オピオンの卵 その10
2060年5月29日
ファジー島沖上空
ブレーズ隊第3部隊アスラー・アスワド上級軍曹
第3部隊のアスワド達は敵本隊を壊滅状態にし撤退したのを確認すると、副部隊長のスクアラと合流する。安心したことに、スクアラ達はすぐにアスワド達を敵と見間違わなくて、誤射せずに済んだ。
「あんた、、もう一度、あんなことさせてみなさい、、そん時は殺すからな」
「さすがに、、、今回ばかりはジゼルに賛同するな、、、3回ほど死んだかと、、、思った」
第3部隊の絶妙なフォローにスクアラ達は感嘆していたが、同じ隊の仲間からは大バッシングであった。
「いや、何言ってるんすか、、、俺も結構しんどかったすよ。結果的には壊滅にまで追い込んだんだから、良いでしょう?」
アスワドは同意を求めるも、返ってくるのは2人の荒くなった息遣いだけであった。
「第3部隊、よくやった。これは大きな戦果になるだろう。敵部隊も撤退、俺たちも帰艦しようじゃないか」
スクアラの言葉は、疲弊していたブレーズ隊員の顔を輝かせた。だが、空気を読まずにアスワドが穏やかな雰囲気に水を差す。
「待ってください、副部隊長!」
「・・・お前は?」
「失礼しました、第3部隊のアスワドです。現在フライアー隊長の回線を通して話しているところです」
スクアラは編入してきたばかりのド新人の名前に反応する。今思うと、彼が編入する前の第3部隊はさっきのように戦略を使うというより、力で物を言わすような部隊であった。それが今回一変したという事にスクアラはアスワドの能力を察する。
「・・・で何の用だ」
「はい、今回ここでの戦果は大きいものでしょう。ですが、この戦果をもっと大きなものにしませんか?」
どうやら、彼の頭の中にはすでにこれより先の戦略があるようにスクアラは思えた。「本来ならば、帰って休息を取らせるべきだが、若い芽を育ててみるか」彼はそう決心するとアスワドに何をするのか聞いた。
「それより前に、司令部に連絡して攻撃隊に伝えたいことが・・・」
メイキットが率いるベクター攻撃隊は戦闘隊の働きにより1人の脱落者を出すことなく、敵艦隊にたどり着く。「全機、オーバースト用意」メイキットは敵の直衛隊と護衛艦を確認すると全機にいつもの指示を出す。
「それにしても、本当にやってくんのかあいつらは?」
ドグレスがついさっき聞かされた戦闘隊からの通達についての事を言う。
「さあ、何せ今までやったこと無いことだし、どうにも言えないけど、アスワドの提案らしいし、なんとかなるんじゃい?」
「お前、そういえば結構アスワドの事推してるよな」
「うん、あいつは中々光るものがあると思うよ」
そう言って、メイキットはアスワドが就任してきた当時の頃の彼の表情を思い出す。彼の目はメイキットの元隊長に似ていて、アスワドも彼みたいに出世するのではないのかと思うのであった。
メイキットらは敵の直衛機との距離が狭まっていくのにオーバーストを使おうとはしなかった。というより使う必要がなかったのだ。
直衛隊は無抵抗に近づいてくるメイキット達を容赦なく撃ち落とそうとする。だが、はるか上空の数十機のFCLが直衛隊に向かって急降下する。かなり上の方を飛んでいるのか、敵は誰も気づかない。
1番初めに気付いたのは敵のレーダーであった。しかし、気づいたころには急降下をしていたFCL隊は攻撃を開始していた。敵はブレーズ隊の奇襲に無抵抗にやられていく。
ブレーズ隊は第3部隊だけ直営隊の中に残すと、それ以外の部隊は走り抜ける。第3部隊はジゼルを中心に奇襲では仕留め切れなかった残党を掃討していた。
偶然にもすでに隊長機を殺していたのか、それとも無能だったのか、ジゼル達の仕事はスムーズに終わった。
「見事作戦完了ってことかしら?」
「そうだな、攻撃隊の被害はなしだし、思った通りにいったか、アスワド?」
「そうですね、思った通りに行きました」
先の雲の中での奇襲と比べると今回はかなり容易かったのかジゼルとフライアー隊長は余裕そうに思い思いに感想を言う。
「それにしても、直衛隊をも潰しに行くなんて、攻撃隊に身を置いていたから出てくる発想か?」
「実際、戦闘隊どうしの戦場を抜けるよりも、直衛隊を抜けるほうが難しいっすから」
戦闘隊は基本、敵の戦闘隊を倒すだけで早く戦いが終わったとしても直衛隊と戦いに行くことはしない。だから、それは今回の奇襲が成功した要因の一つでもある。
