第5話 クエスト
作中の鍛冶の仕方はある程度適当です。
調べたけど、なんちゃって鍛冶にしかならなかったよ……
8/6 メルのガンテツの呼び方を師匠に変えてます。
私が弟子入りしてからこっちの時間で20日が経過した。リアルではサービス開始から丁度一週間になる。
この20日の間で私はある程度の武器は作れるようになった。リアルで同じ事をするのは無理だろうから、ゲーム内の補正か何かだと思ってる。
武器とかが作れなかったら、ゲームが先に進まないし、スキルを持っていると補正がかかるって言ってたから、それで作りやすくなっているんだろうね。
「師匠、片手剣出来たよ」
師匠に今しがた出来たばかりの鋼の片手剣を渡す。
「おう。メル確認するぞって、お前さんまたやらかしてんじゃねえか‼」
この20日の間で、私達は互いに師匠、メルと呼び会うようになっている。
それよりも何故私はため息を吐かれているのか。解せぬ。
「あのなぁ、俺ぁ鉄の片手剣を☆3で作れって言ったよなぁ?」
あ……あはは、忘れてたよ。
「頼むからそんな忘れてたみたいな顔をすんな。そも忘れるな」
いやー、鎚を振ってるうちに愉しくなっちゃって、気付いたら鋼の片手剣になってたんだよねぇ。
そんな事を言ったら、材料選びの時点で間違えてるんだから、鎚は関係ないだろうとあきれられた。
「等級は申し分ないが、これぁ協会には卸せねぇから、お前さんが持っとけ、つか、このやり取りこれで何度目だろうなぁ? メル?」
えっと、既に二桁に突入してた筈。
気不味さのあまりに目を逸らすと、再びため息が聞こえて、次に頭をポムっとされる。
「ま、楽しくやれるのはいい事だ。頑張んな」
そう言い残して、師匠は店先に出ていく。
その背中を見送ってから再度、奥の方の工房へと向かう。
うん。失敗した分はちゃんと取り戻さなきゃね。
気合いを入れ直し鉄のインゴットを数本用意して、その内の1本を火炉の中に入れる。
十分に赤熱したのを見計らって、ハシで取り出し金床へ移し、鎚を振るう。
普段なら小割りをして、芯鉄と皮鉄用に分けた後、鍛練(下鍛えや上げ鍛え)をするんだけど、今回作るのは等級☆3だから、その手順を省く。
何度か鉄を打ち、また火炉に入れ、取り出し真っ赤な鉄を打って、また火炉へ。
ある程度、打ち伸ばしたら真ん中に鏨を入れて、二折りにする。
また火炉に入れ、また打ち、打ち伸ばしたら今度は縦に鏨を入れて二折りに、これを何度か繰り返して、剣の形に近付けていく。
茎(柄の中の部分)と切っ先、刃を作ったら、焼き入れをする為、藁灰で油分を取り乾かしてから師匠特性の焼刃土を塗っていく。
焼刃土を塗り終わったら、焼き入れと焼き戻しを行い、刀身の歪み等を軽く修正してから研いでいき、銘は彫らずに柄に入れて、実際の作業は終了。
その後は作成した武器のスロットを確認して、ボーナススキルを付与する作業に入る。
ボーナススキルには二つの種類があって、スロットを消費して作成者が付与する通常スキルと、mob(敵の事らしい)がごく稀に落とすアイテム(強化素材、スキル素材とか呼ぶらしい)を使用してスロット数関係無く一つだけ付与する事が出来る素材スキルがある。
今回は付与するスキルも指定されているから、さっさとやっていこう。
スロット数は1、そこに通常スキルの耐久値減少軽減 Ⅰを付与する。
残りのスロットがないからこれで完成っと結果は……
アイテム名 鉄の片手剣
等級 ☆3
品質 良
スロット 1
残りスロット 0
斬撃補正 11
打撃補正 1
刺突補正 8
耐久値 100/100
発動スキル
【耐久値減少軽減 Ⅰ】
評価
とある鍛冶師が作った鉄製の片手剣。等級を調整する為手を抜いて打たれた数打ち的な剣。
うん。分かってたけどナマクラだ。一定の水準で納品するって本当に大変だよ。おまけにこんなナマクラを作れって言うんだから、逆に疲れた。
同じく疲れるなら、本気で作って疲れたいと思い壁に立て掛けてあった鋼の片手剣を手に取る。
アイテム名 鋼の片手剣
等級 ☆6
品質 良
スロット 5
残りスロット 0
斬撃補正 31+5
打撃補正 5
刺突補正 27
耐久値 100/100
発動スキル
【耐久値減少軽減 Ⅱ】【斬撃強化 Ⅰ】
評価
メロディアが作り出した鋼製の片手剣。各所に工夫が凝らしてありとても扱いやすい。
☆6だが個別名は無し、なんで名前をつけないの?
