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エンドレスフロンティア  作者: 紫音
第一章 始まりの街のメロディア
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第6話 工房

書き置きがなくなってしまった。

 あの後(ゲーム内では昨日)、師匠は何かあったら頼って来いとだけ言い残して帰っていった。一人になった私はこの工房の情報を出し所有者と間取りを確認してすぐにログアウト、昼食の準備とついでに夕食の準備をして、叔父さん叔母さんと昼食を摂ってから再度ログインをした。


「さて、工房内を確めなきゃ」


 二階よりも先に奥にある工房へと向かう。

 十二畳程の工房に炉、大きめの金床、大きさや形の違うハシ、小手棒、鏨、鑢、鎚、向こう鎚、湯舟、砥石等の道具類から鉄、鋼、銅のインゴット等の材料まで置いてあった。

 ここまでしてくれた師匠へ感謝の気持ちと、同時にここまでされたら早速使うしかないっと、炉に火を着けようとした矢先に、あのポーンっと言う音が響いた。


 まったく、よくも邪魔をしてくれたなと思いつつ勝手に出てきたウインドウを見る。


───────────────


ブレイブからフレンド通信がきています。通信に出ますか?


yes/no


───────────────


 ブレイブから? 取り敢えず話してみよう。


『おっ、繋がった。メル今平気か?』


 初めてフレンド通信を使ったけど、頭の中に直接声が響く感じでとても不思議な、と言うよりも少し不快な感覚。


「まぁ、平気と言えば平気かな」


 実際は鍛冶をしようとして邪魔された訳だけど、作業中に通信が来ないだけマシだと割りきる事にする。


『そうか、なら今から会えないか?』


「何で?」


『今俺が組んでるパーティーメンバーを紹介したくてさ』


 人の紹介、か。一瞬空いた間で、私の内心を察したのか、ブレイブは付け足す。


『固定パーティーで皆気の良い奴ばっかだから、メルも大丈夫だと思うんだが……それに、メルと遊んだのって、こっちの初日だけだろ? 近況報告もかねて、一緒に狩りでもって思ってるんだが』


 それなら、いいかな。


「……わかった」


『ありがとう。メル今何処に居るんだ?』


「フレンドマーカー出しておく」


『おう。わかった。じゃあ向かうから』


 通信が切れると同時にため息が溢れ出た。


 それから30分後くらいにマップの上ではブレイブ達が工房の前に辿り着いたみたいだが、一向に入ってくる気配がない仕方ないから出迎えるか。


「何時までそこで突っ立っているつもり? さっさと入って」


「お、おう」


 ブレイブの後ろに三人、男一人、女の子が二人いるのを確認してから工房内へと招き入れると、ブレイブ達は物珍しげにキョロキョロと辺りを見回す。

 工房って言っても、お店になる部分(お店なんてやる気無いけど)だから何も無い筈だけど、何か珍しい物でもあったっけ?


「そんな忙しなくキョロキョロしてどうしたのブレイブ?」


「あ、すまん。つうよりも、メルここは何だ?」


 何だって、ブレイブは何を言っているんだろう?


「私の工房だけど?」


「あ~、メル、一応訊きたいんだが、お前この20日間何をしてたんだ?」


 ん? 仲間の紹介からじゃなくて、近況報告からするつもりなのかな? 私はどっちでも構わないけど。

 後ろで待たされてる三人の事もあるし、簡潔にまとめて説明すると、ブレイブを含めた四人が唖然としていた。


「そんな顔をしてどうしたのブレイブ?」


「いや、な。メルが【鍛冶】のスキルを取った事にも驚いたが、まさか住人からクエストを受けてたなんてな」


「それがそんなに珍しいの?」


 私もクエストだなんて思ってなかったんだけどね。


「ああ、メルは掲示板は嫌いだから見てないだろうし、しょうがないが、まず、住人からクエストを受けられたのは、俺が知る限りメルが初めてだろうな」


 そうなんだ。ブレイブの言う通り掲示板サイトとか嫌いな私はまったく見ていない。

 