結果的にメイキット隊は1機の犠牲を出すことなく敵艦隊にたどり着いたのである。これは今までの戦いの中でも希な事であった。
アスワドはメイキット達が通りすぎようとするのに気付くと、FCL式の敬礼をする。
メイキットとドグレスはそれに気付くと翼を左右に振り応える。つい昨日までは彼らの背中を追いかけていたのに今では援護を行っている。そう考えると、アスワドはベクター隊と言っていた時がとても懐かしく感じられた。
「何してんのよ! さっさと帰るわよ。壊滅に追いやった戦闘部隊の奴らがどこにいんのか分かんないのに長居は危険よ。玉砕覚悟で突っ込まれたらたまったもんじゃないわ」
ジゼルの言葉はごもっともなのでアスワドはメイキットとドグレスの姿を見届けると、アスワドは帰艦するため飛行形態になり部隊で編成を組んで敵艦隊を去っていく。
アスワド達は味方艦隊の姿を確認すると、駆逐艦や重巡洋艦から煙が出ているが、大きな破損は見られなかったので今後の作戦行動に支障はないと思えた。という事は敵FCLからの空爆を防ぎ切ったという事だった。
着艦し格納庫に入ったアスワド達を迎えたのは、整備士やブレーズ隊員からの歓声であった。FCLを収容、修理するためにエレベータから動かされるが、その両脇を人が埋めるのでまるで凱旋をしている気分であった。
「はは、こいつは見事な歓迎っぷりだね。まるで作戦終了で帰港したみたいじゃないか」
フライアー隊長の言葉通りで、格納庫内は多くの仲間を殺した敵の戦闘隊を壊滅状態にした第3部隊を称えた声に溢れる。
「ま、今回はアスワドの手柄だな、戦闘隊として上々すぎるスタートなんじゃないのか?」
「いや違うでしょ、あいつの作戦のほとんどが私がいるのを前提にしたものばっかじゃない。今回も私の手柄よ」
「ざっけんな、俺の指揮あってこその働きだったろうが」
ジゼルの身勝手な主張にアスワドはすかさず待ったをかけた。それでも主張を曲げないジゼルと言い合っていると、フライアー隊長から攻撃隊からの戦果報告を聞かされる。
「さっき入ってきた情報だけど、空母1、駆逐が3、重巡が1、そして戦艦1っていう編成だったらしいけど、空母を轟沈、駆逐2轟沈、らしい。今、帰艦しているところらしい」
アスワドは自分達の支援で大きな戦果ができたと思うと誇らしくてたまらなった。だが、そんな感情に長くは浸って入れず、副部隊長が来たのでFCLを整備士に任せ、FCLから飛び降りる。
「フライアーから聞いたが、今回の戦闘は全部お前が指揮していたようだな」
「はい、いきなり閃いてしまったものでどうしてもやってみたくなったのです」
アスワドは副部隊長の顔から察するに怒ってはないようだと感じ取ったが、今まで副部隊長の顔をそんなに見たことがなかったことに気付く。
「聞いた話だと主席クラスで養成所を卒業したらしいじゃないか」
「まあ、はい」
「お前の戦術眼がそこで磨かれたとしたのなら、英才教育様様だな」
「上手く、養成所の存在意義を示せてほっとしています」
アスワドの聞いた話によると、現在部隊長や、副部隊長等を務めている人達また、彼らと同じくらいのパイロットは養成所に在籍せずに軍人になったような人がほとんどなので経験を重要視する人が多い。だから、卒業と同時にパイロットになれる養成所の存在をあまり快く思ってないのだ。
「まあ、何はともあれごくろうであったな」
「はい! ありがとうございます!」
副部隊長がジゼルではなくアスワドをほめたことを、後で彼女に言いどっちのお手柄かはっきりさせに行こうと思ったアスワドであった。
格納庫のお祝いムードに比べ艦長室は剣幕のムードであった。その訳としてはアスワド達が格納庫に戻るつい数分前の司令官からの通信であった。
「こちら司令部、悪い知らせだが支援に向かっていた第10、第11艦隊が撤退した。原因は詳しく聞かされてないが、提督は作戦を続行しろとのことだ。これからの詳しい行動は折り入って伝える。以上」
第9艦隊の首脳達は焦り始める。すぐ後ろに大規模な基地が君臨しているのに対するのは1個艦隊でしかも、第9艦隊の中から少数に選りすぐった小規模の艦隊と陸軍だけである。彼らは無事にすむ訳がないと思っていたから
だ。
先週分落としてすいませんでした。今後はないように気を付けていくと思うので、期待しないで待っていてください