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イケメン狩人

作者: ミナクオ

オレは雰囲気イケメンで、

言うなれば、仮性イケメン。

真性イケメンではない。


偽物は本物に憧れる。


憧れるあまり、

イケメン狩人ハンター

になってしまった。

(自称だけど)


狩人ハンターと言っても、

実際にイケメンを狩るわけではない。

ただ、ひっそりと

イケメンを見ているだけだ。


ハンティングりという響きが

なんかいいので、

そう表現することにしている。




*****



イケメンがいるとの情報を

聞きつければ、狩りに出かける。



「なんだよ、仮性かよお!」


「チッッ!!偽物がっ!」



狩り場(物陰ともいう)で、

思わず心情を漏らすと、

同調する声が聞こえた。


見れば、

違う学科の鳥場とばだった。


過去に狩った覚えがある。

こいつは、イケメンというには可愛らしすぎた。

(仮性イケメン判定にしておいた。)




「鳥場もイケメン狩人ハンターなん?」


「ハンター??ん?まぁ、そうなのかな?」


「本物に憧れるってやつだろ?

 オレも鳥場も偽物だしな。

あ、気悪くすんなよ?」


「大丈夫、自覚してるから。

 そう!本物って中々いないんだよ。」


「真性は、希少だよなあ。」


「今回こそは、と思って見に来たのにっ!」


「盛大に舌打ちしてたな。」


「聞こえてた?

ここのところ、噂に振り回されてて。」




イケメン情報に踊らされているのは、

オレも同じだ。

だから、

真性イケメンを欲する気持ちもよくわかる。


連絡先を交換し、

イケメンを狩る前後には、

報告し合うことにした。




*****



「お、鳥場とばからだ。 本物発見!だと!?」




画面に釘づけになっていたせいで、

前から歩いて来た人に気がつかず、

体当たりをしてしまった。


けっこうな衝撃に、

その人がかけていたらしい眼鏡が、

尻もちをついたオレの傍まで飛んで来た。




「すみません!!

ああ!?眼鏡は無事か??

 パッと見は平気そうですが、

歪んだり傷ついたりしてたら、 弁償します!」


「いや、

俺もボーッとしてたし、眼鏡は安物なので。

 それより、怪我しませんでした?」




眼鏡を手渡そうとすると、

手首ごと掴まれて引っ張り上げられる。


少し尻が痛いが、

立っても何ともないし、すぐに治るだろう。




「はい、大丈夫です。

あ、眼鏡を……。」


「よかった。ありがとうございます。

…えっと、あの、何か?」




眼鏡をかける前の、

その人の素顔をガン見してしまった。


なんと!

真性イケメンだ!!


返事もせず、ぽやぽやしている間に、

その人は首をかしげながら

眼鏡をかけ直して、去ってしまった。




「はっ!鳥場に報告しないと!」




仮性イケメンに惑わされることが多くて、

隠れ真性イケメンを狩りそびれていた。


鳥場も、同じ罠にはまっていないだろうか。

報告するついでに、飯に誘うことにした。




*****



近所のThe 飯屋(めしや)という店に、

鳥場とばと入る。




「ええ!?

イケメン狩人ハンターを卒業する?

どうして?」


「ライフワークにしてきたけど、

決心がついたんだ。」


「それって、この前の報告と関係ある?

本物発見!って。」


「鋭いな。

今まで、遠くの偽物ばかり

追いかけてたことに気づいたんだ。

 すぐ近くに本物がいたというのにっ!」




そこそこ仲良くしていた友人が、

実は本物で、灯台下暗し的発見だったと。


その友人は、

冴えないファッションセンスと、

鬱陶しいヘアスタイルで、

狩り圏外だったみたいだ。


隠れ真性イケメンを狩れたのなら、

鳥場に忠告することは何もない。




「本物は本物でも、

俺のBestイケメンだったんだよ!

 これはもう、

Myイケメンにするしかないだろっ?」


「あー、うん。わかる気がする。」


「本物が、しかも一級品が近くにいるのに、

 偽物かもしれない噂で、

右往左往するのは時間の無駄だと思って。」


「あー、うん。

それもなんとなくわかる。」


「これからは、

Myイケメンに視線を集中させることにした。」




せっかくできた狩人仲間かりとも

失うのはつらいが、

仲間とばの晴れの門出だ。

笑顔で送り出そう。




「鳥場、

イケメン狩人ハンター、卒業おめでとう!