「おまけに、現時点でマイホームを持ってるのもお前だけだな」


 そう言われても、私は普通に遊んでただけなんだけど……

 そんなやり取りの中、もう一人の男がブレイブの脇を肘で小突いた。


「色々と興味は有りますが、まずは互いに紹介して戴けませんか」


「おっと、わりぃ、ついゲーマーとしての習性がな」


 習性って、高校三年生が胸を張って言う台詞じゃないでしょうが、思わず嘆息すると他の三人も同じ気持ちだったのか、各々呆れた顔をしていた。


「えっと、メル、まずこの眼鏡の奴がクラウド」


「紹介に与ったクラウドです。どうぞよろしく」


「で、次がローブの娘がテッタ」


「テッタです。よろしくお願いします」


「最後にあっちの鎧の娘がリリウム」


「リリウムだよ。よろしくね」


 クラウドは青髪でイケメン眼鏡と呼ばれそうな感じの青年で、テッタは亜麻色の髪で全体的に庇護欲を刺激しそうな感じの美少女、リリウムは深紅の髪で元気っ娘とか言われてそうな可愛らしい娘だった。


「で、こっちが俺のリアル幼馴染のメロディア」


「メロディア、よろしく」


 互いに無難な挨拶を済ませて、次にブレイブ達の近況報告になった。

 まぁ、簡単にまとめると第二の街、王都までは解放したらしいけど、その先から敵が強くなりだして現状攻略が行き詰まっているらしいエリアを避けスキル上げや、生産職がもっと良い装備を作るのを待っているそうだ。


 ………………まぁ、攻略云々は私には関係が無いからどうでもいいや。


「メルは鍛冶屋でもやるんですか?」


「やらないけど?」


「そうなんですか。でしたら何故鍛冶を?」


「面白そうだったから」


 何がイケなかったのかわからないけど、クラウドが絶句してしまった。どうしてかね?

 ブレイブはそれが面白いのかクツクツと笑うと、私に答えを教えてくれた。


「このゲームの生産ってな。難易度が凄く高い事で有名なんだよ」


 へぇーそうなんだ。全然そんな事なかったから分からなかった。


「そして、その中でも鍛冶は難易度もとい、鬼畜度が桁違いだって言われてる。いまの最高級武器が鉄製の☆3の品質良なら買いって言われてるな」


「え、そんなナマクラが最高級なの?」


 あ、思わず口走っちゃった……


「……☆3をナマクラって、メルお前何をやらかした?」


 あー、やらかした。言い逃れは……出来そうにないや。しょうがない素直に出そう。

 私はインベントリから昨日作った鋼の片手剣を取り出してブレイブに渡す。

 片手剣のステータスを見るなり、ブレイブ達は呆け、すぐに騒ぎ始める。


「お、おいおい、メル、鋼ってなんだよ‼」


「鋼も気になりますが、それよりも等級でしょう。☆6それも品質良となると間違いなく現行鍛冶のトッププレイヤーになりますね」


「うわー、五人目の☆6生産者だね。しかも凄く性能高いよ」


「これは、他の方々にバレたらメルさんが大変な事になるんじゃ……」


 えっと、何でそんなにテンションが高いのかな? しかもテッタが最後に不穏な事を言ってるよ!?

