オピオンの卵 その12
2060年5月29日
ファジー島
ブレーズ隊第3部隊アスラー・アスワド先任軍曹
うとうとしていたアスワドは突然、出撃命令の警報が鳴ると、小さく飛び上がり一気に目を覚ます。
「やっとか!?」
「あんた寝てたでしょ」
「は、はあ!? 寝てねえし、全然寝てなかったし!」
勘の良いジゼルにアスワドはむなしい反論をする。急に動いたので、動悸が一気に激しくなる。体を落ち着かせるため水を飲む。体の熱を冷ましていると、作戦説明を受けてきたフライアーが通信を開く。
「よーし、お前ら、作戦言うぞ、敵の迎撃、以上」
「え、ちょ、嘘でしょ? まさかの4文字?」
必要以上に要約された作戦内容にアスワドは驚きの声を上げる。
「別にそんな驚くこともないわよ。私達がやることなんそれぐらいしかないじゃない」
アスワドは「言われてみればそうだ」と納得しながらも、一つ愚痴をこぼす。
「にしても、出撃多くないっすか? 何回も何回も戦闘して、上は戦わずして勝つって言う言葉知らないのか」
「別に好きで戦いまくってはないと思うよ、それに俺達なんか戦闘って時にでしか存在感だせないし、ずーっと出撃出来なかったら俺達の肩身が狭いし、これぐらいが実際よかったりするんじゃない?」
「でも、被害出まくりじゃないすか?」
「・・・それもそうだねー」
3人はそんな事を話していると、周囲が騒がしくなる。後ろの方ではFCLが甲板に上がっているのが見える。
「さーて、そろそろだ。2人とも期待してるぜ」
「いや、隊長もやってくださいよ」
アスワドは2人には緊張はないのかと思いながらも、自分も初陣よりはだいぶ落ち着いているなと気づき、少なからず成長してるんじゃないかと思う。
アスワド達は出撃すると、空中で他のブレーズ隊と合流し、ファジー島との距離を詰めている艦隊の上空に展開し、戦闘形態で待機する。そして彼らはファジー島の大自然に驚く。
アスワドがこの前来たときは夜で、自身も景色を見る余裕もなかった。ファジー島は樹海で生い茂っていて、熱帯の水色の海と深い緑、と白い砂浜が南の島であることを主張する。
そして、緑の海から雄大に君臨する岩山がひときわ存在感を放っていた。
「はー、ザ南の島だな」
フライアー隊長の言葉にアスワドは頷きながら、同意する。
「こんな場合じゃなかったら、バカンス気分で過ごしたいものね」
「「・・・」」
ジゼルの突拍子な言葉に男性2人は黙ってしまう。
「何で黙ってんのよ!」
「いや、お前はそういうキャラじゃないだろ」
「うん、そうだね」
アスワドの言葉に瞬間でフライアー隊長も同意する。だが、ジゼルは二人の反応が気に入らなったようで、口調を荒める。
「何よ! 私がそんなことしちゃいけないの!?」
「そんなことより、敵をぶっ飛ばして高笑いしてる感じ?」
「どんな戦闘狂よ!」
「まー、分らんではないな、完全に戦闘しか興味ないって感じだからな」
「やっぱそんな感じですよね、隊長」
「・・・2人とも敵より先に落ちたいようね」
「しょうがない、アスワド1人で勘弁してくれ」
「なんすかその手のひら返し!?」
3人の雰囲気ははっきり言って戦闘前のそれとは明らかに違っていた。だが、スクアラ部隊長の「さっき、敵の数は戦闘機150、FCL70機、だそうだ」という一報で一気に緊張が走る。
まだ敵の姿はないにしろ迎撃部隊は緊張に包まれる。こちらの迎撃部隊の数は全部で37機というのに対空砲撃の支援があるといえども、艦隊を守り切るというのは無理な話であった。
そして、ファジー島攻略戦はミニッツ3世による砲撃で始まった。迎撃部隊は初め艦隊前方の低空に広がり、島から飛んでくる対艦ミサイルをひたすら撃ち落とすことに従事した。
上空は多くのミサイルと銃弾そして爆炎の嵐であった。そこにFCLの攻撃機が島への直接攻撃を開始する。そこから数分経つと敵の航空機は姿を見せた。
アスワドは約20分前まで馬鹿みたいにはしゃいでいたことを今になって馬鹿らしく思う。さっき、スクアラ部隊長の指揮で迎撃部隊はミサイルの打ち落としをやめ、再び艦隊の上空で展開した。
「ブレーズ1-1から、全機へ無闇に突っ込むなよ。作戦としては艦隊の対空砲で打ち漏らしたのを俺達で狩るといった感じにする。以上」
アスワドはスクアラ部隊長に前とは違う印象を受けた。「そりゃあ、こんな切羽詰まった状況じゃ、人も変わるか」と苦笑いをしながら、目の前の敵を見据える。