幸せになれよ。」


「なんか照れるけど、ありがとう!

あいつがいれば、俺は幸せだよ。

 鹿住(かすみ)も、

Bestイケメンを発見できるといいな。」


「それなんだけど、

この前、やや狩りしたんだ。」


「えっ?Myイケメンになりそうか?」


「あー、予期しない狩りでさ、

個人をまだ特定できてないんだ。

 校内だったから、うちの学生だと思うんだけど。」


「特徴は?イケメンって以外で。」




オレより背が高くて、

眼鏡をかけていて、

隠れ真性イケメンだったとしか、

特徴をあげられなかった。




「はあ。もう一度狩るのは難しいか。」


「気を落とすのはまだ早いよ。

服装や髪型は?」


「普通すぎてあんまり記憶にないんだけど、

 チェックのシャツにチノパンだったと思う。

髪は七三分けっぽかったかな?」


「……もしかすると、俺の知ってるやつかも。

 あいつのまわり、そんな感じのやつが多いんだよ。

本人も含めてさ。」


「まじか!」


「ちょっと待ってて。電話してみる。」




鳥場、おまえって、

思っていたよりずっとずっといいやつだな。


卒業が悔やまれる。




「今どこ?うんうん。いつもの?そっか。

俺?飯屋。ん?来てくれるのか?

 うん。それじゃ、待ってる。

――あいつら、今からここに来るって。」


「え、いいのか?なんか悪いな。」


「ちょうど、飯食おうとしてたみたい。」


「それならよかった。

 そこそこ仲良くしてたって、何つながりなん?」


「バイト先が一緒なんだよ。

 学科は違うけど、

バイト終わりとかに飯食ったりしてて。」


「へえ。じゃあ、

今から来てくれるやつらのつながりは?」


「同じ学科。

さっきまでグループワークしてたんだって。

 あいつと飯食ったりしてたら、

他のやつらとも知り合いになった。」


「なるほどな。」




15分くらいそんな話をしていたら、

鳥場の視線が、オレの後ろの方へと動いた。


オレは出入口を背にして座っていたので、

その様子に、待ち人達が来たのだとわかった。


似たような雰囲気の男3人組が、

隣の席に腰をおろす。




馬泉(まいずみ)、急に電話して悪かったな。」


「いいよ。飯食うとこ決まったし。」


「鳥場ちゃん、よっす!」


「あー、腹減った!鳥場ちゃん、何食ったの?」


「よっす!唐揚げ定食だよ。」




馬泉と呼ばれたやつより、

他の2人の方が話しかけてくる。




「鳥場ちゃんの友達?」


「お初!よっす!」


「そうだよ。最近友達になった鹿住。」


「よっす!よろしく。」




目測だから定かではないが、

馬泉以外はオレより背が低そうだ。


3人ともシャツにチノパンで、うち2人は、

シャツの柄がチェックで、眼鏡をかけている。


髪型も、長短の違いはあるが、

七三分けっぽく見えなくもない。




「どう?

馬泉は眼鏡かけてないから、違うよな?」


「うん。他の2人も違う。」


「違ったか!残念。ちなみに、馬泉は俺の。」


「うん。言われなくても、そうだと思った。」




最後までちゃんと言おうか。

そこで切られると妙な感じになるから。


残念だったが、

この結果は大体予想がついていた。

そんなラッキー、

そうそう転がってはいない。




「あ、虎城(こしろ)が来るって。」


「過去問を取りに?」


「そう。昼間、渡せなかったからな。」


「あの先生は、過去問ないとやばいよ。」


「本当な。あってもギリだったけど!」




3人の後輩でも来るのか、

そんな会話が聞こえてきた。




「虎城は、あいつらと同じ学科の一個下だよ。

俺も何回か会ったことある。」


「へえ。なあ、

馬泉の前髪あげた顔を見てみたい。

隠れてるけど、本物なんだろ?」


「………あいつが飯食い終わったらな。」


「横取りなんてしないから安心しろ。

イケメン狩人(ハンター)としての本能的な欲求だ。」


「…俺のじゃないし。」




数分前にはっきりと、

俺のって言っていたけど。


人から言われると否定したくなるんだな。

あれか、無意識のツンデレか。


鳥場と話をしながら、

3人が食べ終わるのを待つ。




「おー、虎城、よっす!」


「これ、去年までの過去問。

昼間、渡せなくて悪かったな。」


「こんばんは。いえ、どうもすみません。」


「返さなくていいから、

後輩とかに回してやって。」


「ありがとうございます。

まずはうちの代で回します。」


「飯はもう食った?何食ったの?」


「さっき、カップラーメン食いました。」




後輩もチェックのシャツにチノパンだった。


そして、

背が高くて、

眼鏡をかけていて、

七三分けっぽい。


うお!