評価があまり仕事をしていない件については、いつもの事だからこの際放っておこう。最後の質問に至っては無視する。
やっぱりこれぐらいの物を作りたいよね。ここを工夫したらどうだろうとか考えながら作るのが愉しくてしょうがない。
だけど、悲しい事に後数本はナマクラを作らなくちゃいけないのだ。
とても憂鬱になるけど、やらなきゃ数は減らないし、やるしかない。さっさと終わらせて自由に武器作りをしよう。
「ふぅ、やっと終わったぁ~」
「おう。お疲れさん」
長い苦痛の時間が過ぎて、気を緩めると、いつの間にか私の作業を見ていたらしい師匠に労いの言葉をもらった。
あれ? 師匠の雰囲気がいつもと違う?
「ちと出掛けるから、火消してついてこい」
「? 分かった」
言われた通りに炉の火を消して、店から出ていく師匠の後をついていく。
随分と長い事鍛冶をしていたらしく、空はもう茜色に染まっていて、夜になる前に引き上げてきた他のプレイヤー達が目立つ。
無言のまま進む師匠は迷う事なく人通りの少ない道に入っていき、ぽつぽつと売り地が目立つ中ひっそりと建ってる一軒家の中へと入っていく。何かのお店かな? そんな看板ぽいのはなかったけど……
後に続いて中へ入ると、中は広く奥に続く扉と二階へと伸びる階段が、何もないカウンターの向こう側にある。
売る物があればお店になる作りだった。
「師匠、ここは━━」
「ここは俺の師匠が使っていた工房兼店だ」
「師匠の師匠が使っていた工房……」
師匠にとって思い出の場所なんじゃ、師匠って事は師匠が弟子だった訳で、住んでいたのかは分からないけど、工房は使ってたんだよね。そんな場所になんで私を連れてきたのかな?
「メル、ここをお前にやる」
メル、ここをお前にやる? え、えーと、聞き間違いかな? そうだよね。だってくれる理由が見当たらないし、そもここは師匠さんの家だし。
「やるって…………」
「嫌か? ちゃんと掃除もしたし、ダチに傷んでる場所も手直しさせたんだが……」
「いやいや、嫌じゃないよ。貰えるなら凄く嬉しいけど、貰える理由がわからなくて……」
「理由、か。そうさなぁ。簡潔に言うなら師匠の遺言だからな」
頭を掻きつつ昔を懐かしむように師匠は師匠の事を語った。
師匠の師匠はこの街一番の鍛冶師だったそうだが、師匠が独立してから四年くらい経った頃、流行病で亡くなったらしい。
その時に、この工房の管理を師匠に任せる事、師匠が使ってもいいけど、もし使わないなら師匠が認めた弟子に譲って欲しいと遺言を受けたとの事だった。
師匠に認められたのは嬉しいけど、本当に私が━━
「師匠の遺言ってぇのも理由だが、もっと言うなら俺がお前にやりてぇって、あの斧を見せられた時にそう思ったんだよ」
「師匠、本当に私が貰っていいの?」
「おう。お前に使って欲しいんだ。それに、この工房も寝かしておくより誰かに使ってもらった方が幸せだろうよ」
「師匠、ありがとう。大事にする」
ポーン。
そんな無機質な音と共に私の目の前にウインドウが開く。
information──────────
クエスト ガンテツの内弟子をクリアしました。
評価 S
報酬 師匠の工房
発生条件
鍛冶師ガンテツに気に入られる事
達成条件
等級☆3の鉄製武器を十個製造する事
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うん。なんて言うか、この告知のせいで色々と台無しだよね。