敵は何個の分隊に分けているのか、小さいまとまりが統率のある編隊を組んで飛んでくる。彼はそれだけで相当の実力者達であるのがわかってしまった。そして、上空でも戦闘は開始された。
敵はFCLを後方で待機させ、戦闘機が艦隊に攻撃を開始した。はじめ、スクアラ部隊長の指揮により迎撃部隊は艦隊を狙う攻撃を何とか凌いでいたが、敵は目標を迎撃部隊へと変えたのであった。
「くそ、こいつら俺達を狙い始めた!」
「やることは変わらん、落ち着け」
「3-3、了解!」
アスワドは3機の戦闘機がこちらに向かっているのを確認する。「早速かよ」と独り言を言いながらも先頭を飛んでいる戦闘機に狙いを定め、小銃を放つ。
迫り切る機関砲を横移動で回避しながら、1機目を落とす。続いて2機目に狙いをつけたところで突然、「避けろ!」とジゼルの声がする。
とっさに後ろに思いっきり回避すると、直後元居た場所の直上から、戦闘機が機関砲を放ちながら急降下していた。打ち漏らした2機は横にいたジゼルとフライアー隊長によって始末された。
「今度からは、方向も言うように」
「・・・思ったけど、ありがとうも言えないわけ?」
「へへ、そんなことよりこれ、やばくないか?」
アスワドの言いたい事をフライアー隊長は意を察し答える。
「確かに、今は押し返せてるけど、ちょっとずつだが、こっちもやられている。こいつは、ジリ貧だね」
「ジリ貧は嫌いよ」
いきなり、ジゼルが言い出したかと思うと、続けて言う。
「3-1、私やってみたいことが」
「3-3、何か妙案は?」
そう言ってフライアー隊長は先に実績を上げていたアスワドに聞くが、言われる前でも考えていたのだが、何も浮かばなかった。
「3-1、ありません。ですけど!」
「いや、この状況を打破できるのならば、3-2にやってもらおうじゃないか」
「3-2、了解。何別に簡単の事よ。攻めていると思っている奴らに逆に突撃していくのよ」
アスワドは予想通りの無謀な作戦に頼ざるをえなかった自分の無力さに歯を食いしばった。フライアー隊長も驚きの声を上げていた。
「こいつはー、ぶっ飛んでんな」
「相手の虚を突くにはこれぐらいじゃないと」
アスワドは「多分、味方の方が驚く」と思いながらも、口にはしなかった。フライアー隊長はスクアラ部隊長を説得すると、やっとのことで許可が下りる。
第3部隊の持ち場を変わってくれた新たな部隊の隊長にフライアー隊長はお礼を言うと、早速実行に取り掛かった。
「3-1、3-3へ先行は私がやるわ、できるだけ離れないようについてきてちょうだい」
「3-1、了解」
「3-3、了解」
第3部隊はジゼルを先頭に三角形を作るように並び、艦隊の対空砲が効果を出せる防衛圏を出る。辺りは固まって動いている戦闘機がいくつもあって、さながら熱帯の海の魚のようであった。
初めはジゼルの予想通り、奇襲は成功したが10個分隊を壊滅させたころ、敵は3人の攻撃に対応していった。
四方八方から飛んでくるミサイルや、戦闘機に第3部隊は苦戦せざるをえなかった。「各機散開! 何とか機敏に動きながら、潰していって! 一度防衛圏に戻る!」
というジゼルの指示もあったが、敵は戻させまいと、防衛圏方面からの攻撃を集中的に行いどんどん3人を遠くのほうへ追いやる。味方も援護に向かおうとするのだが、敵のFCLが動き味方の動きを防ぐ。
「3-2、戻るのは無理だ! こうなったら思いっきり離れるしかないぞ!」
アスワドがそう提案すると、ジゼルは少し考える時間を置いて、2人に「ついてこい!」と言い、ファジー島の方へ向かう。
戦闘機が迫りくるのを避けながら進むのはアジの大軍の中を逆向きに行こうとするそれであった。3人は何とかすべて避けきると、最後に待ち構えていたのはFCLの隊列であった。
「だが、これさえ避ければ」と、アスワドがそう思った時、目の前のFCLは見慣れぬ物を構えた。あまりはっきりと見ることは出来ないが、それは細長い筒をした銃の様に見えた。
アスワド達がその武器がどんな物か分からない内に、敵はそれを発射した。筒から出てきたものは、短い槍みたいなものであった。
何十本も飛んでくる槍にアスワドとジゼルは運よく当たらずに済んだが、フライアー隊長は背部の主エンジンに槍が刺さる。新武器は連射できないらしく、それ以上打ってはこなかった。
2人はFCLの隊列を横切ると、黒煙を噴き地面に落ちるフライアー隊長の元へ向かおうとする。
「2人とも、これからもがん」
フライアー隊長が言い切る前に隊長機は爆破した。
3日前のおにぎり食べたら、見事当たりました。当分、おかかは嫌いですね