この前の隠れ真性イケメンだ!!




「こ、虎城だっけ?ここ座る?」


「え…?あ、いいです。もう帰るんで。

あっ、鳥場さん、こんばんは。」


「こんばんは。

せっかくだから座って行きなよ。」


「えっと、じゃあ、失礼します。」




面識のないオレが突然話しかけたから、

若干引かれたけど、このまま逃すのは惜しい。

鳥場に目で訴えると、察してくれた。


恩に着るぜ、狩人仲間よ!

おまえの卒業は、

この狩りを完遂するまで保留にさせてくれ。




「…この前は、体当たりしてごめんな。

 眼鏡、本当に平気だったか?

もう一度よく見せて?」


「この前、体当たり?

眼鏡…あぁ!平気ですよ。

 あれから、尻とか大丈夫でしたか?」


「うん、大丈夫。」



思い出してくれたのがうれしい。

オレが手を差し出すと、

眼鏡を外して乗せてくれた。

眼鏡を確認するふりをして、素顔を盗み見る。


あー!!

まじ、イケメン!!


オレのBestイケメン、間違いなし!


普段の狩りスタイル

(物陰からこっそり)と違うので、

血がたぎりすぎて、

今にも鼻からき出しそうだ。


近距離の真性イケメン、迫力満点!




「虎城の素顔、初めて見た。

雰囲気がだいぶ変わるな。」


「え、そうですか?」




鳥場が、『ほほう、これはこれは』

的な表情をしたので、

『な、本物だろ?すごいだろ?』

の意味をこめて、目配せをした。




馬泉まいずみ

飯食い終わってるなら、俺の横に来て。」


「は?なんで?」


「いいから、こっちおいで。」




オレのその仕草が、

鳥場とばの狩人魂に火をつけたようだ。

(おのれ)の狩った極上の獲物イケメンは、

自慢したくなるよな。


何なんだよと、ぶうたれながらも、

馬泉がこちらの席に移動してくる。




「んじゃ、俺達、先に帰るわ。

 俺とこいつの分担のとこ、もう少し詰めたいし。」


「まだよくね?

追加注文しようと思ってたのに。」


「俺んちでなんか食わせてやるから。」


「早く帰ろうぜ!」




よっす君が、食いしん坊君を連れて帰るようだ。


オレの希望的観測としては、

よっす君がイケメン狩人ハンターで、

食いしん坊君が隠れ真性イケメンだな。


連れ立って店をあとにする2人に、皆で手を振った。




「えっと、眼鏡そろそろいいですか?」


「あ、ごめん。

うん、平気そうだな。ありがとう。」


「いえ、こちらこそ。」


「馬泉、前髪あげるよ。」


「は?なんで?」


「鬱陶しいから。」




虎城こしろに眼鏡を返そうとしたら、

鳥場が獲物イケメン披露じまんしてきた。


鳥場に、

前髪をかきあげられた馬泉は、

文句なしに、正真正銘のイケメンだった。


オレの納得を浮かべた表情に、

鳥場がドヤ顔でうなづく。




「鳥場は、王子様顔がどストライクなんだな。」


「わかる?

鹿住(かすみ)おとこくさいっていうか、 武士顔?」


「そうなんだよ。

はあ、虎城のりりしさに、のぼせそう。」


「えっと、あの、眼鏡…。」


「馬泉はさ、

ここのラインなんかも繊細でうっとりするよ。」


「おい?さっきから何なんだよ…。」




互いのBestイケメンについて、

で合う言葉がとまらない。




「もうさ、

虎城は鹿住のMyイケメンでよくない?」


「そうだな!そうする!」


「それじゃ、

鹿住も卒業だな!おめでとう!」


「ありがとう!

鳥場のナイスアシストのおかげだ!」




こうして、

オレはイケメン狩人ハンターを卒業した。


鳥場とはその場ですぐ、

『Myイケメンを愛でる会』を結成した。

(随時開催)



虎城を捕獲したオレは、毎日がとても幸せだ。



 

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