!」

「す、す、すみません!」



 アスワドは、コックピットのサイドモニターに映るヘルメット越しのドグレスに勢い良く頭を下げる。その拍子でどこかで派手に頭をぶつける。

 ドグレスはアスワドの緊張ぶりに吹き出してから、低い声で喋りはじめる。



「ルーキー、おめえFCL搭乗員育成所ではトップ層だったんだろ? それなのに、こんなんで息上がってんのか」

「いや、いくら上位組にいても初出撃ですし、なんか実戦の空気って感じで、やっぱりシュミレーションとは全然違いますよ」



「はっはっはー、状況の解析だけは優秀だな。と言っても、緊張すんのも最初だけさ、初めて出撃し、初めて敵艦に接近してミサイルを打ち、初めて人を殺して帰って来たら後は、もう何てこたあねーよ、1年経ったら今日の事なんて笑い話で酒の肴になってるよ。なー、メイキット」



 ドグレスは笑いながら言い放つ。彼は大男で厳つい黒人だが、それが作る笑顔は人を和ませる力を持っており、明るく頼りになるFCL機パイロットのエースだ。



「ドグレス、ルーキーを落ち着かせるのは良いんだが、あんまり長話してると後ろがつっかえてターニャが怒るよ」



 俺達艦上攻撃隊1番隊の最後の一人、隊長のメイキットの静かな声がドグレスに応える。彼は短く切り揃えた金髪と白い肌を持っていてドグレスとは、育成所以来の古い友で、彼ら二人はこの母艦の中でも古株で、多くの軍艦を沈めてきた。



 そして、彼の口から出てきたターニャさんというのは、この艦の数少ない女性で、メイキット達と同期である。彼女もこの艦の古株で、多くの飛行機乗りをてきぱきとした綺麗な声で送り出してきた。彼女のファンも多いと言われているが、彼女からはその辺の噂を聞いた者はいなかった。



「そーよドグ、キットの言うとおり甲板は一つしかないの。だからさっさと飛びなさい! それとルーキー! あんた学校の成績だけだったらそこの二人より優秀なんだから、しゃっきっとしなさい! 分かった?」

「は、はいい!!」



 またもや裏声で反射的に返事をする。だが、不思議と震えは止まっていて鼓動も落ち着いていた。



「それとあんた、自分のコールサイン覚えてるでしょうね? 出撃したら、普通は名前じゃなくコールサインで呼び合うものよ」

「はい! もちろん覚えてますよ! 自分がベクター1-3で、メイキット隊長がベクター1-1、ドグレス副隊長がベクター1-2です」



「ええ、まあこんなこと覚えていて当然だから、そんな自慢がらなくていいんだけど・・・」

「おーい、ターニャ。そろそろ出ていいかな?」

「ああ、ええもちろんよ。ベクター1-1から発艦して下さい」

「ベクター1-1。発艦する!」



 すると、発艦装置が火花を吹きながら、メイキットの機体を一気に離陸可能の速度域までもっていく。

 アスワドは目を閉じて操縦レバーを握る両手に力を入れる。



「ベクター1-2。出撃する!」

 自然と気分が高揚し、気持ち良く鼓動が高まっていく。

「続いてルーキー、行きなさい」

 ターニャさんの声が頭の中に浸透する。

「了解」



 FCLのエンジン出力を上げる。

 エンジン音が高くなる。

「ベクター1-3。出る!」

 その瞬間、体にGがかかる。

 一気にFCLは速度を上げる。そして、飛び立つ。



 飛び立った後は、敵艦隊に向けて飛びながらメイキット隊長を先頭に三角形を作るように編隊を組む。更に続いて2番隊、3番隊が後に続き3つの隊で三角形を作る。



一つの隊は3機編成なので今、9機の艦上攻撃機のFCL22式が飛行している。そして、もう1隻の空母から発艦した艦上攻撃隊が隣に同じ大きさの三角形を作る。



「ベクター1-1から各隊員へ、今艦戦隊共が先行して、敵の艦戦と戦っている。今のうちに敵艦隊に突っ込むぞ。偵察の情報だと、向こうは正規空母が2、重巡が1、駆逐が3らしい。増援はないそうだ。俺達、ベクター隊は空母をやる、残りは隣のベイラー隊の担当だ」