 その後も掲示板に載っけたら不味いとか、依頼が殺到するとか、四人から何やら不穏なワードが聞こえてくる。


「ブ、ブレイブ? そんなに不味い状況なの?」


「お、わりぃわりぃ、メルを置いてきぼりにしちまったな」


 それは別に良いんだけど……


「で、状況だけど、かなり不味いな」


「…………何で?」


「まず、第二の街周辺エリアの攻略が行き詰まっているって話はしたと思うが、あれは武器の問題もあるんだ」


 武器の問題、思わず目を細めてしまう。


「このゲームで、mobの素材を使った武器はまだない。そうなると、木工か、鍛冶の金属武器しかないんだ」


「おまけにmobは武器とか落とさないからね~」


「落としても、錆びたとか、朽ちたとか枕についていて、耐久値のついた劣化初期武器みたいな扱いですしね」


 つまり、武器の大半は鍛冶師が必要って事、か。


「で、武器の質が低いと、mobに攻撃が通りにくくなる。例えるならガタガタの包丁で堅い材料を切ろうとしてる感じだな」


「更に酷いとね。武器の耐久値がごっそり減るんだよ」


「確か、一回の攻撃だけで七割も減ったとか書いてありましたね」


 一回の戦闘にも耐えられないんじゃ、確かにそんなんじゃ狩りなんて出来ないし、攻略出来ないよね。


「そんな中、等級☆6、それも鉄製よりも上のランクっぽい素材で作られた装備があったらどうなるかなんて、分かるだろう?」


 あ、うん。分かった。


「それにメルさんはお店を開くつもりがないんですよね?」


「そうだけど」


 お店とかもとから開く気は無い。ブレイブとか親しい友人には武器を売っても良いと思うけど、まったく知らない接点の無い人にまで売ろうとは思っていない。


「そうなると、他のプレイヤー達から反感を買う恐れもあって、生産者なんだから店をやれなんて心無い事を言う方も中にはいるんですよ」


 生産をやっていたら店をやれって、物凄い横暴だと思うんだけど。話を聞いていると、まだ見ぬプレイヤー達に対しての感情がどんどんとマイナスへと向かっていく。


「それでも私はお店とかやる気は無いよ」


 私は面白いから鍛冶をやっているだけで、誰かに強制されてやりたくなんか無い。


「なら、メルの事は黙っているよ。それでいいよな?」


 私の気持ちを汲んでくれたブレイブに三人が頷いてくれた。


「で、話を変えるがこれから狩り行こうと思ってるんだが、お前その初期防具しかないんじゃ……」


「ない……かな」


 基本師匠の工房に籠りっきりだったから、防具なんて必要なかったし、買うペロンもなかったから、ね。

 すると、何でか四人から残念な娘を見るような目を向けられる。

 テッタに至っては見た目は凄く可愛らしいのになんて憐れまれている。


「一応初期防具は目立つから買いに行くか」


「買いに行くのは良いけど、私ペロンを持ってないよ」


 すると、ブレイブは言い難そうな表情をして、だから私は先回る事にした。


「だから、私の武器を買ってくれないかな?」


 インベントリから今まで作った武器達を取り出して行く。

 私の使う斧以外全てを取り出して並べると壮観の一言だった。

 ごめん師匠、二桁どころか三十近く間違えてたよ。


「全部鋼製なんだけど、どうかな?」


「いいのか?」


「うん。お店をやる気はないけど、ブレイブ達にならいいよ」


「え、ボク達も良いの?」


「リリウム達が私の武器でいいなら、だけど」


「ふむ。では甘えさせてもらって」


 クラウドの言葉を皮切りにブレイブとリリウム、クラウドの三人が武器を選び始めた。

 その間、テッタと話してたんだけど、テッタの武器は木製の杖なんだって。


 ブレイブは最初に出した片手剣をクラウドは鋼製の短剣二本、リリウムは鋼の戦鎚ウォーハンマーを選んだ。四つで合計200万ペロン也。

 もっと安くても良かったんだけど、ブレイブ達が最低でも一本50万はすると恐い顔をされ私が折れる形になった。そんな訳で一瞬で大金持ちになってしまった訳で、半ば満足している私がいるのだが……


「そんなはした金なんてあっという間になくなるよ?」


「装備を揃えたらすぐに無くなりますね」


「だな。メルの防具を全部揃えて、アクセまで手を出そうとしたら一瞬だな」


 え、なにそれ恐い。この人達と私の間にある金銭感覚が違い過ぎるんだけど……

 軽く引いていると後ろからぽんっと肩を叩かれた。


「大丈夫です。メルさんもそのうち慣れます。私もそうでしたから」


 もうね。何も言えなかったよ。


仕事してると書ける量が少ないですね。

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