「ベクター2、了解」

「ベクター3、了解!」

 各隊の返事を聞くとアスワドを含んだベクター隊ともう1隻のベイラー隊の攻撃隊は最大速度で戦場となる場所に飛んだ。



 十分に体の緊張が解けたとき、アスワド達は最初の戦場に遭遇する。

そこには味方の青と白がペイントされたFCLと、敵の赤と緑がペイントされたFCLが空一面に広がって制空権をとるため闘っていた。



 FCL、それは50年以上前に活躍していた戦闘機に、とって変わった主力モデルの艦載機として40年前から開発された。一昔前の物と大きく違うのはFCLの大きな売りの1つ、戦闘形態であろう。戦闘時に人型になることで精密な動きが可能になり瞬く間に戦争を激化させる兵器であった。



また戦闘形態は陸上への作戦行動にも参加出来て、戦闘機としての性能もそのまま受け継いでいて兵器の中でも1番の汎用性を手にするはずだった。



 だが、戦闘機形態から人型への変形の複雑さや、動力の確保が難しい為に一時期は開発の凍結がされていた。しかし、それから30年たち、今から10年前、『願い星』をFCLの動力原にすることが成功した。そこからの伸びは著しく、そこからFCLの時代が幕を明けた。

 ※(『FCLの歴史』より抜粋)



「こちらベクター1-1から司令部へ、戦闘隊の戦場に遭遇、回避行動を取りつつ、引き続き敵艦隊を目指す」

「こちら司令部、了解した。引き続き、敵艦隊への接近を図りなさい」

「ベクター1-1から各隊員へ、空戦区域に突入する。一時編隊を解き敵艦隊目前で再集合だ。散開!」



 アスワドは合図と同時に機首を右に向かせ他の機体との距離をとり、狙い撃ちされる危険性を下げる。だからと言って撃たれない訳ではなく、最低限の燃料しか積まれず、加えてたいした戦闘力もないアスワド達艦攻隊は艦戦の格好の餌食になる。そんなことから艦攻の世界では20%という数字があり、これは帰艦率を示している。



 アスワドの機体に突如、警告アラームが鳴り響く。右方面を見ると、小銃を向けてくるFCLが確認できる。

「・・・ちっ、艦戦は何してんだよ」



 と、小さく舌打ちをして艦戦隊への不満を呟きながらエンジンの出力を上げ、高度をⅠ万から5千までに一気に下げる。連射された閃光が空虚を撃ち抜く。機首の頭を上げて高度を安定させる。警告アラームが更に大きな音で鳴り響く。



「くっそ、しつけーな、数増えてんじゃねーか。艦戦どこ行ったんだよ」

 と、艦戦隊への不満を漏らしながら、後ろをモニターする画面を見ると、2機のFCLが小銃を構えながら追ってきていた。緩やかなジグザグ飛行を続けながら迫る弾丸を避ける。



 だが、アスワドの不運は続き、今度は目の前に敵FCLが舞い降りてくる。

「こんの、艦戦どもぉ! 仕事しろやあああ!」



 と、艦戦への不満を爆発させる。この時、艦戦隊が艦攻隊を効率良く守れるよう、自動で艦攻と艦戦の通信チャンネルが開かれているとは知らなかったアスワドは帰艦後、しばらく艦戦隊員に睨まれる事を知るはずもなく、不運な彼は今後の自分の居場所より今は絶対絶命の状況の打破に頭を回していた。そして、1つの打開策が浮かびその無謀さに苦笑いする。

「成績優秀の卒業生なめんなぁぁ!」



 アスワドは自分を鼓舞すると、機体を少し高度を上げると同時に急減速し、人型の戦闘形態に変形させる。このアスワドの動きに対応しきれなかった後ろの敵機はアスワドを追い抜いてしまう。この機を逃がさなかったアスワドは2機のうち1機に目をつけ相手背後まで飛んで行き、首を抱くようにして捕まえる。



 アスワドの乗るアメリア連合FCLはユーリシター連合製のFCLより速い動きが可能なので追い付くのは簡単であった。

 左腕で、敵機を抑えながら右手に艦攻機仕様の唯一の武器であるナイフ型の近接武器を装備する。そして、背中のコックピットがあると思われる部分に向けて突き刺す。


 だが、予想以上に刺さらず敵の動きはおとなしくならない。また、右腕を引き、突き刺す。刺さらない。右腕を引く。突き刺す。刺さらない。引く。突き刺す。引く。突き刺す。



 さっきまでとは違う感覚が感じられた。案の定、敵機はこちらに銃口を向けたまま固まりそのまま自然の法則にしたがって海に落ちていった。それと同時にあることに気づく。


 そう、勇猛な動きで返り討ちにしたのはたった1機だけであって、俺を追っていた残りの2機の数は減るわけでもなく。今の状況のように挟まれるのは素人でも予想できることであった事に。

「どうしよ。なにも考えてなかった・・・・・・どうしよ」



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